第9話
「ん……」
ルナは重い瞼をあげて目をあける。どうやら馬車に揺られて村に戻っている時に寝てしまったらしい。リリアとネリスも馬車に揺られて眠っているようだった。
「あれだけ動き回れば眠くもなるよね」
リリアとネリスは今日一日中動き回っていたと言っても過言ではない。疲労から寝てしまうのも当然だろう。
「んん……あ、ルナ……」
「ああ、目が覚めたんだ? もう村の近くだし着いたら起こしてあげようと思ってたのに」
「私、寝ていたんですか?」
「うん。それはもう気持ちよさそうにね」
「それは恥ずかしいところを見られてしまいました」
照れながら笑うネリス、恥ずかしがる姿も可愛らしい。
「あれだけ付き合ったら疲れちゃうよね」
「でも楽しかったです、今日の買い出しは」
「よかった」
「また行けるように私もお金をなんとかしないといけませんね。今度は自分の稼いだお金で楽しみたいですから」
ネリスの言葉にルナはくすりと笑ってしまう。
「わ、笑わないでくださいよ」
「いや別に馬鹿にはしてないよ、むしろ感心してるし。まあもし今度街に行く時にお金が足りないことがあれば私とリリアがまた出すよ」
ルナとリリアは叔父の手伝いをした時などに自分の自由に出来るお金をもらっていた。今回のネリスの服の代金などはルナとリリアが一緒に出している。
「そ、そんなまた2人に負担させるわけにはいきません! 必ず私が稼いだお金で遊びます!」
「そ、そう? まあネリスなら大丈夫だろうけれど」
ネリスは教えたことを覚えるのが早いから叔父の仕事を手伝った場合でもきっとすぐに覚えてこなしてしまうだろう。お金を稼ぐことには苦労しなさそうだった。
「さてそろそろ村の近くだと思うけれど……えっ……?」
「? ルナ、どうかしまし……!?」
ルナが突然言いかけた言葉を飲み込んだため、ネリスも気になって彼女の視線の先を見て――絶句した。
「村が燃えてる……!?」
「一体なにが……」
ルナ達の村のあちこちから火の手が上がっていた。天に向かって燃える炎は日の暮れかけた空を赤く照らす。
「まさか……」
ルナが息を飲むのと同時に彼女達の馬車の前にあるものが現れた。
それは人の形をしていない恐ろしい怪物――影の眷属だった。
*
「あ、あれは……」
その姿を見た時ルナは凍り付いた。肉体は狼のような形をしており、瞳に当たる部分には赤い光が不気味に輝いている。
そしてもっとも特徴的なのは体の輪郭がぼやけており、黒い煙状のオーラをその怪物が纏っているということだ。このオーラは影の眷属特有のものである。
その狼の形をした影の眷属はルナ達の馬車を見つけるとこちらに向かってきた。
「に、逃げなきゃ……」
咄嗟に口をついてそんな言葉が出た、ルナは御者に命じて一旦遠くに逃げるよう指示をだそうとする。
「駄目です、囲まれてます!」
「!?」
気がついた時には馬車を取り囲まれていた。どうやら集団だったらしく、こちらを逃がすつもりはないらしい。
「……っ」
(叔父さんと叔母さんのことも気になるのに……!)
今は自分達がこの状況を切り抜けることを第一にしないとまずい。ルナは必死にこの状況を打開できる方法はないかを考え始める。
「お、お姉ちゃん……!」
いつのまにか目を覚ましていたリリアがルナの服を縋るようにつかんでいた。彼女の顔は恐怖の感情に染まっている。
「大丈夫」
ルナはそんなリリアを落ちつかせるため、彼女の頭を優しく撫でながら諭すように語りかけた。
「私がなんとかしてみせるから」
ルナも恐怖を感じていたがリリアやネリスを護らないといけない責任感からなんとか冷静さを保っていた。
しかしルナが考えている間にも影の眷属達はじりじりと馬車との距離を詰めてきている。撃退するのが無理ならなんとか包囲の穴を見つけてくぐるしかないがそれも見当たらない。
(私が囮になって相手の注意を惹きつけるしか……)
そんなことを考えていると頭に痛みが走った。
「痛っ……」
続いて声が頭の中で響き渡る。
「ミツケタ、ホシノチカラヲモツモノ。カナラズコロス」
響き渡った声は人のものとは思えなかったが明確な殺意だけは伝わってきた。
(星の力を持つ者ってなに? 一体誰のこと?)
次から次へと分からないことが増えてルナはどうにかなりそうだった。
ふとネリスのほうを見ると彼女は無言で影の眷属を見つめていた。その視線にはぞっとした冷たささえ感じる。やがて彼女は馬車から降りるとそのまま影の眷属のほうへと歩いていく。
「ちょっ……ネリス……!?」
ルナは慌てて止めようとするも頭痛で上手く動けない。やがて眷属達が襲いかかれる距離にネリスが至り、影の眷属の一体が動いた。
「ネリス……!」
ルナが叫ぶが影の眷属は止まらない。ネリスを殺そうと襲いかかり――。
「えっ?」
ネリスの手に握られている漆黒の件で喉を貫かれていた。
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