第8話
「ねえ、お姉ちゃん一つ提案があるんだけど」
目的の街について叔父から頼まれていたものもすべて買った後、リリアが突然こんなことを言い出した。
「どうしたの? なにか問題でも起きた?」
「ううん、そうじゃないよ。ただ一つ気になることがあってさ」
「なによ?」
「そのネリスさんが着てる服ってお姉ちゃんのものを使い回してる?」
「あー……」
ルナは聞かれてリリアがなにを言おうとしているか思い当たったようだった。
「リリアの言う通りネリスの服は私が使わなくなったものを利用してもらっているわ。幸いにも体格も近かったからね……」
服に関しては今まで急な対応をしたためルナがもう利用しなくなったものを使う形でもいいかとネリスに聞いて彼女がいいといったからそのままにしていた。叔父や叔母もネリス用に綺麗な服を買うと言ったがネリスが世話になっている身でそんな贅沢はできません、これで十分ですと拒否してしまったのだ。
「ネリスさん、そんなことを言ったんだ」
「うん、本人は居候みたいな形だったから服を買ってもらうのは気がひけたんだと思う」
「うーん、なるほど」
リリアは顎に指をあててしばらく考え込む。そしてなにかを決意したようにルナのほうを見た。
「だったらさ私達でネリスさんに服をプレゼントしない?」
「!? それはいいね、ナイスアイデア」
リリアの提案にルナも賛意を示した。プレゼントという形であればネリスも受け取ってくれるだろう。
「そうと決まればネリスさんを連れて街の服屋さんに行こう。おーい、ネリスさん」
方針が決まるとリリアは善は急げと言わんばかりに行動を開始する。少し離れたところにいたネリスはリリアの声に気付いてこちらを向いた。
「どうしました、リリアさん?」
「お姉ちゃんと話してたんだけどネリスさんにプレゼントを買おうって話になったの。だから今から一緒に服屋さんに行こう!」
「私にプレゼントですか?」
「うん、ネリスはいつも遠慮してなにか欲しいとか言わないし。だから私達のほうでネリスにプレゼントをあげようと思ってさ」
「い、いいんでしょうか……? 居候の身の私がそんなものをもらって」
「いいんだよ、ほら、行こう」
「そうだよ! 遠慮しないで! 私達がしたいんだから!」
「きゃっ……!」
ルナとリリアに強く手を引かれ、ネリスは彼女達の後に続いた。
*
「はい、じゃあ次はこれを着てみて! ネリスさん!」
「~~~~っ!」
私達は街の服屋にネリスを連れてやってきていた。服屋に着くなりリリアはネリスに似合いそうな服を張り切って探し始めた。
そして現在の状態に至る。
「あの……リリアさん、この状態はとても恥ずかしいのですが……」
「恥ずかしがることなんてないでしょ。ネリスさんに合う服を考えてきてもらってるんだから。よし、次はこれだ!」
リリアの勢いに押されてネリスは着せ替え人形のような状態になっていた。ネリスはこの状態をとても恥ずかしがっており、涙目になっている。ルナは横でこの状態を眺めていたが、ネリスに同情すると同時に彼女の涙目は正直可愛いと思ってしまった。
(しかしリリアの言うとおり、服をちゃんと選んで着たらネリスはやっぱり綺麗だな)
ネリス自身は人形のように綺麗なのでリリアも可愛いタイプの服を選んでネリスに着せている。リリアの目も確かなもので選んだ服は確かにネリスに似合っていた。
リリアに着せ替えられているネリスのことをお店の店員も見ている。彼らにとってもこれだけ美しい人が来るのが珍しいのだろう。
(リリアが選んだ服も悪くはないけれど……もっと別のタイプの服を選んでもいいかも)
そう思ったルナはネリスに服を着せ替えることに夢中になっているリリアに声をかけた。
「ねえ、リリア」
「む? どうしたの? お姉ちゃん?」
「こういう感じの服はどうかな? 可愛い雰囲気のもいいけれど落ちついた雰囲気の服もネリスは似合うと思う」
ルナが選んだのは余計な装飾があまりなく、色も落ちついた服だった。
(ネリスはこういうのを着たら大人っぽく見えて悪くないと思うんだけどな)
「こういう雰囲気の服も悪くないかも。ネリスさん、お姉ちゃんが選んだ服も着てみて」
「は、はい」
リリアからルナが選んだ服を手渡されたネリスは試着室のカーテンを締めて着替え始める。
「お待たせしました」
ネリスがルナが選んだ服を着て試着室から出てきた。ルナの考えていた通り、ネリスの印象を少し大人びたものに見せている。
「お姉ちゃん、やるなあ。凄く落ちついて見えて素敵」
リリアも似合っていることに納得しているようだ。ルナは心の中で拳を握った。
「この服は買っちゃおう。でもまだまだ着てもらいたい服があるから覚悟してね、ネリスさん」
「ひえええ……!」
まだまだ着せ替え人形状態が続きそうなことにネリスは悲痛な声をもらした。
*
「あー、今日は楽しかった!」
リリアが楽しそうに大きな声をあげる。今ルナ達は買い物を済ませて帰りの馬車に乗っていた。今日の買い出しにとても満足しているリリアとは違って、ネリスは少し疲れているようだった。
(まあ、あれだけ連れ回されたら仕方ないか)
ルナはそんなネリスを見ながら心の中で苦笑する。服を選んだ後もリリアはネリスとルナを連れ回して街を回ったのだ。ネリスも楽しそうではあったが流石に疲れが出てしまったらしい。
(疲れたのは私もだけどね、でも本当に楽しかった)
ルナも疲れてはいるが久しぶりにこんなに楽しい時間を過ごした。リリアが最初一緒に来ると言った時はどうなるかと思ったけれど、おかげでいい時間を3人共過ごすことが出来た。
「リリア」
「ん? どうしたの? お姉ちゃん?」
「ありがとう、今日はあなたのおかげで楽しかった。こんなに楽しかったのは久しぶり」
「えへへ、そんなに褒められると照れちゃうな」
リリアはルナの褒め言葉に嬉しそうにしていた。
「ルナ、そしてリリアさん」
ルナのリリアが会話していたところへネリスが割って入ってきた、少し考えてから彼女は再び口を開いた。
「今日は本当にありがとうございました。2人のおかげで新しい服もいただきましたし、面白いところも見ることが出来ました。とても楽しかったです」
「そうそれはよかった」
「そう言ってもらえたら私もネリスさんに街を案内した甲斐があったよ~」
「リリアが今日一番張り切ってたからね」
「ふふ、リリアさんには本当に感謝しています。あの……」
ネリスはなにかを言いかけて黙ってしまう、なにか遠慮しているのだろうか。
「ネリス、遠慮なんてしないでいいから思ってることを言って」
「ルナさん……」
「私とリリア相手なんだしもっと気楽に話してよ」
「その……今度またこういう機会があったらまた一緒に行きたいです……」
ネリスのお願いにルナとリリアは思わず吹き出してしまう。
「わ、私、なにかおかしいことを言ってしまったでしょうか……!?」
「ううん、そんなお願いならいいに決まってるでしょ。変なところで遠慮して」
「そうだよ、お姉ちゃんの言う通り。また3人で一緒に来よう! それからネリスさん、私に対してもさんは付けなくてリリアでいいよ。もうかしこまられる間がらでもないしさ」
「……は、はい……! ありがとうございます!」
3人を乗せた馬車は明るい雰囲気に包まれながら、村への帰路を進んでいった。
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