第7話
「ルナ」
ある日、ルナは叔父から呼び出しを受けていた。なんとなく要件に関しては察しがついていたがルナは大人しく叔父の話を聞く。
「なに、叔父さん」
「そろそろネリスさんも村の外のことを知っていい時だ。いつも行っている街の買い物に彼女を連れていってあげなさい」
叔父は商売を営んでいるため、時々近くの街に仕入れにいく。それをルナが代わりに行ったりしているのだ。叔父もここで生活する以上そろそろネリスにもそういったことを覚えてもらおうと思ったのだろう。
「うん、分かってる、村のことにはもう慣れてきてるしね」
ネリスは物覚えもよくもう大抵のことはこなせるようになっていた。そろそろこの村以外にも足を運んでいいのではとルナも思うようになっていた。
「流石だな、ルナ。お前はよく人を見てくれている、本当に助かるよ」
「私が見つけてきたからネリスのことは私が責任を持って私が面倒を見るよ」
「頼もしい限りだ。じゃあもうこの件はルナに任せるとしよう」
*
「というわけで今回は街での仕入れにネリスも一緒に来てもらうよ」
叔父と話した後、ルナはネリスに事情を説明した。
「話は分かりました。……楽しみです、街がどんなふうになっているのかとても興味があります」
「ふふ、きっと楽しいだろうから安心して。私もしっかり案内するからね」
ルナが得意げに言うのと同時に部屋の扉が力強く開けられる。ルナもネリスも何事かと思って扉のほうを見た。
「お姉ちゃん! 私も一緒に連れていって!」
元気よく部屋に入ってきたのはリリアだ。彼女はルナに駆け寄ると彼女の服を強く掴んで懇願してきた。
「ねえ、いいでしょ! 私もネリスさんと一緒に楽しみたいよ! お姉ちゃんばっかり部屋でいい感じにネリスさんと話してるしさ」
「そ、それは本の感想を話したりしてるだけだよ」
「それでも羨ましい! 私もネリスさんとお話したりおでかけしたりしたいよ!」
どうやらネリスがルナの部屋に入り浸っていることに不満が爆発したらしい。これは連れていくというまで引き下がらなさそうだ。
「……分かったわ、一緒に買い物に出かけていいか叔父さんに掛け合ってみる」
「やったー! ありがとう!」
*
あの後、ルナは叔父にリリアを連れていっていいかの確認を取った。叔父は話を聞いた時は考えこんだが最終的には許可を出してくれた。きちんとリリアのことを見ていてやってくれと言われたが。
「ふんふ~ん」
現在、ルナ達は叔父が用意した馬車に乗って街へと向かっていた。リリアは許可が出たことが嬉しかったのかとても機嫌がいい。
「よかったね、リリア。一緒に行ってもいいって許可が出て」
「ふふ、これで私もネリスさんと楽しめるよ」
「今日は2人と一緒に街に行くことができてとても嬉しいです」
ネリスも機嫌がよさそうだった。好奇心は強いほうだからこういうことはきっと楽しいのだろう。
「それでさ、ネリスさん。お姉ちゃんといつもどんなことを話してるの?」
リリアが目を輝かせながらネリスに尋ねる。この調子だと馬車に乗っている間はずっと質問責めになりそうだなとネリスは思った。
「なにをですか……。ん~、本当に他愛のない話ですよ、今日どんなことがあったとか読んだ本の感想を話したりしています。後はルナから本を借りて読んだりですかね」
「ネリスさんもお姉ちゃんと同じで本が好きなの?」
「ええ、本は好きですよ。知らないことを知ることができますし、物語は心を動かしてくれますから」
「へえ……本をいっぱい読んでるのお姉ちゃんくらいしか知らなくてさ。お姉ちゃんとそういうことを話せる人は初めてみた」
「そうなのですか?」
ネリスがきょとんとした表情を向けてきたためルナは頷いた。
「うん、お姉ちゃんはあの村で多分一番本が好きだよ。でも夢中になると人の話が聞こえなくなるんだ」
「まあ……」
「リリア、そんなことをネリスに教えなくていいんだよ」
「えー、お姉ちゃんの面白い話をネリスさんに教えてあげたいんだもん」
「教えなくていいです!」
頬を膨らませてリリアをしかるルナ。リリアはそんなルナの様子を見てくすくすと笑っている。ネリスもつられて笑い出した。
「ネリス!、笑わなくてもいいでしょ」
「すいません、でもルナの面白い話はもっと聞きたいです」
「ちょっ! なんでそこで乗り気になるの!?」
「あはは! それじゃネリスさんにお姉ちゃんの面白い話してあげる」
こうして3人は馬車に乗っている間、ルナにとっては恥ずかしい話が繰り広げられることになった。
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