第5話

「……話はとりあえず分かった」


 リリアとの気まずい邂逅の後、ルナはネリスのことを叔父と叔母二人に説明した。


「ルナ、君が1人で抜け出して行動したことは後できちんと注意するとしてだ」


「うっ……!」


 叔父からの冷静な指摘にルナは罰の悪そうな顔をする。確かに影の眷属が近くに出没するという情報が出ていながら1人で日も暮れた時に出歩く行為は決して褒められたものではない。


「ネリスさんのことは理解した。彼女もこの家のことを手伝ってくれるというのならこの家で生活を送るということは問題ないよ」


「本当? ありがとう、叔父さん」


 自分に余裕があるのもあるのだろうが叔父の優しさには本当に助けられている。ルナは深々と頭を下げた。


「ネリスさんもそれでいいのなら、私達は歓迎するよ」


 叔父は穏やかにネリスに語りかける、柔らかい笑みはネリスの緊張も少し和らげたようだ。


「ありがとうございます。こんな素性もよく分からない私を置いてくださって」


 ネリスは頭を下げてお礼を述べるネリス。実際どうしようかと本人も不安だったのだろう。


「いいんだよ、ルナはよく人を見ているんだ。そのルナが大丈夫と思って連れて来ているんだからね。もちろんこの家にいる以上、やるべきことはやってもらうよ」


「はい、もちろんです」


「叔父さん結構人使い荒いから気をつけてね……」


「ルナ?」


「はいい! す、すいません!」


「お姉ちゃんはまた余計な一言を言う~。いっつもそうなんだから」


 叔父に叱られるルナを見て、リリアはくすくすと笑う。この話し合いの間、ルナはずっと居心地が悪そうだった。


「さて私から言うべきことは伝えた。ルナ、ネリスさんにこの村のことを案内してあげなさい」


「はい、分かりました。それじゃネリス、部屋に戻って準備をしてから村を見て回ろうか」


 ルナとネリスは席を立ち上がり、ルナの部屋へ戻る。


「仲がいいのですね」


「えっ?」


 部屋に戻って用意をするとネリスが急にそんなことを言い出した。


「いえ皆さんが大変仲のいい家族だなと思って。素敵だなって」


「あー、まあ家族というには少しいろいろあるけれどね……」


「?」


「とりあえずそのことについてはまたゆっくり話すよ。今は村のほうを案内するから。ほら、行こう」



 家族との話し合いの後、ルナはネリスを連れて村を案内した。元来、この村は外部からやってくる人間が少ないため、おのずとネリスには注目が集まった。

 2人で村を回っている最中は皆ネリスに対して質問責めにしたため、思ったより村を回るのに時間がかかってしまった。家に戻ってくる頃には2人ともへとへとになっていた。


「み、皆さん、積極的でしたね……


 ネリスが疲れ果てた声で言う。村の皆の質問にもネリスは丁寧に答えていたからこんなふうに疲れるのも当然だろう。


「ご、ごめんね、ネリス………皆、好奇心旺盛で………でもここまで質問責めにされるとは思わなかった……


 ルナも疲れ果てた声でネリスに謝罪する。確かにネリスのような見目麗しい美人が突然現れたら興味を持つのは無理もないとは思うけれどルナとしてもあそこまで皆がネリスに注目するとは思っていなかった。人の好奇心は恐ろしいものであるとルナは今日の一件で心に刻んだ。


「いえ、ルナが謝ることではないです。皆さん敵意はありませんでしたし。ああいう行動をされたのは純粋な好奇心からですから。こちらも村の皆さんの人柄を知れて良かったです」


 にこやかに笑うネリス。なんというかおおらかな性格をしてるなとルナは思った。


「ネリスはよくそんなふうに許せるなあ。私だったら耐えられなくて怒っちゃったかも。今日みたいに質問責めにされて我慢する自信はないなあ」


「ふふ、いろんな人と話すのは楽しいです………こう感じるのは私になんの記憶もなく、人間関係を積み上げていくのが必要だからかもしれませんけれど」


「………」


「重く捉えないでください。今日の出来事を経て一つ確信したことがあります」


 ネリスはルナのほうへ歩みより手を握る。ほのかな手の温もりがルナへと伝わってきた。


「ルナ、私はあなたに出会えてよかった。これが別の人と出会っていたらここまでいい状況にはならなかったかもしれません。これからいろいろと迷惑をかけることになるとは思いますけどよろしくお願いしますね」


 真剣に自分のほうを見つめながら感謝の気持ちを述べられルナは恥ずかしさから頬を赤くして視線をネリスから逸らす。


「そんなに真剣に感謝されると照れ臭いよ、嬉しいけどさ。でもありがとう、そう思ってもらえるならあの時助けた甲斐があったよ。私のほうこそこれからよろしくね」


「はい、よろしくお願いします」

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