第3話
「は~、疲れたあ!」
一日家の手伝いをして疲労困憊となったルナはそのままベッドに倒れ込む。そのまま大きく体を伸ばした。
「やっとゆっくり出来る。読んでなかった本でも読もうかな」
家の手伝いなどを済ませた後はルナは大抵本を読んで過ごしている。叔父が商売で村から出た時にたまに持って帰ってくる本を読むことがルナの楽しみの一つだった。
「あ……」
一冊の古びた本が目に入る。装丁は痛んでいるところがあり、決して見た目が言い訳ではない。けれどそれはルナにとってもっとも大切な本だった。
「さっきの食事の時に影の眷属の話とかしちゃったからかな。この本が目に入ったの」
その本は朝食の時に話題となった星の紡ぎ手について書かれた本だった。そしてルナの母の形見でもある、ルナはこの本の内容を母が読み聞かせてくれるのが大好きだった。
「お母さん……」
母がなくなった時のことは今でも覚えている。ルナを護るために母は襲ってきた影の眷属と戦って命を落とした。
「星の紡ぎ手の力が私にもあればなあ。そうしたら……」
そうしたら皆が影の眷属に怯えているこんな時も母と同じように皆を護ることが出来るかもしれない。母を失った時と同じ悲しい思いをしないで済むかもしれない。
「……そんなこと願ったって仕方ないんだけどさ」
ルナは頭に浮かんだ考えを振り払って別の本へと手を伸ばす。そして再びベッドに寝転がって本を読み出しだ。
(……駄目だ、一回思い出したら頭から離れてくれない)
手に取った本を読んでいる時ももやもやした気持ちが消えてくれなかった。仕方なく本を閉じて起き上がる。
「……うーん、まったく集中出来ないや。仕方ない、いつもの場所にいくか」
気を紛らわすためにルナは体を動かしたかった、どこに行こうかと考えた時に思い浮かんだのはいつもの星が綺麗に見えるあの場所だ。
「あそこならなにもかも忘れて星を見ることだけに集中出来るからね。もちろん影の眷属には気をつけないといけないけれど」
丁度外も日が暮れて来ていた、あの場所に行くにはいい時間だ。ルナは外に出る用意をするとこっそりと家から出て、いつもの場所に向かった。
*
ルナがいつも星を見ている場所はルナだけの秘密の場所だった。村からちょっと離れたところにある小高い丘だった。その場所を見つけたのは偶然からだ。ルナは度々村の外へ出て周囲を探索していた、叔母からは時々たしなめられていたけれど。
その探索で見つけたのがあの場所だ。人が来ず、静か、おまけに星が綺麗に見えるということでこの場所はルナのお気に入りの場所になった。
「あそこは本当にいい場所を見つけたよ~」
その場所に向かっているだけで気分が高揚する。ルナは足取り軽やかに自分の秘密の場所に向かっていた。日はすっかり暮れて星が空に見え始めている。
前方に視線を向けるとルナの表情が強ばった、人影のようなものが見えたからだ。
「!?」
ルナはとっさに身構える。もしかしたら影の眷属かもしれない、逃げられる用意をして身構えていると、その人影が消えた。
「えっ?」
驚いたルナが影が消えた場所に向かうとそこには一人の人間が倒れていた。
「よかった。影の眷属じゃなくて」
これが影の眷属だったら全力で逃げないといけないところだった、とりあえず最悪の自体は避けられたことにルナは安堵する。
「でもこれは……」
ルナは倒れた人物を観察する。その人物は1人の少女だった。美しい肩くらいまである黒髪に透き通るように白い肌は少女の存在を余計に非現実的なものに思わせる。
「……綺麗」
ルナは思わず声を漏らしていた。慌てて首を振って気持ちを切り替える。
(なにを考えてるんだ私は! そんなことよりこの子がどんな子なのか調べないと)
倒れていた少女を改めて観察してみる、意識はないようだが呼吸はきちんとしている。とりあえず命が危険だということはないようだ。
「……でも傷の手当てはしないと……」
傷の手当てをするならここでは難しい、村へとなんとか連れて帰らないと行けない。
「んっ……」
「あっ……」
ルナが少女を村にどうやって連れていくかを考えていた時、少女が目を覚ました。
少女は状況が把握出来ていないようで周りをきょろきょろと見渡した後、ルナを見つめる。
「あなたは……誰?」
首を傾げてルナに尋ねてくる少女、その姿も妙に絵になるなとルナは思ってしまう。
「って、そうじゃない!」
「?」
いけない、つい口に出てしまった。今は相手のことを知ろう。
「あなた、名前は? それにどうしてこんなところで傷を負って倒れていたの?」
ルナの質問に黒髪の少女は少し考えこむ素振りをして答え始めた。
「名前は……ネリス。ここで倒れていた理由は……ごめんなさい、思い出せない……」
少女は顔を伏せて申し訳なさそうに答える。
(嘘をついているようには見えないわ)
ルナは少女が嘘をついているようには見えなかった。こちらに危害を加えてくる様子もない、なら、
「ねえ、あなたはその怪我を直さないといけないわ。とりあえず私の住んでいる村まで来て」
傷を負ったただの少女を放っておくわけにはいかない、とりあえず村まで連れていくことにルナは決めた。
ネリスと名乗った少女はルナの言葉に一瞬驚いた表情をしたが首を縦に振り、ルナの提案を受け入れた。
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