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私が一歩踏み締める度に、彼の言う気難しい木々から落ちてきた枯葉が、乾いた寂しい音を立てた。そうして踏み締める度に、声をかける前の、彼の寂しげな、まるで風化した木立のような乾いた背中を思い出す。
その境界線があるのを、私は知った。走ってきた時には、気づかなかったのだ。そんな物があるのを。あるのは当然なはずなのに。
乾いた木々と、青々と茂った木々。葉を付けた生きた木々と、まるで既に死を味わっているかのような風情の、ただ、そこにあるように見えるだけの木。
テレーザの実が、不自然な程に、いや、きっと不自然なのだろう。その筈だ。その境界線をまたいだすぐ傍に、桃色の肌をひけらかし、太っている。
一瞬、その肌にもこのナイフの刃を突き立ててやろうかとも思った。美味しいのか、甘い果汁が出るのか知らないが、ただ、その果肉から、内臓から溢れ出る汁の色を見てみたいと思った。その色が、痛みや苦しみを反映しているような気がして。
見上げながらそう思ったが、結局私はナイフを取り出すこともせず、仲間の元へ戻るために歩き始めた。
「なんだ、船長はそこだったか。やっぱりかあ」
ペルドンがバンダナから漏れた金色の前髪を掻き上げながらそう言った。また、ということは、やっぱりこの人は知っていたんだ。ある程度、船長のことを。それはそうか。
仲間は既にテレーザで一杯の籠をそれぞれ背負い、今は一刻が経ったことを知ったのだろう、一人一人、緩やかな動きで船へと帰っていっている。
「お前が船長からどこまで聞いたか知らないが、俺は船長のことを尊敬しているんだ。他の奴らから、どんなに妄執的だとか言われても。勿論、その意見も、お前がどういう意見や気持ちを持っていても、尊重するつもりだ。俺はそういう男だからな」
仲間は少し揶揄うような笑い声を上げながら、船へと戻っていく。私は彼の、船乗りにしては白い顔を見上げながら言った。
「彼は、ポレーヌ船長は、本当は私に見られたくなかったみたいでした。少し考えれば、分かった筈なのに。ほんと、余計なことをした。黙ってテレーザの実を集めてたら良かったのに」
「でも、テレーザ、もう集めてるじゃん。そんなに自分を責めることないぜ。別に船長、奥さんのことひた隠しにしてる訳じゃないからな」
「でも……私、自分の為に彼のことを気になってた。ほんと、子供だ。見られたくない世界が人にはあること、私は……」
私の頭に、ゴツゴツとしたアルパンのような感触を感じた。バンダナの上で、その彼の掌が、わしわしと撫でるように動くのが感じられた。
「イレイヌ。お前、自分のことを責めすぎだ。今、幾つだよ? 十才かそこらだろ? 俺なんか、その頃は分からないことだらけで、ミスばっかりで、いっつも先輩の船乗りから殴られてばっかりだった。勿論船長からも。
でも、お前は違うじゃないか。仕事もすぐ覚えるし、ミスも少ない。動きは早くて正確で、本当、船乗りのために生まれてきたみたいな、こう言っちゃなんだが……逸材だと思うぜ、俺は。
あとさ、世界は広いんだ。塞ぎ込みそうな気持ちになったら、とりあえず上を見上げて、風を感じてみな。そうすりゃ、肺に空気も入ってくるし、自分の世界の狭さにも気づけるってなモンだよ。
まあ、これ、彼女からの受け売りなんだけどな……」
彼が話し終えた時には、既に仲間たちは姿を消していた。上を見上げると、彼の快活な笑顔が、白い歯と共に見えた。
「あんまり気にすんな。何て言ったって、俺たちは空挺賊なんだからな」
「空挺賊……」
「そ。風と対話してりゃ、俺たちはそれでいいんだよ」
そう言うと、彼は私から掌を離し、振り返って籠を担ぎ直して、片手を上げて歩き始めた。
私も慌てて籠を背負い、その背中を追って、歩き始めた。
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