第16話

梨花は毎日弁当屋に来て、店長の裕司と親しく話している。

これが続くのは嫌だ。


考えた愛美は、梨花に言った。

「総菜を増してることを店長に気付かれたの」

「だから、もう店には来ないで。その代わり家まで届けるわ」


我ながらいいアイデアだと思った。


ところが、次の罠に掛かってしまった。


「いいわ、ちょうど飽きたし」

「え?」

「アンタんとこの弁当に飽きたから、もっとイイもの食べたいの」

「だから」と梨花は愛美を見た。


「とりあえず1万円貸して」


1万円? 愛美には大金だ。出し渋っていると、

「あの頃は儲かったね。女子高生ってだけで、バカが払うから」

愛美は何も言えない。ただ梨花を見る。


「1万円くらいあるでしょ? 知ってるよ」

梨花がニヤリと笑った。

「バットを買うんだって?」


もうすぐ壮太の誕生日だ。

プレゼントをねだる息子じゃないけど、壮太の金属バットは古い。

新品を欲しがっているのは判る。


「今年のプレゼントはバットね」

「いいの? 嬉しい! ホームラン打つからね!」

喜んだ壮太が野球部で話したようだ。


「つまりさぁ、1万円くらいあるってことでしょ」

「それは……」

「だから、1万円貸して」

ここから梨花の「お金貸して」が始まった。

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