第15話
愛美の住む団地には自治会があり、
3ヶ月に一度、住民総出の『掃除の日』がある。
階段や駐車場などの共用場所を、揃って清掃する決まりだ。
住民の親睦も兼ねているが、
若い世代やシングルマザー世帯には、面倒くさい。
愛美は「梨花も嫌がってるだろうな」と思ったが、
梨花は、ニコニコ笑いながら集合場所の駐車場に現れた。
自治会長や、長年住む高齢者に愛嬌を振り撒いている。
「美人で優しい人が入居したね」
「団地が華やかになったよ」
積極的に掃除する梨花に、住民は大喜びだ。
掃除が終わって、雑談する住民の一人が声を上げた。
「えっ! 4階の斎藤さんと同級生だったの?」
離れた場所にいた愛美はギクッとした。
「えっ? なに? なに?」
住民が梨花の周囲に集まる。
「小林さんと斎藤さんって、高校で同じクラスだって」
「へぇ、奇遇だねぇ」
「二人はどんな高校生だったの?」
梨花はチラッと愛美を見た。
愛美はドキドキしている。変なことを言わないで!
「普通の女子高生でしたよ。でもね」
梨花が小声で何か言っている。
話を聞いた65歳の自治会長が、愛美に向かって言った。
「斎藤さん、意外だね」
えっ? なに? 何を言ったの?
愛美は息を飲んだ。
「体育が得意で、足が速かったんだって?」
「あ、あ……、そうです……」
住民が会話を続ける。
「意外じゃないよ。息子が野球上手いじゃない」
「あ、そうか」
気が抜けて座り込みそうになる愛美を、梨花が意地悪く見ている。
梨花は『掃除の日』以来、団地の住民と仲良くなった。
愛美は梨花が誰かと話していると、
自分のことを言われている気がして落ち着かない。
弁当屋に来て総菜を無心する。
野球部の『お茶当番』を押し付ける。
団地では住民と話す姿を見せつける。
家には洗濯物を持ってくる。
スマホが鳴ると、ドキドキして胸が苦しくなる。
愛美は気が休まる暇がなくなった。
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