第17話

「ウチの子もバットが欲しいんだって。アンタの子が見せびらかすからだよ」

壮太はそんなことしない。言いがかりだが、1万円貸した。


「グローブも欲しいんだって」

壮太に買ってやりたい! でも2万円貸した。


「スマホ代が払えなくて止められそうなの。3万でいいから」

止められたらいいのに、と思ったが3万貸した。


「弁当屋に行けなくなって食費に困ってんのよ。5万貸してよ」

梨花が来ることを思えば、貸した方がいい。5万円貸した。


愛美は、弁当屋とコンビニの勤務時間を増やして金を貸し続けた。


「今月給料が少なくてさぁ。10万貸してくれない」

「洗濯機買うわ。ついでにレンジも。だから20万ね」

「実家の親が入院したのよ。30万ほど用意してくれる」


わずかな貯金は、すぐ無くなった。

カバンや服など、ネットで売れる物は何でも売った。

好きなミュージシャンのCDも売った。

結婚前から大切にしていたアクセサリーも金に換えた。


過去がバレることを思うと、怖くて誰にも相談できない。


貸した金は100万円を超えた。

よくもここまで搔き集めたが、もうこれ以上は無理だった。


あとは、壮太の学資保険を解約するかだが、それだけは嫌だ。


愛美は、また梨花に土下座をした。

「無理です。本当にごめんなさい」


梨花は足先で愛美の頭を突いている。

梨花が、また同じことを訊ねた。

「なんでこうなったか、解ってる?」


「解ってるわ」

21年前に援助交際したから、こんなことになった。

あの過去さえなければ……。


梨花は呆れた口調で言った。

「解ってないね」

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