第3話 苦手意識

 レースゲームの実況配信を終えてから三日が経った。

 今日は待ちに待った週末。視聴者が増える良い機会。この機会を逃すわけにはいかない。


 「今日は今流行りのホラーゲームをしよう」


 ホラーゲームは苦手だけど、面白い配信にしたい。けど、叫ぶのは程々にしよう。近所迷惑になるかもしれないしね。


 「防音だけど騒ぐのはやめた方がいいかな。音が漏れる可能性があるし」


 部屋は防音だから余程のことがない限り響かない。だけど、限度というものがある。そこら辺は注意しよう。


 「晩ごはんは準備オーケー。あとは配信時間か。何時にしようかな」


 あまり遅い時間にすると明日のアルバイトに響く。やはり、二十時が最適か。


 「サムネイルを作って予告しておこう」

 

 現在時刻は十七時。この時間帯は帰宅時間だ。サムネイルを上げておけば誰かしら見る筈。

 よし、上げよう。


 「これでよし。あとは配信時間を待つのみ」


 なんかおかしい。今日に限って疲れが……。


 「エナドリでも飲むか」


 エナジードリンクの力を借りるときが来た。飲んでしまえば、ある程度は頑張れる。


 「確かここに……」


 あった。エナジードリンク。


 「んっ……、ふぅ……」


 エナジードリンクを飲んだあと覚醒した。これで配信は大丈夫だろう。


 『ただいま~』


 未来が帰ってきた。お出迎えしなきゃ。


 「おかえりなさい!」

 「はるか、ただいま。ご飯の準備はできている?」

 「冷蔵庫に入っているよ。食べる前にチンして」

 「分かった。着替えてくるね」

 

 私も晩ごはんを食べよう。配信までまだ時間があるし。


 「未来、おかず温めておくよ~」

 「うん、お願い」


 今日の晩ごはんのおかずは生姜焼き。味は濃くなり過ぎないように注意して作った。さて、味の方はどうだろう。


 「味噌汁も温めておこう」


 今日はさっぱり系の大根の味噌汁。わかめも添えて完成だ。


 「お待たせ。食べよう」

 「うん」


 未来が大根の味噌汁を飲んだ。お味は……。


 「わあ~、美味しい。出汁が利いていて良いよ」

 「そう? ありがとう」

 「そう言えば、今日の配信は?」

 「二十時から一時間くらいするよ。でも、明日アルバイトがあるから早く寝ないといけないんだよね」

 「気を抜いて配信切り忘れしないようにね」

 「大丈夫だよ。そんなことないって」


 エナドリのお陰で眠気はだいぶ無くなっている。恐らくないだろう。


 「生姜焼きも美味しい! はるかの料理って何でこんなに美味しいんだろう」

 「さあ、愛情を注いでいるから?」

 「そうなの? 嬉しいな」


 そこまで嬉しそうにされると照れる。まったく、可愛い人だ。

 

 「ねえ、未来。配信しているとき、おかしいところはない?」

 「今のところはないよ。順調かな」

 「そう……、良かった」


 チャンネル登録者第一号の未来の意見を聞くのが一番良い。身近にいるし、指摘するところはしてくれる。


 「はるか、ごはん食べたらお風呂入るよね。準備しておくから」


 もう食べ終わっている。早い!


 「うん、ありがとう」


 さて、さっさと食べて食器の後片付けをしようっと。


 「美味しい」


 最後の生姜焼きを平らげた。よし、流し台に持っていこう。


 「はるか。今、湯船にお湯入れているから」

 「うん、ありがとう」

 

 食器の後片付けをし、湯船にお湯が溜まるのを待つ。

 今日の実況配信はホラーゲーム。反応するとき、わざとらしくないようにしよう。そうすれば、見ていて嫌にならない筈。今日の実況配信も上手くいくことを祈ろう。


 「はるか、もうそろそろいいよ」

 「うん。それじゃあ、お風呂に入るね」


 現在時刻は十七時半。まだまだ時間があるから、ゆっくり入ろう。


 「入浴剤は薔薇で良いかな」

 

 服と下着を脱ぎ、お風呂場に入ってシャワーを浴びた。そして、湯船に入浴剤を投入し、肩まで浸かる。

 ああ、気持ちが良い。頭が冴えてきた。


 「ホラーゲームか……。どれくらい怖いんだろう」


 今回、実況配信するホラーゲームは昔からある有名なゲーム。ゾンビが出てくるのが特徴だ。

 実は、ホラーゲームって苦手なんだよな。怖くなり過ぎて配信を切ってしまったら……、それこそチャンネル登録者が減って泣くことになる。しっかりするんだ、天音はるか。


 「ゲーム実況者として苦手意識を克服せねば」


 湯船から出て体の水気を払い、お風呂場から脱衣所に移動する。

 よし、頑張るぞ!


 「はるか、上がった? コーヒー淹れたから配信のときに飲んで」

 「うん、分かった。ありがとう」


 体をバスタオルで拭き、髪を拭いてドライヤーで乾かす。

 今何時だろう。


 「未来、今何時?」

 「十八時半だよ。まだ大丈夫だからゆっくり~」

 「分かった。ありがとう」


 配信まで一時間半。コーヒーを飲みながらのんびり待とう。

 それより、緊張がだいぶ和らいだな。これも未来のお陰だ。


 「さて、部屋に戻って配信の準備でもしようかな」


 下着と部屋着を身に着け、自室にこもる。

 未来が淹れてくれたコーヒーが非常に美味い。眠気が一気に吹き飛んだ。これなら配信中に居眠りすることはない。


 「苦手意識があるホラーゲームをいかに楽しくプレイするか……。うーん、難しいな」


 ホラーゲームの金字塔である〇〇〇ハザードを今回プレイさせていただく。特徴としては、ゾンビがうじゃうじゃ出てくるゲームで、色んなアイテムを探し、謎解きをしていくものだ。

 以前、初代をプレイしたことがあるけど、裏技を使ったからそんなに苦労はしなかった。でも、今回は自力でプレイすることになっている。

 クリアは二時間以上かかるから、前編と後編に分けて配信しよう。その方が視聴者も疲れない。


 「そうだ。FPSをプレイしている感覚ですればいいんだ!」


 まあ、FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)というよりTPS(サードパーソン・シューティングゲーム)だけどね。慣れれば怖くない。


 「配信は一時間後か……。ゲーム雑誌を読んでおこう」


 私は配信時間になるまでゲーム雑誌を読んで予習した。

 

 


 

 

 

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天音はるかは日向で輝きたい! 七瀬いすず @nanaseisuzu

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