第2話 ゲーム実況と高評価

 ――翌日。

 仕事を終え、帰宅した私はすぐに家事をこなし、早めの晩ごはんを食べて自室に籠った。

 今日は二日前にクリア寸前まで進めたゲームの続き。あとボスをふたり倒せばゲームクリアだ。しかし、そう簡単にはいかない。なんたって、ボスの乗っている車はフルカスタムされたものなのだから。

 

 「えっと、サムネイルをアップロードっと」


 昨晩作ったサムネイルをアップロードした。画像には、『残りふたり! ボス攻略!』と書かれている。我ながら分かり易いと思う。


 「配信は十八時開始にしよう。一時間くらいで終わるかな」


 個人勢で本格的にしているのは、今のところ私しかいない。お金だって結構かかった。だけど、今こうしてできているのは両親のお陰だ。

 全てではないけど、少し援助してくれたのは本当に有難いと思っている。両親の協力を無駄にしないように頑張らないと。

 よし、ゲーム実況者として成功するぞ。


 「配信の準備はこれでオーケーかな。それまで次の配信の計画を立てよう」


 次のゲーム実況は、今流行りのFPS(ファーストパーソンシューティングゲーム)をしようと考えている。FPSは意外と得意で勝率も結構高い。


 「初見だから最初は慣れるまでミスが多いだろうな。だけど、完璧にプレイしたら面白味に欠けるし、不慣れなところも見せないと盛り上がらないだろうな」


 操作が完璧で普通に倒していたら面白くない。たまに天然でミスをするのが面白いと言える。

 他にもやってみたいゲームはあるけど、それはまたの機会にしておこう。


 『ただいま~』


 ん? 未来が帰ってきた。まだ時間があるから声を掛けておこう。


 「おかえり~」

 「ただいま。あれ? ゲーム実況は?」

 「十八時からするよ。晩ごはんだよね。冷蔵庫に入っているから温めて」

 「うん、分かった。いつもごめんね」


 未来の仕事は事務員。定時に仕事は終わるが、仕事場まで距離があるので用事があるとき以外は十七時四十五分頃に帰宅する。


 「ごめん。部屋に戻るね」

 「うん、頑張ってね」


 部屋に戻ってパソコンチェアに腰掛けた。

 ヘッドセットよし。ウェブカメラよし。あとは時間が来るのを待つのみ。


 「あと五分くらいか。ゲームを起動しておこう」


 ゲームを起動してまだかまだかと待つ。

 この時が一番緊張するんだよね。初めて配信したときから変わらない。だけど、深呼吸をすればこの通り。


 「ふぅ……」


 よし、落ち着いた。これで配信できる。


 「カウントダウンが始まった。よし、やるぞ」


 カウントダウン終了後、雨宮ひなたが画面に表示された。


 「皆さん、こんばんは。バーチャルユーチューバーの雨宮ひなたです。今回は前回配信したレースゲームの続きとなっております。最後まで是非ご視聴ください」


 コントローラーを持って操作し、レースゲームのデータをロードした。キャラクター名はもちろん、雨宮ひなた。間違っても自分の名前にしない。


 「では、始めていこうと思います。まずは目的地を設定して走らせますね」


 操作している車は、バリバリ改造したスポーツカー。現実で作ったら一千万はするであろう車だ。

 

 「オラオラ、退け~」


 可愛らしい声で軽く叫びながら公道を走らせている。目的地には予定より早く到着した。


 「このポイントでレースに参加すればボスが出てきます」


 レースに参加した直後、ボスの出現ムービーが流れ始めた。


 「お~、強そうですね。車はスーパーカーか。大丈夫かな」


 レースが始まった。その直後、アクセルを全開にする。


 「ヤバい! 出遅れた! くそ~!」

 

 出遅れたが、加速がボスより速かったのですぐに追いついた。

 

 「あっ、こいつ、ぶつけてきた!」

 

 容赦なくぶつけてくる。公道レースって激しいな。でも、ボディを頑丈にしているから怯まない。用意周到とはこのことだ。


 「いける! いける! いける!」


 フロントノーズを突っ込ませて勝利した。なかなか白熱した戦いだった。

 これで、ボスはあとひとり。最終ボスが待っている。


 《チャット欄》

 :ひなたちゃん、強いね。白熱したバトル、これこそ公道レース。

 :最後にノーズを突っ込ませるなんて……、格好良い!

 :引き続き、ボスの攻略を。


 「あ~、勝てた。何回もぶつかってきたからびっくりしました」


 モニターに最終ボスの出現ムービーが流れている。クリアまであともう少しだ。


 「では、最終ボスのアジトに行ってみましょう」


 マップを開き、最終ボスのアジトまでの道順を表示させた。のんびりとドライブが始まる。


 「このゲームは警察が出現するんですよね」


 と言っているそばから警察が追っかけてきた。


 「何で? 逃げろ~!」

 

 最終ボスのアジトまで逃げ切るつもりで走っている。なかなか離れない。


 《チャット欄》

 :ひなたちゃん、路地裏! 路地裏に逃げるんだ!

 

 「路地裏? オッケー」


 警察車両との距離が離れたところで路地裏に逃げ込んだ。どんどん警察が離れていく。

 

 「ふぅ~、危なかった。ありがとう御座います。ナイスアドバイス!」


 警察車両が居なくなったところで表道に出た。今なら最終ボスのアジトに行ける。


 「よし、今だ!」


 少し走って無事に最終ボスのアジトに到着した。

 確か、ここで宣戦布告をするんだよね。


 『よう、やっと来たか』


 最終ボスのムービーが流れている。

 また、スーパーカーの改造車だ。なんて奴なんだ。金持ち過ぎる。


 「よ~し、やってやるぞ!」


 レースがスタートした。今度は遅れずスタートできた。でも、加速で負けている。


 「はっ、速い! でも、負けていない」


 コーナーを曲がる速さはこっちが上。あっという間に追いついた。


 「よし、ここだ!」


 インをついて最終ボスを追い抜く。その時の接触で最終ボスのスポーツカーが減速する。


 「今だ! 差をひらこう」


 インをついたのが功を奏したのか、無事ゴールを通過した。


 「おっ、終わった! やったぁ!」


 ん? なんかまたムービーが流れ始めた。勝ったことは勝ったけど、この流れは……。


 「また警察だ! 逃げなきゃ!」

 

 公道レースのお約束のようなエンディングだ。でも、逃げ切る自信がある。


 「これなら追いつけまい」


 警察車両をどんどん引き離す。そうしたら、仲間からの無線が入って逃走が一旦中止された。


 「あれ? エンディングが」

 

 最終的に逃げ切り、仲間のもとに戻った。なんか話している。


 『あんた、凄いじゃん。これで、あんたがストリートキングだよ』


 ストリートキングに昇格した。大満足である。

 

 「皆さん、やりましたよ。私はストリートキングだ!」


 《チャット欄》

 :よくやった! 

 :凄い! 次回作のプレイも期待しておきます。

 :お疲れ様でした。凄いですね。


 エンディングが流れている間、多くのチャットが流れた。私はひとつずつ確認し、最後の言葉を送る。


 「エンディングまで進めましたが、いかがでしたでしょうか? もし良かったらグッドボタンお願いします。ご視聴ありがとう御座いました!」


 ちょうど一時間で終わった。我ながらゲームが上手い。


 「それでは失礼します。またね!」

 

 手を振っている間に高評価が二桁になっていた。これは凄い。


 「マイクは……、繋がっていないね。よし、未来のところに行こう」


 アーカイブに残しておこう。良い戦いだった。


 「未来、終わったよ」

 「お疲れ様。コーヒー飲む?」

 「飲む~」


 私は、リビングにいる未来に甘えながら、コーヒーを飲んで心を落ち着かせた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る