第1話 雑談配信とスーパーチャット

 「お疲れ様でした~!」


 アルバイトの就業時間を難なく過ごし、私服に着替えてロッカールームを出た。

 

 「よし、買い物をして帰ろう」

 

 食材の買い出しは主に私担当。アルバイト先がスーパーマーケットだから容易に食材を見つけることができる。まさに適任だ。

 

 「えっと、ピーマンとキャベツと豚肉か」


 個人勢として三年配信してきて、動画の再生数は少しずつ右肩上がり。ゲーム配信が特に人気で、私のプレイスタイルが面白いとのこと。

 未来からの評価も高いので、これからもゲーム配信をしていきたいと思っている。ただ、歌枠配信や雑談はあまり伸びていない。個性を磨くのが一番だと思うけど、未来からは苦手分野を克服して地元公認のブイチューバーになってと言われている。そんなに簡単なことじゃないのになぁ。


 「あとは、コーンスープか」


 こうして買い出しをし、時間があれば調理もこなす。家事全般は意外に得意で、未来が仕事から帰ってくる前に全て終わらしている。そのこともあって配信はいつも夜にすることが多い。

 まあ、アルバイトが休みの時は別だけど。


 「お願いします」


 頼まれた食材などが入ったかごをレジカウンターに置いた。


 「お疲れ様。いつも大変だね」

 「そんなことないですよ」


 バーコードの読み込みが早い。さすが、先輩だ。


 「お会計、千二百五十円になります」

 「二千円からお願いします」


 お釣りを貰い、食材をエコバッグに入れて裏手の駐輪場に向かう。

 事故に遭わないように気を付けながら早く帰ろう。今日は久しぶりの雑談配信だ。

 

 「今日は何を話そうかな……」


 考え事を最小限に抑え、私は自宅まで自転車を走らせた。




                   *




 ――晩ごはんとお風呂を済ませ、防音の自室に戻って配信の準備に取り掛かった。

 

 「トイレよし。機材よし。あとはカウントダウンだけね」


 ブイチューバー・雨宮ひなたのスイッチが入る。雨宮ひなたは基本ゲーム実況者だが、たまに雑談配信をして視聴者のチャットに応えている。


 「五……、四……、三……、二……、一」


 カウントダウンが終わり、雨宮ひなたが画面に表示された。それと同時に第一声を発する。


 「こんばんは~。バーチャルユーチューバーの雨宮ひなたです。今日は久しぶりに雑談配信をしようと思います」

 

 サムネイルを見て視聴しに来ている人がざっと百人。さて、最近流行りのゲームについて話そう。


 「昨日のゲーム配信を見ていた方は分かると思うのですが、最近レーシングゲームにはまっていまして、クリアに向けて頑張っているところです」


 《チャット欄》

 :昨日は良いところまでいったね。そのあと、どうなったのか知りたい。

 :ひなたちゃん、こんばんは~。

 :今日はゲーム配信お休み?

 

 チャット欄にメッセージがどんどん表示される。


 「昨日は配信が終わったあと、色々カスタムしました。あとボスをふたり倒したらクリアです。また配信するので視聴してくださいね」


 《チャット欄》

 :あとボスをふたり倒したら終わり? 早い!

 :さすが、ゲーム実況者。攻略が早いね。

 :初めて視聴します。声が可愛いですね。


 初めての視聴者だ。挨拶しよう。


 「声が可愛いですか? ありがとう御座います!」


 ん? スーパーチャットが!


 「初めての視聴なのに……、ありがとう御座います!」


 初視聴なのにスーパーチャットしてくれた。しかも、二千円。生活費の足しにしよう。


 「では、雑談を始めますね」


 最近の他愛もない話や地元の変化などの話を始めた。すると……。


 「スパチャありがとう御座います! 生活費の足しにします!」


 スーパーチャットが今日はやけに多い。何かあったのかな?


 「皆さん、今日はどうしたんですか? たくさんいただけて嬉しいけど、ちょっと怖いです」


 《チャット欄》

 :日頃頑張っているから、ご褒美だよ。

 :投げ銭あまりもらっていないの? その方が不思議だ。

 :ひなたちゃん、読んで読んで。


 スーパーチャットの内容をひとつずつ読んでいく。応援というよりご褒美だ。


 「こんなにたくさんありがとう御座います。もう感動して目頭が熱くなってきちゃいますよ」


 『www』がたくさんチャット欄に表示された。ウケた?


 「私事なのですが、私って宮崎県の公認ブイチューバーじゃないんですよね。でも、宮崎県の情報を随時配信しております。なので、地元の方は要チェックですよ」


 《チャット欄》

 :宮崎県民ではないけど、ひなたちゃんのゲーム実況が好きで視聴させてもらってます。これからも頑張って。

 :ひなたちゃんって宮崎県民なんだ! 初めて知ったよ。

 

 宮崎県民以外の方も視聴されている。やっぱり、ゲーム実況が一番人気か。今度、面白いゲームの実況をしようかな。


 「そうなんですよ。私、宮崎県民でございます」

 

 頑張れというメッセージが数多く表示されている。本当に今日はどうしたんだろう。


 「ありがとう御座います。頑張ります」


 あっ、もう一時間経っている。もうそろそろ終わろうかな。

 

 「応援していただいているところ申し訳ないのですが、そろそろ終わろうと思います。皆さん、良い夜をお過ごしください」


 《チャット欄》

 :もうそんな時間か。ひなたちゃん、またね!

 :お疲れ様です。ごゆるりとお休みください。


 「では、おやすみなさい。またね~」


 配信を終了させ、ヘッドホンを外した。


 「ふう~、終わった。やっぱり、ゲーム実況の方が人気なんだな。でも、たくさんお金をもらえたからいいか」


 今日の収入はすべて生活費に充てることになっている。これで未来が楽できるはずだ。


 「のど乾いたな。何か飲もう」


 リビングに移動して冷蔵庫を開けた。その時。


 「はるか、お疲れ様。のど乾いたの?」

 「うん。未来は?」

 「今、お風呂から上がったところ。一杯飲もうと思って」

 「何がいい? 牛乳?」

 「うん、牛乳でいいよ」


 グラスに牛乳を注いで、未来に手渡した。


 「ありがとう」


 私も腰に手を当てて牛乳を飲んだ。

 

 「ふう~、美味しかった」

 「はるか、なんか温泉上がりのおじさんみたい」

 「おじさん? お姉さんって言ってよ」

 「ふふ、ごめんなさい」


 未来が笑っている。まるで、今までの配信を見ていたような……。


 「未来、配信見ていた?」

 「うん、見ていたよ。結構面白かった」

 「そう? ありがとう」


 歯を磨いて寝ようかな。もう遅いし。


 「それじゃあ、私は歯を磨いて寝るから」

 「うん、おやすみなさい」


 洗面所に行き、鏡の前に立った。

  

 「面白かったか。良かった」


 私は鏡に映る自分を見ながら歯を磨いた。

 

 

 

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