第2話 電車の窓明かりに浮かび上がる
冬次の顔は、どんどん赤黒くなっていく。ベッドの端に上半身をもたれて、うめき声を口から漏らしている。
ミカ子は、オタオタするばかりで救急車も呼べない。
そして、冬次は絶命した。
良美は冬次から離れるとミカ子の横を通り過ぎて、玄関から戸を通り抜けて外に出た。
表の道路に出ると立ちつくした。良美は、思った。今からどうすればいいのだ。あの世に行くのも断ったし、恨みを晴らすことで頭がいっぱいで、冬次に復讐した後、どうすればいいのか全く分からない。頭は痛いし、耳障りはする。とにかく夜の中に歩き出した。
住宅街をしばらく歩いていると、爆弾のように癇に触る音が背中に浴びせられた。飼い主に連れられて散歩中の犬が、道端を歩く不審な赤いワンピースの女に一生懸命吠えていた。
飼い主の若い女性は、急に犬が吠え出したので分けがわからない。その場を離れようと、リード紐を引っ張るが動かない。
良美は、振り向いて犬を見た。
頭が半分無い、白いだけの目の異様な姿。犬は固まった。良美がじっと見ていると、犬は弱々しい鳴き声を出して、尻尾を垂らして後退する。そして、飼い主の方へ戻っていった。
チラチラこちらを見ながら飼い主に連れられて行く犬を見送って、良美はまた歩き出す。相変わらず頭か痛い。耳鳴りがする。
何かが飛んできて体をすり抜けて、ポトポトと地面に落ちた。黒く、小さい固まりだ。カリン糖のような。
横を見ると、小太りのおばさんが手に持ったビニール袋から、スコップでコロコロした固まりを取り出して良美に投げつけている。
私に投げてるのか? 疑問を抱くと、そのおばさんが喋り出した。
「何が、動物虐待よ。いつも、いつも野良猫に餌をやって。うちの庭にウンコするからやめてって言ってるのに。庭にウンコされる
なるほど、この家の庭に投げ入れているのか。
良美は、横の家を見た。
この家の者が、野良猫に餌をやって、その猫があのおばさんの家の庭にウンコをするから、餌をやるのをやめてと言ったら、動物虐待と言って餌やりをやめようとしないわけか。
良美は、そのまま通り過ぎた。後ろでおばさんは猫の糞を投げ続けていた。
頭は痛いし、耳障りはするし、このままずっとさ迷い歩かないといけないのか、良美は困惑した。
線路の高架下にさしかかった時、前方から二人連れの人影が来る。背の高い男と背の低い男だ。
背の高い方は、名前を
背の低い方は、八木を兄貴と呼び、どこにでも付いていく男である。
今、八木の目に前方の高架下を女が一人で歩い来るのが見えた。高架下の街灯の光も届かない暗闇だけど、ワンレンの髪の長い赤いワンピースの女が歩いて来る。
八木は、チャンスとばかりに女が横を通った時に女の肩に体を当てた。しかし、確かに当てたはずなのに手応えが無かった。
変だなと、思ったが、振り向いて言った。
「あいててて、ちょっとお姉さん肩が当たったんだけど」
良美は、振り返った。その時、轟音をたてて頭の上を電車が通った。高架の天井に開いている隙間から車両の窓明かりが漏れる。それが高架下の暗闇を走った。そこに良美の顔が浮かび上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます