037 聖牢

「こんなちびドラゴンに負けるわけないでしょ!」


 ヴェローナは突然の乱入者に戸惑いながらも、すぐに臨戦態勢に入る。

 しかし、その表情には、明らかに動揺の色が浮かんでいた。


「……ライラなの?」


 エルミナが小竜に向けて言った。


 普段、ライラは人間の赤子の姿をしている。

 俺は竜化した姿をはじめて見た。

 エルミナも一緒だろう。


「クルルル」とエルミナの声に、嬉しそうに鳴く。


 そして、ライラはヴェローナを向いた。


「グオオオッ!」


 ライラは口を開き、小さな炎の塊をヴェローナに向かって吐き出した。


「くっ……!」ヴェローナは炎を避ける。「邪魔よ、どきなさい!」


 ヴェローナは再び魔力を集中させ、ライラに向かって攻撃を放とうとする。


 しかし、その瞬間、エルミナが立ち上がった。


「まだ……終わってない!」


 エルミナは剣を支えに、ふらつきながらも、ヴェローナを睨みつけた。

 その瞳には、まだ闘志が宿っている。


「ライラ! 私と、一緒に戦って!」


 エルミナはライラに呼びかけた。

 ライラはエルミナの言葉に反応し、小さく頷いた。


「グオッ!」


 ライラは、再び咆哮し、今度はエルミナの周囲を旋回し始めた。

 まるで、母親を守るかのように。


「面白いじゃない」


 ヴェローナは笑みを浮かべた。

 しかし、その笑みは明らかに引きつっている。


「まさか、こんなちびドラゴンに邪魔されるなんてね。でも、すぐに片付けてあげるわ!」


 ヴェローナは再び【深淵喰(アビス・イーター)】を放とうとする。


 しかし、その瞬間。

 ライラの体が眩い光を放ち始めた。


「なっ……!?」


 ヴェローナが目を見開く。


 ライラの体から溢れ出す光は、徐々に強さを増す。

 花園全体を包み込んでいった。


「何が起きているの!?」


 ヴェローナの言葉が震えている。


 ライラの小さな体から、黄金の魔力が放出された。

 そして、ライラの背中から、今までとは比較にならないほど大きく、美しい翼が生えてきた。

 深紅の鱗は、光を受けて黄金色に輝いている。


「グオオオオオオオオオオオッ!!」


 ライラは力強く咆哮した。

 その声は、ダンジョン全体に響き渡る。


 覚醒したライラは、ヴェローナに向かって、一直線に突進した。


「くっ……!」


 ヴェローナは、慌てて闇の障壁を展開するが、ライラの突進は、それをいとも簡単に打ち破った。


「グオオオッ!」


 ライラは鋭い爪でヴェローナを攻撃する。

 ヴェローナは、それを避けようとするが間に合わない。


「がっ……!」


 ヴェローナの体に深い傷が刻まれる。


 ヴェローナは、怒りに顔を歪め、再び魔力を集中させようとする。


 しかし、ライラの攻撃は止まらない。


 ライラは、口から灼熱の炎を吐き出し、ヴェローナを包み込んだ。


「ぎゃあああああああ!」


 ヴェローナの悲鳴が、花園に響き渡る。


 それはライラの力と、【彩光の花園】に充満した魔力が混じり合った、聖なる浄化の炎だ。

 闇属性の存在であるヴェローナにとっては、天敵とも言える攻撃だった。


「くっ……こんな、ちびドラゴンに……!」


 ヴェローナは苦悶の表情を浮かべながらも、立ち上がろうとする。

 しかし、全身を焼かれたダメージは大きく、思うように体が動かないようだ。


「終わりだな」


 俺の魔力は完全に回復していた。


「ここで終わりにさせてもらおうか。先攻、後攻みたいなルールがあっけど、面倒くさい。ここでお前を捕縛すればいいだけのことだろう?」


「……残念だけど、私には闇属性の拘束魔法は効かない」ヴェローナが言った。「また次は私のダンジョンで勝負よ」


 そう言ってヴェローナは煙へと変化しようとする。

 しかし、それは無駄な抵抗だ。


 俺はイリスから回収し、ダンジョンに保管していた白光の杖を呼び寄せた。

 この杖は聖なる力を増幅させる効果を持つ。


「聖縛光鎖(セイクリッド・バインド・チェイン)!」


 俺は杖を構え、呪文を唱えた。

 杖の先端から、眩いばかりの光が放たれる。

 光は鎖の形となり、煙へと変化しようとするヴェローナの体を瞬時に縛り上げた。


「なっ……これは……!?」


 ヴェローナは驚愕の表情を浮かべる。

 光の鎖はヴェローナの体を締め付け、その動きを完全に封じ込めた。


「終わりだ、ヴェローナ」


 俺は、静かに、しかし力強く告げた。


「くっ……放しなさい! 私は、まだ」


 ヴェローナは必死にもがく。

 しかし、聖なる力によって編み出された鎖は、びくともしない。

 闇属性の存在であるヴェローナにとって、この光は毒のようなものだ。


 俺は杖を構え、魔力を集中させた。

 光の鎖が、さらに強く輝きを増す。


「ヴェローナ、お前を、聖牢(ホーリー・プリズン)に閉じ込める」


 俺は静かに告げた。


「聖牢……?」


 ヴェローナは怪訝そうな表情を浮かべた。


「ああ。聖女イリスに頼んで、事前に作らせておいたものだ。聖なる力で満たされた牢獄。お前を普通の牢獄に入れても、すぐに逃げられるだろうからな」


 俺は淡々と説明した。

 俺は、ヴェローナとの決戦に備え、イリスに聖属性の牢獄の構築を依頼していたのだ。


「……そんなものが、あったなんて」


 ヴェローナは絶望的な表情を浮かべた。

 たとえ俺に負けたとしても、ヴェローナは黒い煙となって逃げられると踏んでいたのだろう。

 そして、自分のダンジョンで俺を返り討ちにすればいいと。


 だが、それは甘い考えだ。


 光の鎖が、ヴェローナの体を光の中へと引きずり込んでいく。


「……私の負けね」


 ヴェローナは諦めたような表情を見せた。


 ヴェローナが光のなかへと消えていった。

 ダンジョンのなかにある、聖牢へと閉じ込めることに成功したのだ。


 静寂が花園を包み込む。

 ヴェローナの姿は、もうどこにもない。

 ただ、光の粒子が、キラキラと舞っているだけだ。


「アッシュ様」クリスティが言った。「来訪者です」


――――――――――――――――――

【★あとがき★】


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