026 【トキシック・ドール】
人形をモンスターにするのはどうだろうか、と考えた。
毒の人形。
美しいが、触れるものを死に至らしめる、危険な存在。
花園に紛れ込ませておけば、不意打ちも可能だろう。
俺はルミナスに声をかけた。
「ルミナス、少し良いか?」
「なにか」
「新たなモンスターを生成しようと思う。協力してくれるか?」
「もちろんだ」
ルミナスは頷いた。
「この花園に自生する毒花と、魔力を込めやすい鉱石、それと……そうだな、上質な布が必要だ」
「承知した。すぐに用意しよう」
ルミナスは花園の奥へと消えていった。
しばらくして、ルミナスは両手いっぱいに材料を抱えて戻ってきた。
「アッシュ、これで良いか?」
「ああ、十分だ。ありがとう」
俺は材料を受け取り、花園の中央に魔法陣を描き始めた。
次に、魔法陣の中心に毒花を敷き詰める。
その上に、鉱石を核として布で包み込み、人形の形を作っていく。
「クリスティ、魔力を一緒に込めるぞ」
「はい、アッシュ様」
クリスティが俺の背中に手を当て、ダンジョンで生成された魔力を送り込んでくる。
俺は、その魔力を杖に集中させ、魔法陣に注ぎ込んだ。
魔法陣が淡い光を放ち始め、毒花から紫色の煙が立ち上る。
煙は人形の形に集束し、徐々にその姿を現していく。
小さな体、華奢な手足、そして、美しい顔立ち。
しかし、その瞳は虚ろで、口元には不気味な笑みが浮かんでいる。
肌は青白く、所々に毒々しい紫色の斑点が浮かび上がっている。
「……成功だ」
俺は息を呑んだ。
「アッシュ様、お見事です! 【トキシック・ドール】の誕生です!」
クリスティが感嘆の声を上げる。
「この子はなんだ……?」
ルミナスが興味深そうにトキシック・ドールを見つめている。
「トキシック・ドール。毒の人形だ。この花園の、新たな守り手となる」
俺はトキシック・ドールに、そっと触れようとしてやめた。
毒を持っているしな……。
「アッシュ様、大丈夫ですよ。トキシック・ドールはアッシュ様の魔力からつくられているので、害をなすことはありません」
なるほどな。
トキシック・ドールに手を触れる。
人形の肌は、ひんやりと冷たい。
しかし、その内部には、確かに魔力が宿っているのを感じる。
「この子に、名前を付けてあげましょう」とクリスティ。
「そうだな……」
俺は少し考えた。
毒の人形。
美しいが、危険な存在……。
「……ヴィオラ、はどうだろうか」
紫色の毒、そして美しい花の名前。
この人形に、ふさわしい名前だと思った。
「良い名前だ」とルミナス。
「ヴィオラ。お前は、この花園を守るのだ。侵入者を惑わし、毒で侵し、決して逃がすな」
俺の言葉にヴィオラはこくりと頷いた。
その瞳には冷たい光が宿っている。
あとでルゥナにも見せてあげよう。そう思った。
ひとまず、あとの処理についてはルミナスに任せることにした。
適度に罠を張ったり、小型のモンスター生成などだ。
俺がいなくてもなんとかなるだろう。
俺はクリスティと共に、水晶の間へと戻った。
クリスタルの近くにある、ダンジョンマスターの椅子へ腰を下ろす。
クリスティは人間の姿を解除し、クリスタルに戻っていた。
考えをまとめるために、口に出してみる。
「ヴェローナが再び攻めてくるまでに、まだ時間はある。だが、その前にできる限りの準備をしておきたい」
「そうですね。何をされますか?」
「まずは、もっと人間を呼び込み、ダンジョンの魔力を強化したいが」
俺は少し考え込んだ。
ダンジョンへの侵入者を増やす必要があるだろう。
「侵入者を増やすには、やはり餌が必要だな」
俺は独り言のように呟いた。
「餌、ですか?」とクリスティが問い返す。
「ああ。人間が欲しがるもの……財宝や強力な武器、防具など。それらをダンジョン内に配置すれば、より多くの人間が侵入してくるだろう」
「さすがアッシュ様、良いアイディアです」
極々普通のアイディアだろう。
「問題は、仕入れだよな。街で大量に買い込んでいたら怪しいだろうし。財宝もなぁ……」
侵入者から奪った金品はあるが、大した額ではない。
「どうにかヴェローナと連絡を取ることはできるだろうか?」
「はい。侵入された際に、魔力の痕跡を残されていますから……。こちらから通信用の魔力を送り込み、反応があれば連絡を取ることは可能です」
「ヴェローナに通信を行う」
「かしこまりました」
クリスティが点滅する。
水晶が淡く光はじめた。
やがて、その表面にヴェローナの姿が浮かびあがる。
「アッシュ? どうしたの? 怖気づいて、白旗でもあげるつもりになった?」
ヴェローナは、いつもと変わらぬ妖艶な笑みを浮かべている。
「いや……敵のお前に聞くのも変な話なんだが、ダンジョンを強化するために、財宝や武具を仕入れたい。何か良い方法はないか?」
「ふぅん。そんなことも知らないの。まあ、面白い勝負にしたいから、教えてあげてもいいけど」
「ありがとう」
「ふん。ありがとうなんて、変なの」
ヴェローナはいままで感謝されたことなどないのだろう。
魔物である。当たり前ではあるが…….
「取引をすればいいの。私がよく取引をしているのは、【ハルピュイア商会】という空を駆ける鳥系の魔族たちよ。彼らは、世界中から珍しい品を集めて回っているの。あなたに必要なものも、きっと見つかるはず」
「ハルピュイア商会、か。詳しく教えてくれ」
「彼らへの支払いは、お金でもいいし、魔力でも大丈夫。あなたなら問題ないでしょう? 連絡先を教えてあげるから、直接交渉してみなさい」
ヴェローナは水晶を通して、ハルピュイア商会の魔力情報を送ってきた。
「助かる。礼を言う、ヴェローナ」
「なんだか恥ずかしい……」
ヴェローナの頬が赤く染まっていた。
「あの、アッシュ、私が勝ったら……」
「じゃ、またな」
「あ、ちょっと、そんな急に……」
俺は通信を切った。
何かを話しかけていたヴェローナの姿が消える。
「……よろしいのですか? 何か言いたそうにしていましたが」
「ああ。情報が得られたら、敵と馴れ合う必要はない」
「さすがアッシュ様、性格が終わっていますね。それでこそダンジョンマスターです」
こいつ、たまに俺のことをイジってきてないか?
まあいいけど……。
「クリスティ、すぐにハルピュイア商会と連絡を取ってくれ」
「かしこまりました、アッシュ様」
クリスティが通信をはじめた、そのときだった。
「ダンジョンに侵入者……いえ、来訪者です」
「来訪者? なんだそりゃ」
「映像、出します」
深栗色の翼と琥珀色の瞳を持つ、狩人めいた鳥人の女が水晶に映っていた。
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【★あとがき★】
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