第三章
023 あなたを、すっごく気持ちよくしてあげる
「アッシュ様。侵入者です。それも、強力な魔力を持った存在です」
クリスティの声が、いつになく緊迫している。
「侵入者? また冒険者か?」
「いえ、今回はモンスターのようです」
「相手の情報はわかるか?」
「はい。種族はサキュバス。非常に強力な魔力を持っており、魅了や精神操作を得意とする上位魔族です。ですが……」
クリスティは言葉を濁した。
「どうした?」
「……ダンジョンマスター、あなたを呼んでいます」
「俺を?」
ますます、わけがわからない。
「どうするべきだろうか?」
「いまのところ、すぐに攻撃をしてくるようすはありません。相手の魔力を考えても、メルトやリリィと戦わせるのは得策ではないでしょう」
「わかった。会ってみよう。クリスティ、場所は?」
「第一階層の中央広場です」
「よし。行こう」
俺はクリスティと共に第一階層の中央広場へと向かった。
広場に到着すると、そこに一人の女性が立っていた。
漆黒の髪、深紅の瞳。
そして、露出度の高い衣装を身につけた、妖艶な美女。
紛れもなく、サキュバスだ。
サキュバスは、こちらを見て言った。
「あんたが、このダンジョンのマスター?」
「ああ、そのとおりだ」
「ふーん」
サキュバスは近寄ってきて、俺をじろじろと見た。
「人間がダンジョンマスターだなんて、珍しい」
「俺が、このダンジョン『ブラッディ・エデン』のマスター、アッシュだ。お前は?」
俺は杖を構えたまま、相手を観察する。
「あたしはヴェローナ。ダンジョン『ナイトメア・ガーデン』の主よ」
ヴェローナは、その大きな胸を張り名乗った。
『ナイトメア・ガーデン』
……聞いたことはないが、近隣のダンジョンなのだろう。
「それで、『ナイトメア・ガーデン』の主が、何の用だ? わざわざ、こんな所まで」
「最近、この辺りで急激に力をつけているダンジョンがあるって噂を聞いて。どんな奴がマスターをしているのかと、興味が湧いたの」
ヴェローナは俺の周りをゆっくりと回り始めた。
その度に、甘い香りが鼻をくすぐる。
「偵察に来たというわけか」
「ええ、そうよ。……でも、偵察だけじゃ、つまらないわね」
ヴェローナは俺の顎に、そっと指を触れさせた。
俺は杖を構えていた。いつでも戦える。
「ねえ、あなた。あたしの旦那様にならない?」
「……は?」
突然の申し出に、俺は、思わず間抜けな声を出してしまった。
「あたし、強い男が好きなの。あなた、見たところ、なかなか強そうじゃない。それに、その顔が気に入ったわ」
ヴェローナは俺の頬を指先でなぞる。
くすぐったくも、気持ち良い。
なぞられた部分から、快楽が発生する。
「どう? 悪い話じゃないと思うけど」
「……悪いが、遠慮する」
俺はヴェローナの手を、そっと払いのけた。
「あら、どうして? あたしと一緒になれば、あなたを、すっごく気持ちよくしてあげるのに」
「俺には、既に、心の底から愛している女性がいる。他の誰かを愛するつもりはない」
「アッシュ様……」
クリスティが嬉しそうな声を出した。
何か勘違いしているようだった。
俺が世界で一番愛しているのはルゥナだ。
「……ふーん。まあ、いいわ。ちょっと、試しちゃお」
ヴェローナは、そう言うと、俺の顔に手をかざした。
その瞬間、ヴェローナの瞳が、妖しく輝きを増した。
魅了の魔法か。
ヴェローナは、不思議そうな顔をした。
「私の魅了が効かない……。人間なのに、珍しいこともあるものね」
ヴェローナは、少し悔しそうだった。
しかし、それでいて、どこか楽しそうな表情を浮かべた。
「まあ、いいわ。魅了が効かないなら、別の方法で、あなたを、あたしのものにするだけよ」
「別の方法、だと?」
「そうね……。力ずく、かしら?」
ヴェローナは妖艶な笑みを浮かべた。
「力ずく、ね。おもしろい」
俺は杖を構えた。
「あら、あなた、好戦的なのね。ますます、気に入ったわ」
ヴェローナは俺の反応を楽しんでいるようだ。
「ねえ、アッシュ。こうしましょう。お互いのダンジョンを使って、勝負をしない?」
「勝負、だと?」
「ええ。お互いに、戦力を出し合って、相手のダンジョンを攻略し合うの」
ヴェローナはつづけた。
「そして、負けた方は、勝った方の……奴隷になる。どう?」
――――――――――――――――――
【★あとがき★】
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