022 アッシュ様のことを、私、愛してしまったのかもしれません

 ダンジョン・コアが、突然、眩い光を放ちはじめた。


「なっ……!?」


 目を閉じずにはいられない。

 水晶の間全体が光に包まれていく。


「クリスティ! 一体何が起こっているんだ!?」


 俺はクリスティに呼びかける。


「アッシュ様……!」


 微かにクリスティの声が聞こえた。


 ゆっくりと……少しずつ光が弱まっていった。


 俺はゆっくりと目を開ける。

 眩しさに視界がぼやける。


 しかし徐々に周囲の状況が明らかになってきた。


 水晶の間は以前と変わらないように見える。

 だが何かが違う。

 ダンジョン全体からこれまで以上に強大な魔力を感じる。


「アッシュ様……!」


 クリスティの声が俺の脳内に響いた。

 その声は安堵と、そして興奮を帯びている。

 水晶が光り、人間の姿のクリスティが現れる。


「クリスティ、無事か!? 一体何が起こったんだ?」


「これは……ダンジョンレベルの上昇です!」


「ダンジョンレベルの上昇?」


「はい。アッシュ様が先遣隊やコボルトたちを撃退し、多くの魔力を獲得したことで、ダンジョンがレベルアップしたのです。その際、一時的に過剰な魔力が放出されたため、あのような光が……」


 クリスティの説明を聞き、俺はようやく状況を理解した。

 なるほど、ダンジョンがレベルアップしたのか。


「それで、ダンジョンレベルが上がるとどうなるんだ?」


「様々な変化があります。まず、第二階層の生成が可能になりました。これによりダンジョンはさらに広大で複雑な構造となり、より強力なモンスターを配置できるようになります」


 クリスティは興奮した様子で続けた。

「そして最も重要なのは……魔力生成量の大幅な増加です。現在の魔力生成量は……以前の、3倍以上になっています!」


「三倍か……」


 三倍もの魔力があれば様々なことができる。

 ルゥナの治療薬の量産、新たなモンスターの生成、ダンジョンの拡張……。


「アッシュ様、これは本当に凄いことです。通常、ダンジョンのレベルアップには、もっと長い時間と多くの魔力が必要となります。これほど短期間でレベル2に到達するなど、前代未聞です」


クリスティは喜んでいるようだった。


「これも全て、アッシュ様の卓越した指導力と、エルミナ様、リリィ、メルトたちの活躍のおかげです。特に、エルミナ様の参戦は、予想以上の戦果をもたらしました」


「そうだな……エルミナには感謝しなければ」


 俺は今後の展望について考えた。

 少しずつダンジョンを強化し、魔力の生成量を増やし……。

 いつか、ルゥナの病を治すことができるだろうか。


「アッシュ様。ちょっと、ダンジョンのお散歩をしませんか」


 クリスティが提案をしてきた。


「散歩? どういう風の吹き回しだ?」


「アッシュ様とデートがしたいんです。最初、私たちが出会ったときと比べると、このダンジョンはすごく良くなったと思うんです。それを、一緒に確認したくて」


 クリスティは少し照れくさそうに言った。


「……わかった。付き合おう」


 俺はクリスティの提案を受け入れた。


「ありがとうございます、アッシュ様!」


 クリスティは嬉しそうに微笑んだ。


 俺達は水晶の間を出て、ダンジョン内を歩きはじめた。

 手をつないで、のんびりと道を進んでいく。


「以前は、ただの洞窟同然でしたが……」


 クリスティが俺の隣を歩きながら説明を始める。


「アッシュ様が魔法陣を描き、瓦礫を撤去し、壁を修復したことで、魔力の循環が改善されました。その結果、魔力草が育ち、モンスターも生成できるようになったのです」


 俺は周囲を見回した。

 確かに、以前は薄暗く、じめじめとした空間だった。

 今は壁や床が滑らかになり、魔力草が淡い光を放っている。


「……ずいぶんと、変わったものだな」


 俺は、しみじみと呟いた。


「全て、アッシュ様のおかげです。私は、アッシュ様に出会うまで、ずっと一人ぼっちでした。このダンジョンは、朽ち果て、忘れ去られ、魔力も尽きかけていました……」


 クリスティは少し悲しそうな表情を浮かべた。


「ですが、アッシュ様が来てくださって、全てが変わりました。ダンジョンは活力を取り戻し、私は、こうして、人間としての姿を得ることもできました。本当に、感謝しています」


 クリスティは深々と頭を下げた。


「礼を言うのは、俺の方だ。お前がいなければ、俺は、ダンジョンマスターになろうとは思わなかった。ルゥナを救うための、この道を見つけることもできなかった」


 俺はクリスティの肩に、そっと手を置いた。


「……アッシュ様」


 クリスティは、顔を上げ、俺を見つめた。

 その瞳は、潤んでいるように見える。


「アッシュ様。本当に、ありがとうございます。ずっと一緒にいたいです」


「ああ、俺も……ずっと、お前と一緒にいたい」


 俺はクリスティの言葉に、素直な気持ちで答えた。

 クリスティは、俺にとって、かけがえのない存在だ。

 彼女がいなければ、今の俺はなかっただろう。


「アッシュ様のことを、私、愛してしまったのかもしれません」


 俺は、何も言えなかった。

 嬉しかったが、なんと答えて良いのかわからなかったのだ。


 じっと、二人で見つめ合った。


 そのときだった。


 クリスティの表情が曇る。


「アッシュ様。侵入者です。それも、強力な魔力を持った存在です」


――――――――――――――――――

【★あとがき★】


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