第4話 公女未華子

 義仲を乗せた特殊仕様の六頭立て馬車は、華異羅けいらを出発してから昼夜走り続けて五日後に王都芭亜里ぱありの近郊にたどり着いた。


 王都の城外の櫛離くしり川沿いにある慰霊施設の前で乗り物が止まった。


「ずいぶん物々しいな」と義仲は窓からあたりを見回した。施設の入口広場の付近には軍用車両が並べられ、制服を着た軍人がここかしこにたむろしている。「近衛師団と陸軍諜報部、それに憲兵隊もいるのか」


「降りてください」と町田圭子軍曹。


「なぜ憲兵がいる?」と義仲。


 恵子は先に降りて、ドアを手で支えて早く降りろと促した。


「ここにお姫様がいるのか?」と義仲。


「中でご説明します」と圭子。



 義仲と圭子は慰霊施設の中に入り、長い廊下を進んでいった。皇族専用と思われる区域からは近衛の兵士が付いた。義仲たちは、ある一室の前まで来て立ち止まった。近衛兵が恭しく重い扉を開けた。


 中は応接室で一番奥の席に優華と名乗っていた第三皇女が座っていた。後ろに二人の侍女が控えている。その手前の席に二人の男が並んで座っている。


 町田軍曹に押されるように中へ進み、二人の男と向かい合わせになる席の前に立った。


「来てくださったのね」と皇女。


「連れてこられたんだ」と義仲。


「おかけになって」と皇女。「百合子さん、お客様にお茶を用意して」と侍女に指示をした。


「改めて名乗らせていただくわ。私は第三皇女未華子よ」と未華子。


 義仲は片膝をついた。「八谷義仲にございます。改めてお見知りおきを」


「呼び出してごめんなさい」と未華子。「どうしても、きちんとお礼をしておきたかったの」


「十分報酬を頂きましたよ」と義仲。


「そういうことではないのよ」と未華子。「あなたも気が付いていたはずよ」


「前の誘拐のことか?」と義仲。


「そうよ」と未華子。


「なんとなくだ」と義仲。「五年前の事件の内情など、俺には知る由もないことだ」


「あなたの話をしてくださらないかしら」と未華子。


「ええ、それがお望みならば」と義仲。


「座って楽になさって」と未華子。

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