第12話

<font color="#4682b4">「……鈴?もしかして、ずっと、そう思ってきたのか?自分が気持ち悪い…と?俺がそう思っていると?」</font>


 悲しそうな表情でうつむく鈴を見つめ、彦佐は彼女の心の内を初めて知った。

 身体を起こし、布団の上で胡座をかくと、彦佐は頭を抱えた。


<font color="#4682b4">「俺は、考えていたよりもずっと、鈴を傷つけていたんだな……」</font>


 子供の頃の彦佐の独占欲が、鈴を傷つけた。

 彼女を傷つけたことに気付いたから、彦佐は鈴を避けるようになった。

 好きだったから、からかった。自分を見てほしくて言っただけだった。

 彦佐は鈴が好きで、鈴の綺麗な髪や瞳が大好きで、他の子と違うからこそ気に入っていた。

 けれど、幼い鈴には彦佐の真意などわかるはずもなく、自分は美しくないと思い込み、大人になった今も、自分の容姿をよくは思えないままなのだ。

 彦佐は後悔の念にとらわれて、呻いた。


<font color="#4682b4">「俺は髪も瞳も、鈴の全部が好きだった。独り占めしたかったんだ。親に反対されて会えなくなったから……それしか、おまえの気を引く方法が浮かばなくて……本気じゃなかった。変わっているって言ったのは、そういう意味じゃなかった!」</font>


<font color="#cd5c5c">「いいの……もう。彦のせいじゃないよ」</font>


 戸惑うようにぎこちなく身体を起こした鈴を、彦佐はたまらず抱きしめた。


<font color="#4682b4">「ごめん、鈴。おまえを傷つけたことには気付いていた……だから、おまえに近づかないようにしたんだ。おまえを忘れたくて……他の女と関係を持った。何人も。だけど、おまえ以外の女を本気で欲しいと思ったことはない。鈴……俺は、おまえを愛してる。ずっと、愛してた。初めて会った日から、おまえだけが俺の女だよ。この髪も、瞳も、肌も、俺には……何より大切なもので、宝物なんだ……ずっと、それは変わらない。鈴は綺麗だ。本当に綺麗だ」</font>


 抱きしめる腕の強さに小さく悲鳴をあげる鈴に、彦佐が慌てて腕を緩める。


<font color="#4682b4">「鈴……」</font>


 叱られた子供のように、彦佐は懇願するような瞳で鈴を見つめる。

 鈴をそんな風に思わせて来たことに、彼は打ちのめされていた。


<font color="#cd5c5c">「彦佐だけじゃない……みんな、そう言ったし……嫌ってた。だから、気にしないで」</font>


 弱く微笑む鈴に、彦佐はピクリと眉をあげる。


<font color="#4682b4">「そんなわけにいくか!」</font>


 強く叫んだ彼に驚き、ビクッとする鈴。

 彦佐は我に返り、深く息を吸い込んで気を落ち着かせようとした。

 けれど、自分のせいで鈴が傷ついているのに、落ち着けるはずもない。


<font color="#4682b4">「鈴、ごめん。ごめんな。でも、他の奴がどう思おうが言おうが、鈴は綺麗だ。俺は本当にそう思ってる。おまえ以上に綺麗な女を、俺は知らないよ」</font>


 あからさまな賛美に鈴は戸惑い、頬を染めた。


<font color="#cd5c5c">「彦佐…」</font>


<font color="#4682b4">「鈴。鈴は綺麗なんだ。ちゃんと鏡で自分の姿を見たことあるか?」</font>


 真剣な顔で尋ねる彦佐に、鈴はおどおどとうなずく。


<font color="#4682b4">「それなのに、なんでわからないんだ?信じられないよ」</font>


 彦佐が呆れたように首を横に振る。


<font color="#cd5c5c">「…本当に?」</font> 


鈴は彼の憂い顔を見つめ、そっと尋ねた。

 真剣な瞳で尋ねる鈴にドキリとして、彦佐は日焼けした頬をうっすらと赤くしながらうなずく。


<font color="#4682b4">「……俺は、おまえに見つめられると、鈴の、その不思議な色の瞳に見つめられると……心臓が止まりそうになるよ。綺麗で…まっすぐで……こんな風に感じるのは、鈴にだけだ」</font>


<font color="#cd5c5c">「本当に?」</font>


 疑うように、もう一度尋ねてくる鈴に、彦佐は小さく呻き、答える代わりに彼女の唇を口づけで塞いだ。

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