第36話 結末

我が娘、麗美の怒りは凄かった。


ここまで来たら、もう戦争しかないだろう。


だが、俺の本音は正直戦争はしたくない。


勝ったとしても沢山の組員が死ぬ事になる。


もし、犠牲少なく勝利を納めても、懲役になる組員がどれ程出るか……


しかも、このご時世……そこから警察に目をつけられ、その後は組として生きにくくなる。


何も良いことは無い。


だが、此処までされたらもう引く事は出来ない。


もう止まらない……普段は冷静な政からしてやる気なのだ。


俺が止めた所で無理だ!


これから血で血を洗う抗争が始まる。


戦争の準備をしている最中に電話が鳴り響く。


今は構っている暇はない。


すぐに切るだろう…….


だが、組員の1人秀が、勢いよく駆け込んだ。


「組長、煉獄会から電話です」


抗争をけしかけた癖になんの用だ?


「ああっ、よくも掛けて来られたもんだ……代われ!」


「へい」


『竜ケ崎、貴様には仁義ってもんはねえのかよ!』


この野郎、娘を攫い、剣を殺した癖に何を言っていやがる。


仁義がねーのはお前だ!


だが、何か焦りを感じる……


こちらの知らない何かが起きている事だけは分かる。


ここは話位は聞くべきだろうな……


『何を言っておるのか知らんが、汚い事に掛けてはそちらが仕掛けてきた事だろうが!』


『それは認めよう……だが、物事には限度があるだろうが! 確かにこっちは卑怯な事をした。だがそれは極道の範疇だ! たった1人の犠牲の為にお前は……お前は……ハァハァ!』


何を興奮しているんだ!


こちらはまだ、何も仕掛けていない。


だが……何かが起こっているのだろう。


恐らくは……


「娘を人質にする事や、その思い人を殺すのが極道の範疇な訳無いだろうが! ボケ、殺すぞ!」


これで様子を見てやる。


「解った。俺が全部悪い。もういい……俺の負けだ辞めてくれ!」


何かが起きている。


戦争を仕掛けてきたのに、弱気だ。


「辞めてくれだ!どの面下げて言うんだ! 皆殺しにすんぞ!」


「いい加減辞めてくれ……降伏する! 二度と関東には手を出さない。だから、なぁ終わりにしてくれないか……」


可笑しい、何が此処まで弱気にさせているんだ。


「俺が何かしたって言うのかい?」


「しらばっくれるな! 白木翼だ、あんな狂犬みたいなテロリスト送り込みやがって! こっちは1000人からの組員が殺されて、関西サンシャインタワービルを破壊された。……どうやったか知らんが、火薬反応が出なかったから、手抜き工事扱いにされ、後ろ盾の表企業は近隣への保証を含みもう破産状態だ。もう良いだろう?この辺りで勘弁してくれ。何か条件があるなら譲歩する。頼むから、終わりにしてくれ」


秀に小さな音でテレビをつけさせると……『関西サンシャインタワービル倒壊、原因は手抜き工事か?』 『岬が地震により崩落、行方不明者多数……絶望的』と流れていた。


恐らくこれを誰かがやったという事か?


こんな事やれる人間は1人しかいない……白木翼……


ははははっ、黒木剣……じゃないか?


なんとまぁ、本当に1人で戦争を終わらせやがった。


「件のテロリストだが、あれはうちの娘が気に入っておる。 娘に手を出したからこうなったんだ! どうだ? ゃ恐ろしいか?」


「あんな化け物、誰だって怖いに決まっている! 頼むから終わらせてくれ……このままじゃ組が潰れてしまう! 」


「そうだな、条件次第で考えよう」


「解った、それで条件は?」


「税金の掛らない金で30億! それで手打ちだ!」


「そんな金……今の組には……」


「出来なければ皆殺しだ……地獄に金は持っていけねー!」


「直ぐに用意する! それで本当に終わりにしてくれるんだな?」


「ああっ、約束しよう!」


何だ、あっさり30億払いやがった。


どれ程の事をやったんだ。


黒木、いや黒木様わよぉ。


◆◆◆


行かない訳には行かないよな……


元の姿に戻り。気が進まないまま僕は竜ケ崎組に来ていた。


「剣様……剣様ではないですか!皆さん心配していたんですよ。さぁこちらにきて顔を見せてあげて下さい」



いきなりお手伝いさんに見つかってしまった。


まだ心が定まっていないのに……


「剣さんよぉー、あんた、あんた無事だったんだな! 良かった、本当によかったぁ!」


いきなり泣きながら政さんに抱き着かれた。


心配してくれたんだ


いいなぁこういうの。


「政、私を差し置いて翼様に抱き着くなんて後で覚えてなさい! 剣様、麗美は麗美は……信じていました! 剣様は絶対に死なないって」


麗美さんが政さんを押しのけて胸に飛び込んできた。


本当に嬉しい。


誰かに心配されるのって、本当に嬉しい。


「ただいま! うん、また会えたね」


「本当に心配したんですのよ!」


泣き顔の麗美さんも綺麗だ。


「解かっているよ! もう大丈夫だからね」


もう全てかたがついたはずだ。


心配はない。


「大丈夫?」


なんで驚いているんだろう?


「うん、全部終わったからね。安心して!」


「終わったって……えっ終わりましたの?」


「うん」


「剣ちゃん、流石ね! 無傷で帰ってくるなんて、それに比べてまぁ良いわ……死んだんじゃないかと気が気でなかったのよ? 無事で良かったわ」


「唄子さん、亜美さんは大丈夫でしたか?」


「亜美なら大丈夫、入院しているけど、命に問題は無いわ」


「そう、良かった……」



「それじゃ……これで失礼します!」


「剣様、何処に行きますの?」


「亜美さんが心配だからお見舞いにこれから行こうと思います」


『剣様が死んだと思って気が動転していましたわ。亜美の事をすっかり忘れていましたわ! 不味いですわ! 凄く気まずいですわね』


「待って下さい、剣様、私も参りますわ!」


「だったら一緒に行こう」


「はい」



「待って下さい、今 組長達が来ますから」


政さんが言ってきたが、今は亜美さんの方が心配だ。


「すいません、また今度来ます」


「お父様には私から伝えますからって伝えて下さい」


麗美さんがこう言うんだ……問題は無いだろう。


「お嬢、お願いしますよ!俺、怒られるの嫌ですからね」


うん、気にしない……


僕たちは政さんが止めるのを無視して亜美さんの入院する病院に向かった。


よく考えたら……僕は入院先を知らなかった。


麗美さんがついてきてくれて良かった。


◆◆◆


「さっきからなんでイチャイチャしているのかな? 亜美のお見舞いに来てくれたのに仲間外れにされている気がするのは何故なのかな?」


お見舞いにきたが、僕と麗美さんを見るなり亜美さんはまるでハムスターの様に膨れていた。


「そんなことありませんわ」


「大丈夫?」


「大丈夫じゃないよ! 今も痛くて泣いちゃいそうだよ? 傍に剣ちゃんがいてくれたら元気になるかな?」


それなら、そう言おうとしたが、麗美さんが僕が答えるより先に亜美さんに近づく。


『亜美、それ、見られても良いのかな? それに貴方、凄く臭いですわよ』


『嘘、そうだ……いや、身動きがとれない私にはカテーテルが入っている。 点滴棒の下に尿袋があって、うっおしっこが結構溜まっているじゃない……こんなの見られたくないよぉ~』


何故だろう? 亜美さんの顔が赤くなった気がする。


「亜美、もう元気ですわよね?」


「剣ちゃん心配しないで……」


何故だろう、顔を赤くして亜美さんが俯いてしまった。


僕らは、暫く雑談をしてから病院を後にした。


これで、元通りだ。


また元の平和な日常が戻ってくる。


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