第33話 剣死す


先に学園を出て家に居て料理をして待っていたが、余りに遅い。


麗美さんの性格からして、考えられない。


二人を迎えに行く途中……僅かな血痕を見つけた。


なにか事件に巻き込まれたに違いない。


多分、事情を知るには……竜ケ崎組に行くか?


◆◆◆


「あっ剣さん、大変申し訳ないですが今日は建て込んでおりますので後日来てください!」


ドタバタしている。


やはり何かがおきているようだ。


「それで麗美さんと亜美さんは何処に?」


「さぁ、解りません」


いや、絶対になにか事件が起きている。


どの組員も顏が真っ青で、まるでお通夜のように静かだ。


考えられるのは……誘拐。


あの血痕、僕の元に帰ってこない麗美さん。


恐らくは間違いない筈だ。


2人が誘拐されたんだ。


だから、皆が顏が青く静かなんだろう。


僕の聴覚は集中すれば5倍位聴力になる。


『お嬢が誘拐……亜美ちゃんが撃たれた……どうするんだよ』


『ああっどうするんだ! これ』


やはり間違いはなさそうだ。


追い返すのは多分、僕を巻き込まない為だ。


しかし、抜かった。


僕が甘かった。


平和な日常を送っていたから、後手に回ってしまった。


以前の僕ならこうなる前に、手を打てた。


「剣さん、今日は建て込んでいますし、お嬢も居ませんので日を改めてお越し下さい」


「麗美さんが居ないのも事情もある程度解ります! その事でお話にきました!」


直球勝負……回りくどいのは抜きだ。


「しばし、お待ちください! すぐに組長に聞いてきます」


そう言うと奥に組員が引っ込んだ。


すぐにドタバタと走ってきて。


「組長がお会いになるそうです」


「お願い致します」


これで、しっかりとした事情を知る事が出来る。


◆◆◆


通された広間には竜ケ崎組長他沢山の組員が揃っていた。


「剣ちゃん……麗美が、麗美が……」


辰子さんが泣きながらこっちに走ってきた。


麗美さんになにか起きたのは分かる。


誘拐されたのは恐らく麗美さん。


だったら亜美さんは……


「事情は、解っているつもりです! それで亜美さんは大丈夫ですか」


「剣くん、亜美なら大丈夫だ! 銃で撃たれたが、今病院にいる、命に別状はないよ」


鳳凰さんの表情は暗い。


今直ぐ亜美さんの所に行きたいのだろうが立場的にいけないのだろうな。


大丈夫なわけ無い。


普通の人間が銃で撃たれて大丈夫な訳ないだろうが。


僕の友達を銃で撃ったんだ。


この借りは高くつくぞ……


「それで相手は誰だ!?」


「相手は解かっておる、目的もな……」


それなら何故行動を起こさない。


時間が経てば経つほど『誘拐』なら状況は不利になる。


非合法の組織ならすぐに動くべきだ。


「辰夫さん、相手は誰ですか、目的は?」


「相手は関西連合煉獄会だ」


相手が解かっているなら、なぜ動かないんだ。


「目的は?」


「関東と戦争をする為の名目作りだ!」


「戦争?」


殺し合いか?


「ああっ、ヤクザという物は名目が必要なんだ。こちら側から攻めてきた、そういう名目が欲しいのだろう!」


名目……面倒くさいな。


敵、しかも身内が誘拐されたんだ。


すぐに殺すべきだ。


だが……


「人質を誘拐して置いて、それでも攻めてきた? そんな事が通用するのでしょうか?」


「それは事がすんだら、若い者が勝手にやった。組は関係ない、そういう事にでもするのだろうな」


そんな稚拙な理由になんの意味があるのだろう。


「それで、皆さんはどうするのですか?」


全員の顔が暗い。


もう結論は出ているのだろう。


「何もしない」


そうか、やっぱりな! 龍三さんは組長。組織を娘1人の為に動かす訳にはいかない。


戦争をする位だから向こうは確実な勝算がある。


そう考えて良いだろう。


『見捨てる』こうなるのも理解はできる。


ブラックローズでも同じ判断をするだろう。


つまりお姉ちゃんでも同じことをする可能性がある。


1人の為に多くの犠牲は出せない。


だが、今の僕にはそんなの関係ない。


「誰1人動かないなら仕方ない! 麗美さんを捨てるんですか? いやはや立派な組もあったもんだ!」


これで良い。


「お前いい加減にしねぇか! 組長の気もしらねぇで!」


「虎雄さん!どうせ、アンタも動かないんでしょう? だったら、何処に麗美さんが居るのか位教えて下さいよ!」


「あっあああっ」


知らないうちに僕の気が漏れているようだ。


近くの組員が怖がっている。


だが今はそんなの気にする時じゃない。


「教えてくれますよね……」


言葉に威圧を掛ける。


「解った」


龍三さんはようやく重い口を開いた。


◆◆◆


話しはこうだ。


敵対している組の関東の拠点に麗美さんが誘拐監禁されている。


そして、解放の条件が組の解散と、鳳凰グループのゼネコン事業からの撤退。


どう考えても出来ないのを解ってて言っている事に感じる。


「それでどうするんだ? どうせお前だって何も出来ないだろうが?」


今の僕は組織を背負っていない。


だから身軽だ。


「僕ですか? 皆が捨てるって言うなら、僕が貰います。麗美さんは凄く魅力的な女性ですから!」


もう聞く事は無い。


どうせ動かないんだ。


僕は竜ケ崎組を後にした。


◆◆◆


目的は解った。


場所は解った。


そして時間もない、なら僕のする事は一つしかない。


すぐに駆け付け解決する。


それだけだ。


◆◆◆


そして、僕は麗美さんが監禁されている施設がある岬にいる。


あれは見た目こそ別荘だが中身は要塞だ。


後ろは断崖絶壁、しかも道は一本道で身を隠す事も出来ない。


正面から特攻するように行くしか方法はない。


僕の組織に比べれば稚拙だが、よく考えられている。


考えても仕方ない。


突き進むしかない。


一本道を歩み進むと直ぐに見つかってしまった。


「お前は一体何者だ!」


ブラフと真実。


両方を併せて話す。


「黒木剣と申します! 竜ケ崎組から龍三組長の代わりにお嬢様さんの安否確認に来ました」


こんなものだろう!


これで運が良ければ麗美さんの所迄案内して貰える。


「何だと!」


「こちらは交渉に応じた、実はお嬢さんはもう殺されていたでは洒落にならない! だから僕が確認に来た訳です」


「確かに言い分はわかる。だが、お前一人か? ボディチェックはさせて貰うぞ?」


「勿論」


ボディチェック位は当たり前だ。


「安否確認に学生1人。武器は持っていない!解った」


ボディチェックのあと、すぐに男はスマホで連絡をとった。


その後……


「ガキ、行って良いぞ、特別に確認させてくれるそうだ。まだ指一本触れちゃいない。あくまで、まだな! ちゃんと伝えろよ。それと下手な真似するなよ! したらハチの巣だ」


「解りました。怖いからそんな事しません」


マシンガンを持っているのか?


まずいな……


「それが賢明だ」


僕は館に向って歩き出した。


◆◆◆



私は今地下室に閉じ込められています。


「うーうーうっ」


猿轡をされ床に転がされていますわ。


「そんな目で俺を睨むんじゃねーよ」


足で頭を踏まれていますが、縛りあげられているので何も出来ませんわ。


あの時、私は判断を見誤りましたわ。


怪我した亜美を抱き抱え走るべきでした。


人質にするなら殺される訳が無いの。そう考えたら強引に逃げ出すべきでしたわ。



「何だ、その目はよー、そんな顔してられるのも今のうちだけだぜ? お前の実家が条件を蹴ったら、お前は俺たちが自由にして良い事になっているんだぁ! 到底飲める条件じゃねーからな! 犯し放題にされるのも時間の問題だぜ! そして犯し終わって用済みになったら残酷に殺して首でも送りつけるかなぁ」



馬鹿らしいですわ。


そんな事は覚悟済みでしてよ、そうなる前に速やかに死にますから関係ありませんわね。


精々私の死体でも犯して喜ぶ事ですわ。


まぁ、今の私は自分が死ぬことで精一杯ですわね。



「兄貴、そいつの安否確認に人が来たみたいです。兄貴を呼んできてくれって四宮の兄貴が……」


「そうか、今行く」


誰が来たのかしら、虎雄さん辺りですわね。


ですが、救出は無理ですわ。


死ぬとしたら見張りが居なくなった今がチャンスですわ。


私は唯一自由になる頭を床や壁に打ち付けた。


猿轡を噛ませられているし足も手も縛りあげられていてはこれしか方法はありません。


がつーん、がつーん、がつっ..


頭は頑丈ですわ。


血が出てきていますし、痛いのに、なかなか死ねません。


どうせ死ぬなら綺麗な体で死にたいものですわ。


私の体に触れて良いのは剣様だけなのですわ。


がつがつがつ……



頭は朦朧としてますのに、まだ死ねません。


暫くして無理な様なら「顔を潰す」方に切り替えた方が良いかも知れませんわね。


顔が潰れた醜い女なら抱きたく無くなるかも知れませんわ。



形振り構っていられません。


早く死なないとなりませんから……


私が死ねば、お父様が必ず、皆殺しにして下さいます。


地獄に落ちるが良いですわ。


しかし、詰まらない人生でしたわ。


ヤクザの娘に産まれて碌に友達も出来ませんでした。


折角、好きな人が出来て、楽しいって思いましたのにもう終わり……はぁはぁ..会いたいですわ……剣様!


がつがつがつがつがんがんがん。


まだ死ねませんの……剣様、剣様、剣様、死ぬ前に会いたいですわ……だけど……


「面会だ、3分時間をやる。お前何しているんだ?」


『嘘、剣様ですわ。最後に会えましたわ。これでもう思い残す事はありませんわ』


剣様に会えるなんて……これでもう死んでも思い残す事はありませんわ。


◆◆◆


「約束が違いますね!無傷なハズではありませんか?」


麗美さん、流石だ。


足手まといにならない為に死のうとしたんだ……



「これは、その女が勝手にやっていた事だ! 俺は知らねー」


頭はそうだ、だけど、それ以外にも明らかに怪我をしている。


暴力を振るっていた証拠だ。


「嘘つきは嫌いですよ!」


僕は手早く口を押えた。


そのまま、反対側の手でチョキを作るとそのまま下から目に押し込んだ。


これでこの男はもう生涯目が見えない。



そして胸にさしていたボールペンを飛び出している目の下から頭に届く様に押し込んだ。


脳にボールペンが届いたのだろうか?


男は静かになった。


男の死骸を見て見ると。


幸い、男はナイフを持っていた。


これで麗美さんの縄をきれる。


「大丈夫? では無いですね、その頭、ごめんなさい。遅くなりました」


「剣様、来てくれるなんて思いませんでしたわ。これだけでもう思い残す事はありませんわ……さぁ、一緒に逝きましょう」


『この人数相手では剣様でも無理ですわね。それなのに此処に来てくれた……そして此奴を殺したという事は……私と死ぬために来てくれたのですわね。やはり剣様は他の男とは違いますわ』



「麗美さん、まだ死ぬのは早いよ! 命がけで僕頑張るからさ、でもそれが届かない時は……」


「解かっていますわ」


『最後まで希望を捨てませんのね。ですが、それでも無理だった時は一緒に死んで欲しい、そういう事ですわね……ええっ喜んで死にますわ』


ざっと見た感じ、この屋敷には物凄い人数が居る。一点突破それ以外に脱出方法はないだろう。


『僕に静かについてきて』


『解りましたわ』


幸い僕は「武器を持っていないガキ」そう思って油断している。


だから、まだ警戒されていない。


階段を上に上がる。


見張りは2人しかいない。


しかも片方はスマホで何やら遊んでいる。



静かに後ろから近づき口を押えそのまま持っていたナイフで首を掻き切った。


もう一人がこちらに気が付いたがもう遅い。


そのままナイフを胸に突き刺した。


運良く二人とも銃を持っていた。


一つを麗美さんに渡し、一つを自分で持った。


「次に出くわす前に入口に急ごう?」


「はい」


『凄いですわ。惚れ惚れしちゃうわ。.躊躇なく殺す姿..素敵ですわしかも、あれは私を傷つけた事に凄く怒っていますわ。その証拠に最初の男は残酷に殺して見せましたわ。こんなに思われているなんて私凄く幸せですわ』


ここからは時間の勝負だ、小走りで入口を目指した。


「人質が逃げ出したぞ」


気づかれた。


パン……額に一発で当て殺した。


銃声が響いたから、もう隠れながらの脱出は無理だ。


「麗美さん、全速力で走るよ!」


「はい」


麗美さんがついてこられるギリギリの速度で走った。


そして、顔を合わせる度に敵を殺して殺して殺しまくった。


パン、パン、パン、パンパン、パン6発の弾で6人殺した。


麗美さんから予備の拳銃を受取り更に殺す。


麗美さんは……うん、凄いと思う。


僕は初めて人を殺した時は震えていた。


だが、麗美さんは震えもせずについてくる。


相手は銃を持っている者もいるが怖くない。


麗美さんは殺す訳にいかないから避けて撃っているからよけやすい..


パン、パン、パン、パン、パン、パン 同じく6発の弾で6人殺した。


殺した相手の一人が銃を持っていたのでさらに追加。


パン、パン、パン、パン これで弾は打ち止め、ここからはナイフで戦わないといけない。


「いたぞ、貴様殺してやる......」


そんな事言う位ならさっさと殺さないとね。


だから死ぬんだ


喉から首にかけてナイフで切り裂いく。


「男は殺して構わない」



今更か、だが、もう遅い。


「はぁはぁはぁはぁ」


不味いな、麗美さんがもう限界だ。だけど入口はすぐそこだ……


もうナイフも血糊で斬れない。


「入口が見えて来た..」


「ええっですが..」


十人以上が待ち構えている。


そんなのを無視して突っ込んだ、


後ろ側に麗美さんを庇いながら入口に近づく。


倒しても倒しても次々に人が出てくる。


ようやく入口にたどり着いた。


外には見張りは居ない可能性が高い。


ドアのカギは掛かっていなかった。


ここから逃せば良い..


「ついたね、麗美さん、後を宜しく」


「待って、剣様は、剣様はどうなさりますの?」


「ここで食い止めるから早く逃げて」


「そんな、それでは剣様は」


「バイバイ! 僕がした事が無駄になるから……早く.早く行って」


『ここで私が戸惑っていたら、剣様がしてくれた事が無駄になる』


「必ず、生きて帰って来て下さい!」


「うん」


僕は麗美さんを扉から外に出すと内側から扉をしめた。


これで、此処を僕が守っていれば麗美さんを追いかける事は出来ない。


逆に僕は此処から動けない。



さぁ掛かって来い。


少しでも時間を稼がないと……


ドガガガガガガガガガがガガガガッ...


「最初からこうすれば良かったんだ..チクショウ..」


マシンガン……だが、まだ終われない。


今此処で倒れたら、麗美さんに追いつかれる。


まだ、倒れる訳にいかない


「何だ此奴、化け物か? たった1人で何人も殺しやがって……しかも人質まで逃がしやがった」



「ハァハァ まだ...終われない...」


「何だ、此奴」


ガガガがガガガがガガガ


「まだ倒れないぞ、此奴、だけどもう反撃して来ないぞ」


「だったら、誰が倒せるか勝負だ」


パン、パン、パン、パン..


ズガガガガガガガ


「まだ、倒れねーーぜ、だけど此奴もう肉片みたいじゃん」


駄目だ、もう動けない。


◆◆◆


耳は千切れて手足も千切れていた。


王子様と言われた美しい顔は、穴が空いて、目が飛び出し、下に落ち、口の半分は裂けて歯がむき出しで見える。


「此処は……とお……さない」


ガガがガガガガガガッ  パンパンパン..


頭の半分が吹き飛び、脳みそが下に落ちた。


「とお、さ……ない……」


「化け物……こっちにくるな……」


『死んでいる筈だ、頭を吹き飛ばして死なない人間なんていない..だが此奴は喋っている。怖さで入口に近づく気になれない』


「これ……で……大丈夫」


剣だった物はそのまま崩れ落ちた。


そこには、ただ、ただ、黒木剣と呼ばれた者の肉塊が横たわっていた。


人にすら見えない程に壊されて。


そして、守りきる事も出来ずに……


◆◆◆


「人質は失った。だがこれで戦争の口実は出来た。そう考えたら僥倖だ……ここまで殺されたんだ、口実は出来た、もう人質は必要ない。後は攻めるだけだ」






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