第32話 動きだす闇

今迄この隙を待っていた。


俺の名前はどうでも良い。


関西連合煉獄会の組員をしている。


そして、俺の仕事は「竜ケ崎組」に喧嘩を売る事だ。


その為に、俺は竜ケ崎組に気がつかれないように千の兵隊を一般人に紛れ込ませこの場所まできた。


只の荷物に見せかけ、銃器を含む武器も持ってきている。


この千の兵隊を関東に潜らせる為にどれだけ時間を使ったか。


そして、今現在は、某県の岬の近くに要塞のような屋敷を作り此処に全てを集めてある。


一見ただの別荘に見えるこの屋敷だが50cmを越えるコンクリートの壁。


マシンガンでも割れない防弾ガラス。


此処をどうにかしたいなら戦車やバズーカを用意しないと無理だ。


俺の仕事は簡単だ。


竜ケ崎麗美、北条小太刀、三上亜美のうち1人を誘拐して此処に連れて来ることだ。


連れてきた後は人質を盾に、竜ケ崎組に無理難題を吹っ掛ける。


その内容は、到底飲めない内容を考えている。


そして、飲まなかった事を理由に、人質を最後には殺害する。


その際は勿論、惨たらしく弄んで、楽しんでから殺す。


そうすれば、向こうから乗り込んできて戦争となるだろう。


そう、俺は要求を通す為の交渉でなく、「戦争になる火種」を作るのが仕事だ。


あくまで、関西連合煉獄会からでなく、あちらから戦争を仕掛けた。


そういう体裁を作る為の工作員それが俺だ。


『娘を攫い殺した事は組員の暴走』で終わらせる。


だが、そこに大勢の組員で報復に来れば、これは戦争を仕掛けに来た。


そういう絵を描くようだ……尤も勝てば官軍。

かなり無理な話だが『こちらが勝てば』それで通る。


これが汚いが俺達の世界だ。


しかし、暫く、尾行をさせて様子を見ていたが、隙が全く無かった。


いつも複数人のボディガードが付いていて車で送り迎えされていた。


その為、簡単に攫うのは骨が折れそうだった。


だが、今は違う。


男に現を抜かし、今迄に比べてガードが緩くなっている。


ボディガードは居る物の今迄とは違い数が少ない。


これなら、攫うのは簡単だ。


『竜ケ崎麗美のボディガード1名!運転手1名沈黙させました』


『同じく 三上亜美の護衛も沈黙させました』


『了解』


北条小太刀が居ないのは残念だが、元から1人で良い人質だ。


これで良い。


これで車に連れ込めばほぼ目的達成だ。


◆◆◆


「随分、遅くなりましたわね」


「そうだね! 麗美ちゃん!」


「しかし、なんで、亜美がこっちに来ますのよ?」


「私だって、今日から剣ちゃんの家に住むんだもん!」


まぁ、この子の性格なら遅かれ早かれこうなりますわね。


ですが、思ったより早い行動ですわ。


小太刀の方がてっきり先に動くと思いましたのに……


昨日の今日は誤算ですわ。


しかし、ふんすとばかり得意げですわね。


私と剣様のラブラブ生活が二日目で台無しですわ。


「まだ、正式な許可を貰ってないくせに偉そうですわね!」


「剣ちゃんが受け入れてくれないと思う?」


剣様は……間違いなく受け入れますわね。


「うっ!? 多分しますわね!」


「そうだよね? 剣ちゃんが私達を受け入れないわけないよね? しかし麗美ちゃんズルいよ! 一人だけ抜け駆けなんて酷いよ!」


自分だって同じ穴のムジナですわ。


「小太刀を仲間外れにした時点で同罪ですわ」


平等というなら小太刀を誘わなかった時点で同罪ですわ。


「そ……そうだよね? あはははっ、うん、出も仕方ないじゃないは? 恋は……そう? 戦争なんだもん」


だったら抜け駆けもありですわね。


ブーメランですわ。


◆◆◆


「おい、きたぞ!」


「解かっている! まだ遠い、車の前まで来るまで引きつけてからだ!」


「あれ、可笑しいですわ! 私が見えたら直ぐにドアを開ける筈ですのに! 不味いですわ! 亜美、直ぐに車から離れて、様子が変ですわ!」


私が来たらすぐに車の前に立ち、ドアを開けて到着を待つ。


その組員が、誰も出て来ない。


きっとなにかあったに違いませんわ。


まずいですわ。


「おっと、もう遅い!


「亜美!」


亜美が囲まれてしまいましたわ。


「麗美ちゃん! ごめん……」


「お前もこっちに来い、素直についてくれば今は何もしない、逃げるならこの場でこの女を殺す!」


表情からわかりますわ。


此奴は本当に亜美を殺すわ。


「仕方ありませんわね」


この勝負私達の負けですわ。


「素直な事は良い事だ」


だけど、不味いですわね。


多分、人質として価値が無くなれば二人して殺される。


せめて、亜美だけでも逃がさないと。


私は、車の方に向って行き、男と亜美の間に入った


瞬間、亜美を突き飛ばし、男に掴みかかろうとした。


パス、パス、パス。


サイレンサーつきの拳銃……あっ……


「亜美ーーーーっ」


こんな簡単に人を撃つの!


気を取られた瞬間頭に激痛が走った。


うっ、ハァハァ、くっ 苦しい……息が出来ない……はぁはぁはぁ。


駄目、せめて助けを呼ばなきゃ……


このままじゃ亜美も連れて行かれちゃう……


「亜美……」


どうにか意識が戻ってきましたわ。


「急所は外してある。直ぐに救急車を呼べば助かる! つい、拳銃で撃ってしまったが、まだ殺す時期じゃない。素直についてくるなら、此奴はここに置いていき、ここに救急車を呼んでやる。逃げるなら、此奴に此処で止めを刺す」



「卑怯者!仕方ありません、ついていきますわ……」


「ハァハァ駄目、麗美ちゃん……逃げて、早く……」


太腿から血を流して……このままじゃ出血死しますわ。


「大丈夫ですわ……」


亜美を助ける為には……私がついていくしかないわ。



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