第30話 侮っていた

おつき合いをしているんだから、会いに行くのは構わない筈だ。


だが、相手にも都合はある筈だ。


だから、麗美さんに会いに行くのを昼休みまで待った。


授業が終わり、急いで麗美さんの教室まで走っていく。


扉をあけると、すぐ傍に麗美さんはいた。


「麗美さん、良かったら一緒にご飯食べませんか?」


「遅いですわよ!折角おつきあいしているのに、何でお昼まで来ないんですの!」


この場合は行った方が正解だったのか。


姉さんと同じでこの辺りの判断が凄く難しい。


姉さんの場合、判断を間違えたら、偶に辛い思いする事がある。


「余りに顔を出したら迷惑かなと思ったんだけど、そんなに頻繁に顔出して良かったの?」


「他の方なら兎も角、剣様なら、好きな時に自由に会いにきて構いませんわ! それとも私からお伺いしましょうか?」


女性に足を運ばせるのは余りよくないけど、麗美さんの都合で来れるし、ここは危ない事も無さそうだからその方が良いか?


「その方が良いかもしれない! 僕はそう言う事が不得手だから」


「あらっ、私も初めてですわ!」


確かに麗美さんも男性とつきあったのは僕が初めてだ。


あの環境じゃ、そりゃそうか?


2人して談笑していると小太刀さんと亜美さんがやってきた。


「そう言えば最近、麗美見かけないけど? 部活でも入ったの?」


「剣ちゃん……その手に持っているの何かな? お弁当、麗美ちゃんと同じに見えるんだけど!」


小太刀さんと亜美さんが唖然とした顔でこちらを見つめてきた。


「剣様が作ってくれましたのよ! 手作りですのよ」


麗美さんはニコニコしながら、さらっと話している。



「それで剣くん、私のは、無いのかな?」


「剣ちゃん、私のもあるよね」


良かった。


無駄にならなくて……


三人で食事している可能性も考えて実は用意していたんだよな。


「勿論、あります!はい」


「えっ、何で、小太刀や亜美の分がありますの?」


麗美さんの顔色が変わった、なんでだか怒っている気がする。


「一応、友達として付き合うのだから、これ位はしないと」


「流石、剣くん」


「流石、剣ちゃん」


2人は満面の笑顔だけど……


「そうですわね、お友達ならお弁当位つくりますわよね」


麗美さんの機嫌が悪くなった気がする。


何だろう、少し周りの空気が冷たくなった気がする。


姉さんが起こると蟹元帥ですら体が震える。


それに近い覇気があるのかも知れない


しかも、これが発されているのは、麗美さんからだけじゃない、小太刀さんや亜美さんからも同じような気が発せられている。



「何か引っかかるな、何か言いたい事があるのか!」


小太刀さんの目が細められ……鋭さを増した気がする。


「さっきから麗美ちゃん、可笑しいよ? 何が言いたいのかな?」


亜美さんの顔からいつもの愛くるしい笑顔が消えた。


気のせいか後ろになにやら黒い物が見える。


感じていたのはこれか?


この二人も麗美さんに近い独特な、なにかを持っているのかも知れない。


「お二人が手に入れたのはただの友達として付き合う。その権利ですわ!しかも亜美はまだ仮ですわよね?」


「麗美ちゃん、私に喧嘩売っているのかな?」


「何が言いたい! その奥歯に挟まった言い方止めてくれないか?」


三人の目つきが変わる。


まさに一発触発の状態だ。


『凄い』


多分、僕が皆を好きになったのはこの目だ。


野望を持っている様な強い意思を感じる目。


その為には手段を選ばない……


かっての仲間が持っていた目。


今の僕の周りの誰しもが持ってない。


凄く綺麗な獣みたいな目。


『ああっ、本当に綺麗だ』



「言ってしまえば、2人が持っているのは、友達になる権利ですわ! しかも亜美はそれも仮。それに対して私が持っているのは男女交際の権利ですわ! 正式にお付き合いする権利ですのよ? 2人の権利とは全く違う権利ですわね!」


「ああっ、あの場の話じゃそうとれるよな? だけど、それは違うよ、私が手に入れたのも男女交際の権利だ! ちゃんと親父と母さんから許可を得ている!」


「私は確かにパパは仮だけど、ママはちゃんと許可をしてくれたんだよ! 麗美ちゃんにも言われたくないかな!」



「そう? でも手遅れね、恋は早い者勝ちなのよ? 私はもう剣様と一緒に暮らしていますのよ? 裸を見せる位親密な関係でしてよ、そこにお二人は入り込んでこれるのかしら?」


あっ!? 凄い顔で小太刀さんと亜美さんが睨んで来る。


だけど、うん、この顔、凄く良い。


「剣ちゃん……本当なのかな?」


「剣くん、違うよな!」


まるで、姉さんみたいな目だ。


正直ゾクゾクする。


言っていることは嘘じゃないな。


確かに裸を見ない様にしたけど『見たか』と言えば見た。


そして、一緒に暮らしている。


麗美さん上手いな、同棲って言えば違うが……これなら嘘じゃない。


「そうだね、昨日から一緒に暮らしているし、確かに裸もみたね」


その瞬間、麗美さんは顔を少し赤くして勝ち誇ったように笑っている。


「ほうら、もう完璧な男女交際ですわね? お子様の2人と違いますのよ? 私と剣様はもう、大人の関係ですわ」



「あのさぁ、麗美ちゃん、私はママの子だよ? そんなブラフに引っかからないよ? それじゃ剣ちゃんに聞くけど? 同棲しているのかな? もうエッチはしたのかな?」


亜美さんもしっかりしているなぁ。


麗美さんのブラフに引っ掛かってない。


成程、これなら正確な情報が引き出せる。


「確かに同棲じゃないし、エッチな事もしていないよ」


「やっぱりね……麗美ちゃんらしいブラフだ」


「どういう事?」


亜美ちゃんはニコニコしているけど……この笑顔は腹黒い笑顔だ。


「小太刀ちゃんには教えてあげなぁ~い」


此処まで来ると清々しいな。


「ちょっと待って亜美、ちゃんと教えてよ」


『今の会話で解かったよ! ママが言った通りだった。早目になんて言ってちゃ駄目なんだ! これは1人しか横に居られないんだもん。 負けたらもう終わり。此処は日本だから1人としか結婚出来ないんだよ。亜美は馬鹿だったよ! 麗美ちゃんはもう既に『乗り込んでいるんだよ』今の話なら、もう同じ部屋で暮らしている。だが、まだ一線は越えてない状態。多分ラッキースケベ位しか無い。なら早く同じ立場にならないと。このままじゃ負けちゃうよ!』


「ごめんね、私急用を思い出しちゃった! 亜美早退するね」


そう言うと亜美さんは凄い勢いでお弁当をかき込んだ。


凄いな、結構な量がある筈なのに3分と掛からず食べちゃったよ。


「お弁当ありがとうね剣ちゃん」


そう言って顔を近づけると小さな声で『今日から亜美もお世話になるね』


僕にだけ聞こえる様に話しスカートをヒラヒラさせて笑顔で手を振り去っていった。


やっぱり、侮っていた。


あの時姉さんの様に感じたのは麗美さんからだけじゃ無かった。


小太刀さんや亜美さんからも同じ様な物を感じていた。


悪い顔をして直ぐに行動する。


この亜美さんの行動は姉さんに似ている。


よく、この自分勝手な行動に振り回されたな……うん懐かしい。


今日から来ると言うならとびっきりのご馳走を用意しておこう。


今から楽しみだ。


「どうかなさいましたの?剣様」


「いや、何でもないよ? 亜美さんは帰っちゃったけど、話しの続きをしない?」


「あらっ剣様は何か聞きたい事がありますの?」


そうだなぁ。


「私は剣くんに聞きたい事がある! 麗美と暮らしているの?」


うん、一緒に暮らしている。


それは間違い無い。


「うん、暮らしているよ」


「そうか~そうなんだ」


亜美さんと違って、凄く暗そうな顔をしている。


亜美さんみたいにすぐに行動を起こしそうに無い気がする。


だけど、僕は小太刀さんからも姉さんみたいな一面を見た気がするんだ。


今日の小太刀さんからは『それが感じられない』どんな一面をそ持っているのか?


きっと、そのうち見せてくれるよな。


今からそれが楽しみだ。


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