第28話 橘姉妹

「それじゃ麗美さん、此処で」


僕は学園の前で麗美さんをバイクから下ろした。


「剣様は何処に行きますの?」


「近くに駐輪場を借りましたから、そちらに止めに行ってきます、あとこれをどうぞ!」


朝作ったお弁当を麗美さんに渡す。


こうして誰かの為にお弁当を作るのもまた楽しい。


昔は姉さんの分は勿論、部下の為に良くご飯も作っていた。


なんとなく懐かしいな。


「これは、まさかお弁当ですか?」


なんで、そんなに驚いているんだろう?


一緒に暮らしているんだから、お弁当位つくるよね?


「そうです、麗美さん! それじゃまた後で会いましょう!」


「はい……剣様、またあとで……」


◆◆◆


そう言って剣様は校門の前まで送って下さいました。


ちなみに、バイクの後ろには車で政がついて来ていましたが、剣様がいる以上は護衛なんて必要ないと思いますわ。


お弁当なんて、剣様は本当に女子力迄高すぎますわ。


本来はこれは私がする筈の事ですわね。


◆◆◆


『陽子.奈々子SIDE』


駐輪場は学園から歩いて5分の所に借りた。


駐輪場と言いながらサイドカーなので実質は駐車場。


此処まで離れた理由はシャッター付きの駐車場が此処まで来ないと無かったからだ。


ただ、面倒くさい事に居住者専用だったのでそこのマンションの1LDKの部屋も購入した。


まぁ学園も近いし何かと利用価値はあるだろう。


一応学園はバイク通学は認めているから校則違反でも無いし問題は無い。


ただ、サイドカー付きだと実質車並みのスペースをとるので学園の駐輪場で止めるのは流石に難しい。


だからと言って教職員の駐車場は使えない。


だからこそ外に借りるしかない。


しっかりとバイクを止め、バックミラーで髪を整えた。


誰かと付き合うと言う事は、相手に恥をかかす事のないようにしないといけない。


身だしなみもちゃんと整えなくてはならない。


正式に付き合う人間が3人も出来たのだから恥をかかせないように気をつけないとな。


「まぁこんな物かな」


そのまま、車庫を後にして学園歩いて向った。


そう言えば、学園ではどう麗美さんに接すれば良いのだろうか?


昼休みにでも顔を出して様子を見て見れば良いかな?


暫く、歩いていると見知った顔に出会った。


橘姉妹だ。


「おはよう、奈々子ちゃんに陽子さん」


「おはようって……あの、誰ですか?」


え~と陽子さんはなんで驚いた顔をしているんだろう?


まぁ良いか?


「剣お兄ちゃん、おはようございます! 凄く素敵ですね」


「少しは身だしなみを整えようと思ってね、どうかな?」


「元から、剣お兄ちゃんはカッコ良かったけど、今の方が更に素敵です!」


なかなか好評みたいだ。


良かった。


「……」


しかし陽子さんはなんで顔を真っ赤にして俯いているんだろう。


解らない。


「そう、ありがとう、それじゃ、先に行くね」


「あっ」


「……」


「奈々子……あれは何かな?」


「何かなって、剣お兄ちゃんだよ! 嫌だなぁ、お姉ちゃんの同級生で、私がもっかアタック中の剣お兄ちゃんだよ、しっかりしてよ!」


「奈々子、貴方、あれ知っていたんでしょう?」


『絶対に知っていたわね、それじゃなくちゃ……あの奈々子の態度の説明がつかないわ。これでようやく奈々子が、あんな行動とっていたか解ったわ』


「さぁね? 私はお姉ちゃんみたいに外見で人を判断なんてしないだけだよ? だって剣お兄ちゃんって運動神経も凄くて素敵なんだから」


『そんなわけないじゃない! 何時? 何時気がついたんだろう…… そうだ、初めて会った時、私が買い物から帰ってきた時だ。奈々子は愛想を振りまきながら手当をしていた。多分あの時から気がついていたんだ。あれが本当の黒木くんだって、じゃなければあんなしおらしい態度とる訳が無い、しかも暇さえあれば、剣お兄ちゃんの事教えてって言っていた』


「違うわね? 最初から知っていたんだよね? そう言えば黒木くん、家でお風呂借りていたもん。その時にあの素顔を見たんだよね」


「うん、そうだね、だけどそれがお姉ちゃんに何か関係ある?」


『認めたわね……本当にしらじらしい』


「関係あるって、奈々子知っていたなら教えてくれたっていいじゃない?」


「あれっ、もうお姉ちゃんには関係ないと思うな?」


どう言う事よ?


「何でよ?」


「だって奈々子、もうお父さんにもお母さんにも、剣お兄ちゃんが好きだっていってあるし、お姉ちゃんにも協力してね!って言ったよ?」


「だから、なによ! あれなら私だって……」


「だけど、良いのかな? もしお姉ちゃんが、剣お兄ちゃんと付き合うような事になったら、私お父さんとお母さんの前で泣いちゃうと思うな?『お姉ちゃんが大好きな剣お兄ちゃんを取った』って、だからもう、お姉ちゃんには剣お兄ちゃんが幾らカッコ良くて理想のタイプでも関係ないと思うんだけどなぁ~」


「奈々子、貴方私を嵌めたわね」


「そんな事言わないで、仲良し姉妹でしょう? だけど、恋愛は別当たり前じゃない? 彼氏、恋人は家族を越えて一番好きな人の事を言うのよ、知らないの?」


相変わらず……我が妹ながらいい性格しているわ。


「そうね! だけどあれだけカッコ良いんだもん!まだ奈々子の物と決まった訳じゃないでしょう? 奈々子でも、きっと落とせないと思うな!」


「そうかな、私剣お兄ちゃんにお姫様抱っこして貰ったよ、多分一番リードしているのは私だと思うな」


「確かにそうかもね? だけど奈々子ってさぁ確かに可愛いけど、ナンバーズじゃ14位じゃない?」


※ナンバーズとはこの学校非公認の美少女ランキングの事です、新聞部が投票で決めています。


「だから、何かな? 私はこれからどんどん可愛くなるんだから……」


「そう? だけど、あんなにカッコ良いんだから、人気の高い『麗しの生徒会長』とか『美しすぎる女剣士』なんて人も狙ってくるんじゃない? まぁ解んないけどね……少なくとも麗華さん達は黒木くんと最近仲が良いわ! 流石の奈々子も麗華さんと比べたらただのガキじゃないかな!」


この位、言わせて貰っても良いよね。


「ううっ、煩いなぁ奈々子は『可愛いの』」


「別にいいけどさぁ! 私にマウントとって喜んでいる場合じゃないとおもうなぁ! お姉ちゃんは確かに奈々子より綺麗じゃないし可愛く無いよ? 多分戦力外だわ。だけど元から私なんかより、もっと綺麗で可愛い人が学園には沢山いるんだからさぁ、関係ないんじゃないの?」


「そうだったわ……頭から抜けていました、お姉ちゃんどうしよう?」


「お姉ちゃんはぁ! しーらないっと!」


『今迄なら兎も角、あの容姿だもん。流石の奈々子もきっと苦労するよね』


◆◆◆


「あの子、凄く綺麗、転校生かな?」


「たまりません、たまりませんわ~まるで小説から抜け出て来たような王子様みたい!」


「アイドルにだって居ないわ、あんな人、写真撮っちゃおうかな?」


外見だけでこんなに周りの反応が変わるのか?


確かにこの姿は姉の理想の姿に調整されているからかなりの美形だとは思う。


何しろ『剣ちゃんの外見にはお姉ちゃんと夢と希望を詰め込みました』とか言っていた。あの姉がそこ迄言うのだから間違いはない。


だけど、人間の価値はそんな物じゃない筈だ。


心や強い意思、それにプラスしてそれを貫き通す力。もしくは誰にも思いつかない発想じゃないか?


外見が欲しいなら、それこそ3億も貯めてハリウッドで全身整形でもすれば、誰しもが美しくなれる。


だから『お金で買えるそんな物に価値は無い』


僕はそう思っている。


この学園に来て『侮れないと思った』粗削りではあるけど僕にとっては凄い宝物の様な人間に会う事が出来た。


砂漠から砂金を探す様な物だけど、他にも居るかも知れない。案外組織を離れても、素晴らしい人間を探して見るのも悪くないかも知れない。



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