第27話 甘い生活

最近、ようやく元のペースを取り戻してきた。


本来の僕の朝は早い。


僕の改造された方法は生体改造。


ゆえに機械化改造と違いその維持にはトレーニングが必要だ。


朝早くから起き、トレーニングをしシャワーを浴びる。


そこからPCを叩き、自分で作り上げた、投資用プログラムに独自のデーターを加えて微調整を計る。


本当は15時まではPCに噛り付きたい、常にそう思っていたが姉さんがそれを許さなかった。


僅かな時間で投資が完璧に出来る様に仕方なく作り上げたのがこのプログラムだ。


大体放っておけば1日に数十億~百億以上のお金が増えていく。


世界征服を目指すにはこれでも足りない。


オーバーテクノロジーを手に入れるには莫大な金がかかる。


戦車や戦闘機、ミサイルの様な物ですら、数百億なんて簡単に飛ぶ。


それすら超える改造怪人の開発。


幾らお金があっても足らなかった。


だけど……それをやめた今……お金はどんどん溜まっていく。


まぁ、お金は幾らあっても困らないよな。


これで良し。


此処から昔は『姉さん』の面倒を見てから組織の仕事をするのが日課だった。


だが、やる事を無くした僕はここ暫く、このお世話の時間が無くなり暇になってしまった。


折角、麗美さんとのお付き合いが始まったのだから、姉さんにしていた事を少ししてみよう。


朝食でも作るか。


スクランブルエッグにコーンポタージュは姉の拘りに合わせ、烏骨鶏の卵に北海道産のコーンを使って作る。


有機野菜のサラダを加え、パンもパン焼き機で自分で焼いた自家製パンに同じく、腸詰めから肉入れる肉に拘った自家製のソーセージ、それに高級茶葉で入れた紅茶。


誰かの為に料理するなんて久しぶりだな。


折角だから、政さんの分も含んで三人分作った。


用意した後に、鍵を使って麗美さんの部屋に入る。


こう言うだらしない所も姉さんに似ているのかもな。


無造作に散らばった衣類を集め洗濯機に入れてまわし、バスガウンを用意してお風呂を沸かした。


姉の時には下着まで用意したが、不味い気がするからそれは止めておこう。



掛けてある制服は皺が寄っていたので、スチームを使い掛けてあった制服の皺を伸ばした。


さぁ、麗美さんを起こすかな。


寝室に行き、麗美さんを起こそうとしたが……何故なんだろう。


麗美さんを見ていると、幼い顔をしていた姉と見た目は正反対なのに、何故か姉と重なって見える事がある。


昔、同じ様に姉さんを見ていたら、気配に気づかれジロジロ見るなと『お姉ちゃんパンチ』という鉄拳が飛んできた事があったな。


不思議と、何故かあれ、躱せないんだよな。


寝顔を見続けるのは良くないよな。



「麗美さん、朝ですよ! 起きて下さい」


「う~ん、剣様 あっ!おはようございます」


「お風呂の準備が出来ていますよ」


「あっ、有難うございます」


どうしたんだろう? 顔を真っ赤にして……


◆◆◆


ついにこの時が、来てしまいましたわ。


お風呂も沸かして用意までして下さっているんですから、そういう事ですわね。


身も心も捧げていますから、問題はありませんが、朝からなんて少し恥ずかしいですわ。


しかし、脱衣所に行、着ていたネグリジェを脱いでお風呂に入ると……凄いですわね。


ただでさえ立派なお風呂なのに湯舟のお湯から香水の様な臭いがしてきて……薔薇の花びらまで散りばめてありますわ。


これから、私は初めてを捧げる……そう思い体の隅々まで綺麗に洗いました。


これで大丈夫ですわね。


私がお風呂から上がると剣様がそこに待っていましたわ。


「剣様、その待ちきれなかったのですか?」


全裸を見られるのは恥ずかしいのですが、すべて捧げると誓った身です。


隠すのもおかしいですわね。


それでも、いきなり何て恥ずかしすぎますわ……


「風邪ひいちゃいますよ?」


伏し目がちで、優しくバスローブを掛けてくれて、本当に紳士的ですわね。


「髪乾かしますね」


「えーと剣様!?」


大きなバスタオルで髪を拭かれまして、ドライヤーで手櫛で髪を乾かしてくれています。


「こんな感じで良いかな?どうですか?」


えっ……もしかして私の勘違いなのですか……


いやだ、私とした事が……


「バッチリですわ、凄く器用なのですね」


「折角、僕みたいな人間と付き合って頂けるのですから、この位はさせて頂こうと思いまして、あっ食事も出来ていますので着替えがすみましたら僕の部屋に来て下さい!」


「はい、直ぐに準備しますわ」


正直、少子抜けしてしまいましたわ。


ですが、これが普通のお付き合いなのでしょうか?

剣様に髪を触れただけなのに、凄い幸せを感じてしまいますわ。


朝からドキドキが本当にとまりませんわ。


◆◆◆


「黒木さん、これは一体なんですかい!」


「折角なので、皆の朝食もご用意しました。もし好みじゃ無かったら言って下さいね! 明日から新しいメニューにしますから」


「これを剣様がお作りになられたのですか?」


私の目の前に朝食が用意されていました。


「僕こう見えて家事も得意なんですよ! ちなみにパンとソーセージは自家製で、ちょっと自信があります」


「凄いな、これまるでお店で注文したみたいだな」


政が言うのも頷けます。


どう見ても、ホテルのモーニングメニューより綺麗な色どりで美味しそうに配膳されています。


「まぁ、姉に仕込まれたので、この位は出来ます。冷めないうちにどうぞ」


一口、口へ運ぶと……凄く美味しいですわ。


このソーセージ凄くジュウシ―で肉汁が溢れてきますわ。


しかも、向かいに座った剣様はとても優雅にお食事をしています。


思わず見惚れてしまう程素敵ですわ。


私はそういう物に余り興味はありませんが、食器は銀色で凄く高級そうに見えます。


「凄く、美味しいですわ、有難うございます」


「凄く美味しかった」


本当に美味しいですわ。


しかも、これが剣様の手料理なら尚更ですわ。


「どう致しまして、こうやって誰かと食事するのは久しぶりですので、凄く楽しかったです。褒めて下さってありがとう御座います。もう少ししたら一緒に登校しましょう。あとかたずけと準備が終わったら声を掛けますので、それまで暫く寛いでいて下さい」


そう言うと剣様は食器をかたずけ始め、紅茶を入れ直して下さり、お茶請けのクッキーまで用意して下さいました。


「有難うございます」


「どういたしまして」


そう言って黒木様は部屋から出ていかれたのですが……


『お嬢、黒木さん女子力迄高すぎじゃないですか? これは想定外じゃないですか?』


『凄く不味いのですわ、まさか、家事迄此処まで出来るなんて思いませんでしたわ……しかもこんな上等な扱いまでされてどうして良いかわかりませんわ』


今迄の男は誰しもが私を求めてばかりでしたわ。


よく考えてみれば『すぐに私を求めて』きました。


だから、その見返りを求めたら、そこで終わり。


対価も払えないクズでしたわね。


ですが、剣様は全く逆ですわね。


勇気を見せてくれて……


強さを見せてくれて……


そして、誠実さや優しさを見せてくれる。


こんな凄いタワーマンションの部屋を私の為に惜しげもなく買ってくれて、たった一日しか経っていないのに、私が好みそうな家具や家電で埋め尽くされていましたわ。


充分に私を養う程の資金力がある……そう言う事ですわ。


お金があるから?


それだけじゃ無いのが良く解ります、よく考えたらしっかりとベッドメイキングまでされて、必要な物の全てに手が届くように配置されていましたわ。


これは多分剣様が私が住みやすい様に整えてくれた証拠ですわ。


見た所、使用人は居ないようですから……それを全部、剣様一人でしたと言う事ですわね。


あの朝食だってそう。


凄く手間暇がかっていたのがわかりますわ。


きっと早起きして用意してくれたに違いありません。


この制服も皺が全く無くなっていますから、もしかしたらアイロンまでかけてくれたのかも知れません。


お風呂もバラの花びらを散らばせて素晴らしい演出ですし、凄く香しい臭いで素敵でした。


あのまま、抱かれても良い。


いえ自分から剣様を抱きしめたくなった位なのに……


そのまま、バスローブを掛けてくれるなんて……


普通の男ならあの状態なら野獣の様になるでしょうに。


よく思いだしたら、目を伏し目がちにして私の体を見ないようにしていましたわね。


その後は私の髪をまるで慈しむ様に乾かしてくれましたのよ。


信じられませんわ。


私は、本当にどうして良いか解らなくなりました。


だって身も心も捧げるつもりが、逆に捧げられているんですから……本当に困ってしまいましたわ。


◆◆◆


紅茶を飲み終わり少ししたあと。


「あの、剣様は私にして欲しい事はありませんの」


この言葉は、今迄と違います、負い目とかからでなく本当に剣様の為なら何でもしてあげたいそう思ったのですわ。


「麗美さんが傍に居てくれる、それだけで充分です」



こんな事言いますのよ。


本当にズルいですわ……どうして剣様は私が欲しい言葉をかけて下さいますの。


『私だって剣様が一緒にいて下さるだけで充分です』


そんな事言われてしまったら、もう絶対に離れられなくなりますわ。


今迄も凄く好きでした。


ですがこの瞬間からその『好き』が全く変わってしまいましたわ。


多分、この愛を邪魔する者が居たら、親友だろうと親だろうと殺してしまいそうな位、狂おしい位好きになってしまいましたわ。


◆◆◆


「剣様……これは一体」


歩いて登校するのか、そう思っていましたら、サイドカーつきのバイクがマンションのエントランスにまわしてありました。


「麗美さん、まだ中型二輪までの免許しか持ってなくて400CC以下のバイクしか運転できないんです。だから窮屈ですみませんがこれで行きましょう!」


何処まで剣様はサプライズをしてくれるのでしょうか?


お揃いのヘルメットが凄く嬉しいですわ。


油断したら涙が出てしまう位嬉しくて仕方ありませんわ。


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