第26話 ありえませんわ

さて困った。


僕は女性と付き合った事が無い。


麗美さんは凄く魅力的な女性だ。話しているとつい『姉』を思い出す。


だからって直ぐに同棲して良い物なのだろうか?


姉さんは何ていっていた?


思い出さないと。


『良い、剣、貴方の容姿は誰でも虜になる位綺麗だわ、まぁ私の理想の殿方を実現していますからね』


『そうなのでしょうか?』


『そうよ、だけど男に必要な物はそれだけじゃ無いの。お金、権力、優しさ、包容力、必要な物は山程あるわね』


『まだまだ足りない、そういう事ですね』


『そうよ、もし、貴方が本当に好きな方が出来たらその時は、相手の事を考えて動きなさい』


『よく解りません』


『今はそれで良いわ……だけどいつか解る日がくるわ』


確かこんな感じの会話をした記憶がある。


麗美さんは僕の為に身一つで来てくれた。


組織がなくなり、たった1人になった僕に寄り添おうなんて人は居なかった気がする。


だけど、麗美さんは女の子だ。


あれ程綺麗で姉の様な女の子がずうっと僕の傍に居てくれるものだろうか?


僕から去っていった時。


男と同棲していたなんて話があれば彼女の人生はマイナスになる。


だけど、傍に居てくれる。


その想いは凄く嬉しい。


彼女の期待に答えたい。


真剣にそう思う。


だったら僕はどうすれば良いのだろうか?


頭の中でどうしたら良いか考え、僕は銀行に電話を掛けた。


◆◆◆


「剣様、おはようございます! 本当に待ちどうしくて朝から来てしまいましたわ」


「おはよう麗美さん! いらっしゃい」


相変わらず、政さんも一緒だ。


まぁしっかりと準備しておいたから大丈夫だ。


多分、麗美さんは家が家だから用心坊みたいな人が必要なんだと思う。


僕はオートロックの扉を開けて入ってきて貰った。


このタワーマンションの最上階のエレベーター前で麗美さんを待った。


「態々、出迎えて下さいましたの?」


「はい、これをどうぞ」


僕は鍵を二つ麗美さんに渡した。


「鍵ですわね? これを私に凄く嬉しいですわ。ですが何で2種類もありますの?」


「一つは僕の部屋の鍵でもう一つは麗美さんの部屋の鍵です」


「私の部屋の鍵? それは、どういう言う意味ですの?」


「本当に悩んだんですよ。僕はお恥ずかしい話、恋愛はまるっきり解りません」


「そうなんですの?信じられませんが……」


「黒木さんどう考えてもモテるでしょう? そんな美形でその男っぷりで信じられねーよ」


『こんな素晴らしい方がモテない何て信じられませんわ』


「それで考えたんです! 僕には足りない物が多いから、好きな人が出来たら『相手の事』を考えなさいって姉に言われていたので……」


「そうですか? それとこの鍵と何か関係がありますの?」


「ほら、結婚前の男女がいきなり同棲すると色々と問題があるじゃ無いですか?」


「私は気になりませんわ!」


「ですが、男の僕は兎も角、麗美さんは女の子です。悪い噂が立つといけない」


「私はそうなる覚悟を持って来ていますから気にしなくて良いんですのよ! 政なに笑っていますのかしら?」


「お嬢はヤクザの娘、悪い噂ならもう山ほどです……痛っ! お嬢脛を蹴らないで下さい! 痛いっ! いや、なんでもありません」


政さん、今脛を蹴られたな。


「僕が凄く気になります。それにもし付き合って別れでもしたら、同棲したなんて事は女の子には凄くマイナスになると思います」


「剣様、まさか私と別れる、そんな事を考えてますの?」


「そんな、考えていません、寧ろ僕が振られるのではと考えています」


「それはあり得ませんわ、私の身も心も全て剣様の物ですから」


「それは凄く嬉しいです、ですがまだ僕達は学生です。急がなくてもゆっくりで良いんじゃないですか?」


「それはまだ同棲しては下さらないと言う事でしょうか?」


『ヤバイ、お嬢が泣きそうな顔をしている、八つ当たりが怖え』


「同棲とは違いますが、その鍵の一つは僕の部屋でもう一つはさっき言った通り、そこは麗美さんの部屋の鍵です。まぁ、僕の隣の部屋の鍵になります」


「私の部屋の鍵ですの?」


『これは、私のお部屋が隣、そういう事でしょうか?』


「折角だから、一緒に見ませんか? 麗美さんに気に入られる様にしっかり家具や家電も選びましたから」


「え~と、はい」


『此処は凄く高いマンションの筈です、買うにしても借りるにしても相当な金額の筈ですわ』


「どうですか? 麗美さんをイメージして頑張って揃えてみたのですが、気に入って貰えましたか?」


「気に入るも何も、凄い家具ですわね、最新家電も揃っていますわ……凄すぎますわ」


『これ、幾らしますの? 唄子さんがやたら自慢していた昔の生活以上の気がしますわ』


「服とか靴とかはサイズが解らないので、今度休みの日に買いに行きましょう。流石に僕も休んでばかりなので少しは学園に通わないと不味いですから」


「えっ服まで買ってくださるのですか?」


「つき合うなら当たり前じゃないですか? 優しさと強さと経済力がない男は女の子と付き合う価値はない……そういう話しです」


『女の子の為に頑張るのが男』


姉さんはそう言っていたよな。


「それって買い物デートのお誘いですわね! 有難うございますわ」


「あっ確かにそうですね、どう致しまして」


「それで、剣様の部屋の鍵も預けてくださるのですか?」


「はい! 何時でも入ってきてくれて構いませんから」


「本当に、本当に宜しいんですの?」


「はい麗美さんなら大歓迎です」


「それなら、そうですわ。私の部屋の鍵についているこのスペアをお渡ししますわ」


「それは……」


「私だけ二つ持つのは平等じゃありませんわ。勿論、剣様ならいつ来て頂いても構いません」


「そうですか、そういう事なら受け取ります」


「ええ、そうして下さい」


『黒木さん! それで良いのか? 結局お互いが合い鍵持ってしまったら同棲しているのと変わらないじゃないか?』


「麗美さん、僕は貴方から逃げるような事はありません! そして時間は沢山あります。ゆっくり関係を深めて行けば良いんじゃないでしょうか?」


「そうですわね。その通りですわ!」


「そうですよ、普通に映画を見に行ったり、遊びに行ったり……1から始めましょう」


僕はそう言う事をした事が無い。


だから、もし誰かと付き合うなら1からいや0から始めたい。


「良いですわね! 私もそう言う事をした事はありませんわ」


「一緒にご飯を食べたりするのもきっと楽しいですよ!」


「はい、本当に楽しそうですわ!」


『私は小太刀や亜美以外とそんな時間を過ごした事はありません……まして相手が殿方なんて初めてですわね』



「ただ二人であてもなく散歩したりするのも良いですね」


「それも剣様となら楽しそうですわ」



「とにかく、時間は沢山ありますから、ゆっくりと距離を縮めて行けば良いと思います」


「そうね、私かなり焦っていたみたいですわね。ゆっくりと縮めて行けば良いのですわね」


『ですが、これは同棲と全く同じですわ。いわゆる通い妻って事ですわね』


◆◆◆


しかし、驚きましたわ、まさか政にまで部屋を用意していたなんて……政の部屋何て要りませんのに。


政にまで私の横の部屋を購入するなんて、驚きましたわ。


あの後、さり気なくこのマンションについて調べたら、全て分譲でしたわ。


しかも一番安い部屋でも1億6千万。


最上階の部屋はどれも3億を超える部屋しかないみたいですわね。


つまり、私の部屋も政の部屋も3億円以上……しかもこの家具から家電どう見ても高級品でテレビなんて100インチもありますわ。


このソファも革張りだし……このテーブルもハニーオーツ製ですわ。


全く剣様には驚かされるばかりですわね。


あんな家に生まれたから真面な恋愛なんて出来ない。


そう思っていましたわ。


ですから、私の望む男性は、ただ『裏切らない』『守る』それだけ誓って実行できれば良いと思っていましたわ。


だって私は疫病神みたいな女ですから、それ以上は望むつもりは無かったのです。


私と付き合うなら将来はヤクザしか選択肢はありません。


しかも命の危険も常にあります。


そんな私が相手にそれ以上を望むなんて、到底出来ませんわよ。


だが、私の前には『裏切らない』『守る』それすら出来ないクズしか現れませんでしたわ。


ですが、剣様は違いました。


『裏切らない』『守る』だけじゃない、凄く優しくて、凄くカッコ良くて、凄く強くて……


考えてみると凄いわね……まるで私の夢から出て来たような人ですわ。


しかも、私はその剣様が愛したお姉さんにそっくりなのですわ。


同じ部屋で暮らせないのは残念ですが、この部屋が、このベッドが家具が、全部私への愛の証なのですわ。



そう思ったらこの部屋全てが愛おしく思います。


本当に困ってしまいますわ。


此処まで愛を示されてしまっては、もう何を返してあげてよいか解りません。


もう、身も心も捧げておりますのに、私は一体どうしたら良いのでしょう。


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