第25話 恋愛は早い者勝ち!

「お父様、それでは私行ってきます」


「麗美、何処に行くっていうんだ!」


剣様の所に決まってますわ。


今更、何を言っているのでしょう?


「何をおっしゃっておりますの? 剣様の所に決まってますわ」


「おい、それは遊びに行くと言う事か? いきなり男の部屋に行くのは流石に許可出来ないぞ!」


自分で許可した癖に何を言っているのでしょうか?


「お父様、何を言っていますのかしら? 遊びになんて行きませんわ! 一緒に暮らす為に出て行くんですのよ? 頭おかしくなりました?」


我が父ながら、頭がおかしいのでしょうか?


自分が何を言ったのか完全に忘れてますわね。


あの場でお父様が言っていたのはどう考えても、友達として付き合うという条件じゃありませんでしたわ。


普通に考えて、婚約もしくは結婚の条件にしかとれませんわよ。


ええっ! 言質をとった以上、文句何て言わせませんわ。


「麗美! 結婚前の娘が男と暮らすなんて恥知らず、俺が許すと思うのか?」


「結婚はしてませんが、殆ど婚約に近い状態だと思うのですが?」


「俺は交際は認めたが、そこ迄は認めていない!」


しっかりと録音しておいて良かったですわね……


「竜ケ崎組、組長ともあろう者が、自分の言葉に責任も取れないのですか?」


「俺は何も言っていない!」


全く往生際が悪いですわね、私はスマホを取り出して、録音した内容を再生しました。


『二人はそれで良いだろうな! 最悪、この社会から足を洗って別の世界で生きられる、だが麗美は違う』


録音されていると思って無かったのでしょう? 顔色が変わりましたわね。


『そうだ、魔性だ! 此奴には0か100しかない、此奴が付き合ったら多分お前が望む事は何でも答えるだろう、大人の関係も含んでだ、だがその代わり裏切ったら躊躇なくお前を殺すかもしれない、もしかしたらお前を殺さなくても浮気相手の女は多分大変な事になる』


今考えると随分と酷い言いぐさですわね。


『此奴の気性は俺より荒い、ヤクザの組長の俺よりもな、だが、この世界に生きる此奴には必要な事、だから此奴と付き合いたいなら暴力に慣れる事、そして、そんな暴力からも守れるような男じゃなくちゃいけない』


『俺はアンタの子分じゃない、出所して暫く世話になっているだけだ、主義は変わらねーな、世話になっているから殺せと言うなら受けるぜ』


『み、認めよう』


「これの何処が交際までの話ですのかしら? どう考えても、将来的なこの組の跡取りとしての話、随分と酷い言いぐさですが、私が大人の関係になるような話までされていますわね? 更に、お父様はその証明に剣様に命を賭けさせましたのよ? あの勝負、普通の人間なら最低で大怪我、場合によっては死んでいましたわね?」


「なっ、お前録音していたのか? だが、そこ迄の内容じゃないだろう!」


詰めが甘いですわ。


「これよく考えて下さいます? 言葉を端折ってますが、重要な部分を抜き出しますと『私はこの世界でしか生きれないから、ヤクザに成れ』『私は付き合うなら剣様の望む事に何でも答える、大人の関係も含んで』『私を守れるような人でないと許さない』その結果、凄腕の殺し屋と戦い、それをに剣様が勝って交際を認めた、そういう事ですわ」



「麗美、上げ足ばかりとりやがって……」


「私、お父様の子供ですから? 1人の男性が命を賭けて戦ったのですよ? その重みも知らないお父様じゃないでしょう! これを反故にするなら私、多分暴れますわよ? 八つ当たりで組員の方が怪我するかもしれないし、今度は死人が出るかも知れませんわね!」


「お前、俺を脅すつもりか?」


「別に脅してなんていませんわ! ただ、命がけの戦いが『私との交際』なのですから……そんな誤魔化しはききませんわよ!」


「我が娘ながらお前は本当にたちが悪いな。まぁいい、言ってしまったのは俺だ、好きにするが良い!」


『他の男なら兎も角、黒木なら仕方ない、もし俺が原因で口説けないとかになったら発狂しかねないし、麗美の性格からして、なにしでかすかわからない。折れるしかないな』


「有難うございます、お父様!」


「ああっ、ただやるなら徹底的にやれ、負ける事はゆるさんぞ!」


「心得ておりますわ、お父様! あと、これを小太刀に渡して置いて下さいな!」


賭けは私の負けですわ! 耳を揃えて100万渡しますわ。


包をお父さまに渡しました。


今は、先手必勝。


小太刀に会って感づかれる訳に行きませんわ。


「これを渡しておけば良いんだな? 分かった! まぁ頑張れ」


「はい、では行って参りますわ」


友情と恋は別ですわ……ええっ、決して負けませんわ。


◆◆◆


『龍三、辰子SIDE』


「嬉しそうな顔で行ってしまったな」


「ええ、これで良かったと思うわ」


「男の家に押しかける事が良い事なのか?」


「ええ、私でも同じ立場ならそうするわ。護衛に政をつけて行かせたから、どうにかなるでしょう?」


「幾ら強いと言っても高校生、不意を突かれる事もある護衛の一人位は必要だ!」


「貴方は娘の麗美の事をまだ甘くみているんだね! 私はあの子の暴走を防ぐ為という意味でいったんだよ!」


「麗美の暴走?」


「あの子は私や貴方以上に敵には容赦しない! そんな麗美が本気で恋をしたんだ! もし小太刀さんや亜美さんを邪魔に感じたとしたらどうなるかしら?」


「おいおい、親友だぞ」


「貴方も麗美が過去に何をしたか、忘れて無いわよね? 自分でも魔性だと言っていたじゃないか」


「おい……幾らなんでも二人は親友だぞ!」


「甘いよ……麗美ならきっと躊躇なく殺す位はするでしょうね」


我が娘ながら失念していた。


麗美は躊躇なくそういう事が出来る。


そういう娘だった。


黒木を呼ぶときの敬称が『様』になっていた。


その本気度も解る。


「まぁ俺には関係ない。麗美を惚れさせたのは黒木だ。あの黒木ならどうにかするだろう。もし、そうなったら、そうなったで隠蔽だけしてやれば良い!」


組を割るわけにいかないから『事故扱い』に隠ぺいするしかない。


「あんた、本気かい!」


「仕方ないだろうが! 次期組長候補と娘それに優る者は居ない。お前こそどうだ!」


「わたしゃ、そこ迄冷たく無いよ『そんな事が起きないように祈っている』さぁ」


「そうだな」


何事もないよう。


麗美がなにかしない事を、俺には祈る事しか出来ねーな。


◆◆◆


『麗美SIDE』


ここが剣様のご自宅ですのね。


最初は隣のアパートかと思いましたがよく考えたら、あれ程の手土産を持ってくる剣様がそんな貧乏くさいアパートに住んでいるわけありませんわ。


しかし、凄いマンションですわね。


凄く豪華なタワマンですわ……しかも、最上階なんて凄いですわ。


「政、もう結構ですわ!家におかえりなさいな」



「お嬢、そういう訳にはいきません。親父についているように言われていますから、離れるわけにいかねーんです」


これから甘い生活が始まるのに何で邪魔な此奴がついてくるのでしょうか?


「政、迷惑ですわ!さっさとお帰りなさいな!」


「お嬢、どうしても帰れません! 今帰ったら俺がどういう目にあうか解るでしょう?」


「そんなのは私に関係ありませんわ!」


「お嬢……勘弁して下さい!」


「本当に無粋ですわ! 私と剣様の愛の巣に入り込もうなんて!」


「俺にも立場があるんですよ、許して下さい!」


「まぁ良いですわ、仕方ありませんわね」


流石に、剣様との愛の巣まで転がり込んできませんわよね?


しかし、いざ来てみたら緊張しますわね。


ただインターホンを鳴らすだけの事でこんな緊張すると思いませんでしたわ。


スーハ―スーハ―、さぁいきますわよ。


「お嬢、インターホン押さないですか? なら私が押しましょうか?」


なっなっ、何で勝手に押しますのよ……


「どちらさまですか? あっ麗美さんに政さんですね! 今解除して開けますね」


ちゃんとしたセキュリティがあるマンションですわ。


これを理由に帰ってくれませんかしら?


「政、ほら行きますわよ!」


「へい」


これから剣様の部屋に行くのですわ……流石に緊張しますわね。


◆◆◆


『部屋にて』



「いらっしゃい、麗美さんに政さん、いきなり来られて今日はどうかされたのですか? とりあえず、お茶を入れますから、こちらのソファで寛いでいて下さい。来るとおっしゃってくれればおもてなしの準備して置いたのに、少々お待ちください」


いきなり来られてどうかしたのかな?


「そんなお構いなく」


『お嬢、凄い部屋ですよ、調度品も家電も家具も凄いですぜ』


『余りキョロキョロしないで! 恥をかかせないで下さいまし』


「でも、お嬢……」


「お茶の準備が出来ました。飲みながら話しませんか?」


2人にキッチンから持ってきた、お茶セットを使い。ガラスの急須からお茶を注いだ。


政さんと麗美さんが不思議がっている。


どうしたのかな?


「どうかしましたか? 」


「随分変わったお茶ですのね?」


ああっ、このお茶の事か……


「これウーロン茶ですよ。 ただ、最高峰の鉄観音って言うんです。お客様用なので、頭等賞を受賞した物をお出ししています。 僕は拘りが余り無いから普段は安物を飲んでいるんですけね」


お客様には最高のお茶を用意する。


これは中国マフィアとの取引で覚えた事だ。


「色が随分、薄いんだな!」


「ええっ、この黄金色が鉄観音の特徴です」


「一杯目は捨てるんですのね!」


「なんでも、お茶の中の不純物を捨てるらしいです。姉がお茶には拘っていたので、つい癖で買い続けています。本格的な入れ方は、小さな湯呑にピンセットを使い独特の作法で入れるのですが、すると会話が楽しめないので略してます」


「美味しい、有難うございます」


「凄く美味しいですね」


姉さんは本格的なセットを使って重要なお客様には自ら入れていた。


だが、あれだと終わった後じゃないと会話が弾まないから僕は苦手だ。


こんな感じで僕は充分だと思う。


「良かった、気に入って貰えて、それで今日はどうかされたのですか?」


麗美さんが今迄家に訪ねて来る事は無かった。


交際を許可されたから遊びに来たのかな。


「そそそそ、それはですね、あのですね」


うん!? いつもと様子が違う……どうしたんだろう?


「お嬢、落ち着いて」


「私は、剣様と一緒に暮らそうと思って此処に来ましたのよ、ほらお父様の話の内容だと、そういう話でしたから……」


確かに、小太刀さんや亜美さんと違って麗美さんとの交際はそういう内容に僕も思えた。


だけど……本当に良いのか?


「それで龍三さんや辰子さんからは許可は頂いているのでしょうか?」


「ええっ問題無く、許可を頂いておりますわ」


両親が許可を出しているのなら問題は無いのか?



「それなら、問題はありませんね、ただ女性を迎え入れる為にはまだ準備不足ですから、そうだ一緒に暮らすのは明後日からにしませんか? ちゃんと迎え入れる準備をしておきますから、どうでしょうか?」


このままは流石に問題があるよな。


「そうですわね、流石にいきなり過ぎましたわ。そういう事ならお待ちしますわ」


『良かった、もしお嬢の勘違いだったら、血の雨が降る所だった。これは良い。一旦帰してから受け入れるなら、しっかり筋も通るし、全て丸く収まる』


「それじゃ、今日は送っていきますね、と言ってもタクシーですが、荷物はお預かりしておきます」



「あ、あ有難うございます」


その後、僕は麗美さんをタクシーで家まで送っていった。


一緒に暮らすのであれば、親にも挨拶をした方が良いだろう、そう思い挨拶をしようと思ったが、龍三さんは居なかったので辰子さんにその旨を伝えた。


「それじゃ、明後日からお嬢さんをお預かりします」


「ええっ、麗美をお願いしますね」


挨拶は終わったのでそのまま家に帰った。


1日で全部用意するのか……結構大変そうだ。




※ 話がややこしくなりそうなので此処から 麗美と下の名前の表記にします。



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