第22話 竜ケ崎組へ 後編
後ろで竜ケ崎さんが鬼の様な形相で龍三を見ている。
竜ケ崎さんからしてみれば、2人が実質交際を許して貰ったのに自分だけが許されない。
かなり怒りが溜まっているんだろうな……
龍三がそれを無視するように話だした。
「二人はそれで良いだろう! 幹部とは言え組員の娘だ! 最悪、この社会から足を洗って別の世界で生きる事も出来る。だがうちの麗美は違う! 」
確かに組織のトップの娘。
確かに二人とは立場が違う。
「お父様!」
「少し黙れ! 此奴と付き合うと言う事は、この世界で此奴が生きるという事だ! それに麗美の気性は、ある意味魔性だ! 普通の男がつき合える娘じゃない」
「魔性?」
「そうだ、魔性だ! 此奴には0か100しかない、麗美とお前が付き合ったら麗美はお前が望む事は何でも答えるだろう。大人の関係も含んでだ。だがその代わり裏切ったら躊躇なくお前を殺す。もしお前を殺さなくても、お前の浮気相手の女は命を落とす事になる」
『裏切ったら殺す』『敵には容赦しない』当たり前の事だと思うが当然の事だ。
何を言っているのだろう。
「それは人として当たり前の事だと思いますが」
「お前は度胸もある、腕っぷしもあるし、頭も良い! だが、所詮は素人だ、本当の暴力を知らない」
暴力? どのレベルだ!
敵の組織の人間を粛正し殺した位で良いのか?
拷問で口を割らせるために顔を硫酸で焼くレベルで良いのか?
四肢切断?
逆らう人間の洗脳。
その位なら、経験はあるが……
それ以上が必要なのか……
「本当の暴力? それがどのレベルか僕には解りません」
どの位の残酷さが必要なんだろうか。
「麗美の気性は俺より荒い、ヤクザの組長の俺よりもな、だが、この世界に生きる麗美には必要な事だ。だから麗美と付き合いたいなら暴力に慣れる事。そして、相手の暴力からも守れるような男じゃなくちゃいけない!」
「それはどうすれば、証明できるのでしょうか?」
目の前で誰かを殺すのは……嫌だな。
「俺が指定する奴と戦って男を見せろ、それで良い」
手加減はするべきだよな……
「それじゃ、俺か政が此奴とステゴロでもすれば親父は認めるんか?」
「いや、虎雄や政じゃ手加減するといけ―ねー、彼奴を呼べ」
彼奴って誰だ?
「彼奴ってまさか、文蔵ですか、あれはいけねー、ヤクザじゃない殺し屋じゃないですか?親父流石に、大人気ないぜ」
殺し屋か……殺し屋ね。
「お父様冗談は……」
「黙れ! 麗美、これは男と男の話だ! どうだ? 受けるか? もし勝ったら娘はくれてやる!」
くれてやる……だと! 竜ケ崎さんの意思の関係なしにこんな事する様な奴には遠慮はいらないな。
「僕はそれで、良いけど? 麗美さんはそれで良いの?」
「正直いえば逃げて欲しい反面 私の為に戦って欲しいそういう思いもあります! でも私の気持ちはもう剣さんの物です!此処までして下さった方はいませんから……剣さんの思うようにして下さい」
「なら受けます」
殺し屋の怖いのは何処からくるか解らない所だ。
自分が一番戦いやすいタイミングフィールドで襲ってくる。
真正面からくる殺し屋など、恐れる必要は無い。
暫く待つと目の鋭い黒服の怪しい男が現れた。
まぁ妖しいと言っても『僕たち』の方が怪しい。
「組長さん、何か様かい?」
立ち居振る舞いもなかなか……これならブラックローズのスカウトの目に止まるかも知れない。
「文蔵悪いが、今からそこの男とちょっと戦ってくれないか?」
此奴が僕の戦う相手か……
「俺は殺し専門、それしか受けねーよ」
戦うなら命の取り合い。
それは当たり前だろう。
尤も……今回の僕は、殺す事が出来ない、ハンデ戦だ。
「おい、報酬は払うから半殺しで止めてくれ」
相手は殺し屋。
殺しの技術を駆使して戦うんだ。
寸止めみたいな事が出来るわけが無い。
出来る時は……相手が相当な格下の時だけだ。
「俺はアンタの子分じゃない、出所して暫く世話になっているだけだ! 主義は変わらねーな、世話になっているから殺せと言うなら殺すが、それ以外は無理な注文だぜ!」
殺し屋に殺すなとは無茶な注文だ。
「それじゃ『僕を殺す』それで良いんじゃないか? 僕は可哀想だから手加減はしてあげる! それでも死んだらごめんなさい」
「プロ相手に手加減だと! お前言っちゃいけない事を言ったな……もう止まんねーぜ!」
これで良い。
手加減なんてされたら興覚めだ。
「おい、俺はそこ迄は……」
龍三は止めに入ろうとしたがもう止まらない。
文蔵はいきなり殴り掛かってきた。
『殺し屋』と言っていたのに……優しい奴なのか?
『駄目だろう』みた感じ、どう考えてもドスとか銃が得意そうな奴が素手だと……
これじゃ反撃してくれって言っている様な物だ。
可哀想だから、こちらも手加減して、軽く躱して鳩尾にパンチをいれる。
この位なら大きな怪我にはならない。
「うげえぇぇぇぇぇぇーーーーっ」
転げまわりながら、辺り一面に盛大に吐いた。
本当に手加減はした……流石に内臓とかは破裂していないだろう。
周りは唖然としているが当たり前の事だ。
冷静さを欠いて武器も使わない。
いや、相手が格下と思い手加減したんだ。
殺し屋が殺し以外の事をしようとしたらからこうなった。..
僕の腹筋は小口径の銃なら通じない位の強度はある。
一流がナイフを使ったら……『少し痛い』位のダメージはある。
「プロなら手加減は止めようか? あんた、恐らく銃かナイフもしくはドスを使うんじゃないの?」
体型、目線の使い方……どんな獲物を使うか想像はつく。
「おまえ絶対に素人じゃねーな……油断した今度は油断しねー」
殺し合いに二度は無い。
本来ならあれで死んで終わっている。
殺したら、あとで問題になりそうだ……だから、ワザと仕留めずにこうした。
「さっさと準備してくれませんか?」
文蔵は奥に引っ込み銃とナイフを持ってきた。
自分が得意な獲物を……常に持ってないのか?
プロ失格だな……
「待たせたな、お前がプロでもこの状態の俺には敵わないぜ」
態々話なんて聞く必要は無い。
話しに返事をせず、今度は此方から攻撃を仕掛ける。
だが優れた殺し屋なのは解った。
手加減しているが、改造人間の僕のスピードに僅かながら反応している。
だから足に蹴りを入れて転がしたあと片手に持った銃を指が折れるのも構わずとりあげた。
指の骨が折れても声も出さず反撃してこれる。
確かに一流だ。
もう片方のナイフが横腹に迫っていた。
戦闘員並みの力はありそうだ……
ナイフを握っている手首をつかみナイフを落とさせた。
鈍いバキッという音がしたから、手首の骨は折った。
これで無効化できた筈だ。
クッ、油断した。
靴の先に小型ナイフの武器を仕込んでいたか、間一髪かわして、そのままもう片方の足も折った。
ここ迄しても顔色を変えない。
やはり凄腕なのかも知れない。
「凄いじゃない……」
流石に汗を掻き、顔色も悪いな。
「あんたも一流だね、靴の仕込みは本当に危なかった」
もし、僕が改造人間じゃ無かったら喰らったかも知れない。
尤も『手加減』してという条件で。
本気なら一撃で殺して終わりだ。
「簡単に躱しておいてよく言うぜ! 俺の負けだ2度も負けたから認めるしかねーな、命はとらねーで良いんだな?」
これは殺し合いじゃないから必要ない。
「あんたは一流だよ! これだけしたのに痛がらない奴は見た事が無い」
「そうかい、ならあんたは超一流じゃねえーか? 龍三さん負けだ、負け、悪いが闇医者を頼んでくれないか?」
「ああっ」
文蔵は本当に一流だった。
僕が改造人間じゃ無ければ確実に追い詰められた。
普通の人間じゃまず勝てない。
激痛で普通なら泣き叫ぶ怪我をしているのに、普通に話している。
脂汗を流しながらだが……これだけでこの相手の凄さが解かる。
「その怪我が治ったら、まぁ飯でも食べませんか?」
「飯か……良いね」
そう言うと文蔵は片足を引き摺りながら片手をヒラヒラしながら去っていった。
あの状態で歩くか……
生身と考えたら凄いな……昔ならきっと僕はスカウトした。
だが、勝ちは勝ちだ。
「これで認めて貰えるんですか?」
「み、認めよう」
「剣さん、凄いですわね、麗美も此処までとは思いませんでしたわ、もうこれで二人に障害はありませんわよ」
麗美さんが走ってきて飛びついてくる。
「何で麗美が飛びつくのかな、私だって親父に許可貰ったんだぜ」
「わたしもだよ」
「あら亜美はまだ仮でしょう? 不味いんじゃないの」
「ううっパパ! あっ居ない」
この後、すき焼きをご馳走になり歓迎して貰った。
久々に体を動かし……楽しい一日だったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます