第21話 竜ケ崎組へ 中編

「客人、準備が出来ました、組長がお会いになるそうです」


待たされる事30分。


ようやく会う準備が出来たようだ。


「政、ご苦労さん、それじゃ剣さん行きましょう」


「有難うございます」


竜ケ崎さんを先頭に三人に続いた。


事前に、三人から家族の情報は聞いていた。


竜ケ崎龍三


広域暴力団、竜ケ崎組組長。


麗美の父親、苗字にも名前にも竜の文字が入っているからWドラゴンと若い頃は言われていた。


昔気質のヤクザで堅物、義理人情に厚く子分からも慕われている。


その反面、敵には容赦ない性格をしていて一旦敵とみなしたら容赦ない。


娘の麗美が絡むと冷静さが無くなり、冷酷な一面が強くなるらしい。


竜ケ崎辰子


龍三の妻、麗美の母


龍三が頭が上がらない唯一の人間。


龍三程の親ばかでは無いらしい。


義理人情が好きで、奔放、曲がった事が嫌い。


物事を冷静に見ることができる反面、打算的でもある。



北条虎雄


広域暴力団 竜ケ崎組の若頭。


小太刀の父親。ある意味本当の極道、小さな組だった竜ケ崎組を武力によって上へ押し上げたコテコテの武闘派。


義理人情に厚いが、好戦的で、その強さに自信がある。常々小太刀に「男とは強さ」だと語っている。


その為、小太刀も自然とそういう男に惹かれるようになっていったらしい。


『俺より強い奴じゃないと娘は渡さない』そういう親ばかだと北条さんは言っていた。


三上鳳凰


広域暴力団 竜ケ崎組の舎弟頭。


亜美の父。竜ケ崎組の経済を担う経済ヤクザ。企業舎弟 鳳凰グループの社長も兼ねている。


世の中は金だ、そう思っている節がある。亜美に「男に必要なのは金と権力だ」そう伝えているが、亜美は反発している。


三人の中で一番親ばかで亜美からは少し嫌われているようだ。


おおよそこんな感じだった。


まぁ一癖ありそうだが、どうにかなるだろう。


長い廊下を歩いていくと一室の前で立ち止まった。




政さんと呼ばれた組員は襖をあけてくれ中に通された。


部屋の中は……


一番奥に4人居る、この人たちが竜ケ崎さんの両親と北条さん三上さんの父親だな。


そしてその隣に3つの座布団がある。


此処には竜ケ崎さんと北条さん三上さんが座るのだろう。


そしてその前に左右に組員らしき男が3名ずつ6人いる。


多分、あの手前に座れと言う事か……随分下に見られた物だ。


座布団も無しか。


客人と言いながら礼儀を示さない、この態度。


さぁ、どうしてやろうか?


これはどう考えても無礼だ。


僕は今回『招待されてきた』


だからこそ服装を整え、手土産まで用意してきた。


実際に組員は僕を『客人』と呼んだ。


ならこれは向こうの落ち度だ。


そのまま、真っすぐ歩き、組長である龍三の前まで歩いて行く。


組員が動こうとしたが鳳凰が手で制した。


それで良い。


ここで手を出してくるなら、殺しはしないが力でねじ伏せる。


「小僧、何のつもりだ」


それは此方の言い分だ。


相手に対して敬意を払わない。


それだけで、僕の生きていた世界では命のやり取りになる事もある。



「竜ケ崎組とは随分、失礼な組織のようですね? 招待したくせに座布団も無い、こっちは手土産まで用意したんだぜ! 礼儀を尽くした相手に非礼で応じる……随分と心の狭い人間の集まりのようですね!」


睨みつけながら目を逸らさずに話した。


「組長相手に、ガキが無礼だろうが」


手前の組員が叫んだが気になどしない!


こちらは誠意を見せた。


それに対して非礼で応じたのはそちらだ。


僕はその組員の前に行き、手前にあったお茶を頭から掛けた。


客人に対して『ガキ』と呼んだんだこれ位当たり前だろう。


ビシャビシャと音をたててお茶は組員を頭から水浸しにした。


周りは驚いた顔をしていたが、なんだか竜ケ崎さんだけは笑っているように見えた。


「ガキただで済むと思うなよ!」


ただで済ませてやっているのは此方だ。


「僕は客人として此処に来ているんだ。他の組員の方は『客人』と僕を呼んだよ! 竜ケ崎組では客人をガキと呼ぶのは無礼じゃないのか!」


顔を真っ赤にして立とうとしたが、隣の組員に抑えられた。


「確かに悪かった客人この通りだ」


組長に近い側の他の組員が頭を下げた。


「ついでに言わせて貰うが、竜ケ崎組じゃ解らないけど、広島のととある組では客人専用ソファに、許可なく座った組員は腕を斬り落とされたそうだけど? 竜ケ崎組では礼儀は重んじてないんですかね?」


これはあらかじめヤクザについてネットで調べた時に見つけた情報だ。


「客人……」


さぁ、どうする?


普通に謝って終わりには出来ないよな?


ヤクザだもんな。


恐らくどうやって話を収めるか考えているようだ。


だが、僕はヤクザじゃない。


「いいよ、僕はヤクザじゃないからこれ以上は責めない、ただ頭から茶を掛けられても仕方ない。そういう事をした。それは理解できるよな?」


「ああっ」


「なら良い」


そう言いながら僕は、ドカッと音をたてて足を崩して座った。


「小僧、そこに座るのか、しかも傍若無人にしやがって」


他の組員がそう言ってきたが、無視した。


龍三は静かに睨んできた。


なかなかの目力で、普通の人間だったら腰を抜かすかも知れない。


だが、僕にはそんなのは通じない。


真っすぐに目を逸らさずに話す。


「僕は客人だよ! 少なくとも使用人である組員よりは上座に座ると思うんだけど? 座布団も無いから勝手に場所を決めざるおえないだろう! 仕方ないよな? 」


「あはははっ、あんた凄い度胸あるね、こんな事やるガキ……あっゴメン客人は初めてだ。私は気に入ったよ!手土産もあんがとよ、娘を頼むわ、唄子さんも静流さんも喜んでいたわ、後で娘達と話し合って誰がどれを貰うか選ばせて貰うわ」


竜ケ崎さんに少し似た雰囲気の妙齢の女性が豪快に笑いながら話してきた。


この人が多分辰子。


竜ケ崎さんのお母さんか。


そうすると唄子と静流が北条さんと三上さんのお母さんという事だな。


「気に入って貰えて良かったです。僕はセンスが全く無いので自信が余り無かったので」


「そんな事は無いよ、唄子さんは特に喜んでいたわよ。座布団なら私のを使うと良いわ! そっちの虎雄さんが特に話があるみたいだから、その前に敷くからそこへどうぞ」


そう言うと辰子は自ら座布団を敷いた。



「姉さん、家内がどうしたんですかい?」


「いやぁ~私はね女を代表して、この子の見極めを頼まれたんだけど? この子はしっかりしているよ。この子に何かしたら許さない、そう唄子さんが言っていたよ」


「唄子がですか? あの気位が高く金遣いが荒いあいつがですか? 信じられない」


「まぁ、それだけの物を貰ったからね、それじゃ剣さん、私達は交際に賛成。夕飯の準備をするから後はお父さん達と話しておくれ」


「はい、有難うございます」


座布団を敷かれたのでそこに座る事にした。


目の前に強面の人が座っている。


多分、この人が雰囲気からして北条さんのお父さんだろう。


なかなかの強面だ。


「凄いなお前さんは、此処はヤクザの本家だぜ、よくもまぁこれだけ出来たもんだ!」


今回は揉める為に来たわけじゃない。


落としどころが必要だ。


この辺りで良いか?


「スミマセン」


此方から軽く詫びた。


「いや、怒ってないぞ! 寧ろその度胸を褒めているんだ、うちの小太刀がな『剣くん剣くん』って凄く煩くてな、だが解る気がするよ。その歳にしてその度胸……小太刀が気にいるわけだ」


「お父さん、ちょっと……」


「だって言っていただろう? これだけの男前で腕っぷしがあって度胸がある。小太刀が言う通りだったな。俺は交際を認めてやるよ!」


「有難うございます」


どうやら北条さんのお父さんに認めて貰えたようだ。


「なぁ、龍三の親父よぉ~。こんな高校生絶対他にはいねーぞ、良いんじゃないか交際位認めてやってもよ……」


「虎雄さん、度胸があっても腕っぷしが強くても意味ありません。そんなの半グレと同じです」


龍三が答える前に優男風の男が遮り、そんな事を言いだした。


多分、この人が三上さんのお父さんだ。


「パパっ! ちょっと待って、剣ちゃんはちゃんと働いてお金を稼いで生活しているよ、半グレなんかと絶対に違うよ」


「お前は高校時代は度胸の欠片も無かったじゃないかなぁ~反対しなくても良いんじゃないか?」


「虎雄さんは黙っていて下さい、僕はこういう暴力だけの人間は嫌いなんだよ!」


「パパは何を知っているの? 剣ちゃんはちゃんと自活しているよ!」


勝手に僕を置いてきぼりにして話し始めた。


「ふんっ、どうせ貧乏フリーターかなんかだろうが?第一親も居ないような奴は碌なもんじゃないんだ!」


なんだと!


これは聞き流せない。


正直凄く腹が立った。


そんな物をつき合いの判断になどしない。


それに、僕はお金なら幾らでもある。


「僕は貧乏じゃない」


「バイトで、稼いでいるから? その程度で偉そうに……」


何故、僕が貧乏だと思うのか?


その根拠が分からない。


「手土産まで持参しているのに、その言い方、正直腹がたちますね。麗美さんでも小太刀さんでも亜美さんでも良いからお母さん呼んできてくれませんか? 僕はそれなりの手土産を持参していますよ」


手土産とは、相手に対する礼でもあるし、こちらの力を示す物でもある。


「解りました、母を呼んできますわ」


竜ケ崎さんが行ってくれるみたいだ。



「それなりの手土産をお持ちしました。相手は竜ケ崎組、ちゃんとした組織、そこに呼ばれたからです」


「ふーん10万位は張り込んだの?まぁ良いや恥かくだけだよ?」


「パパ、いい加減にして、剣ちゃんが折角お土産持ってきたんだから」


「そう?それが亜美や家内に釣り合う物なら謝るとしましょう、判断は僕で良いよね?」


「どうぞ」


「聞いたよ、あんた客人に貧乏って言ったんだってね?」


「姉さん、だけど本当の事じゃないですか?」


「はぁ~本当にあんた頭が切れるのかね。ちゃんと調べてからお言いよ、面倒くさいから唄子さんも静流さんも連れて来たわ」


「貴方、あまり亜美に恥かかせないで下さい、貴方が剣ちゃんね、亜美から話を良く聞くわ、可愛い子って聞いていたのだけど、違うわね。なかなかの男前じゃない! まぁ良いわ、このバックありがとうね」


「いえ、ご挨拶するのに手ぶらじゃ申し訳ないので、それなりの誠意を込めたつもりです、気になさらないで下さい」


やはり、それなりの物を持ってきて正解だったな。


「このバックは合格だわ! 初対面の相手に貴金属を選ばないのも偉いわね……よく解っているのね」


「有難うございます」



「おい、唄子」


「貴方は黙って、後でお説教しますから!」


もしかして三上さんのお父さんはお母さんに頭が上がらないのか?


「私は静流、小太刀の母親をしているわ、正直こういうのは疎いけど、これが高額なのは知っている。それをこれだけ揃えたんだから凄いもんだね。小太刀の話だと腕っぷしもあるんだってね、小太刀を宜しく頼むわ」


「おい、何を貰ったんだ」


「辰子姉さん、言ってもいいかい?」


「この際、言って置いた方が良いだろうね、客人のお土産の金額を目の前で言うのは良くないが、こうも揉めちゃ仕方がないね」



「それじゃ、私から伝えますね、メルエスのパーキンのバックが6個、ネットで調べたら大体250万円位。それにローラックスの時計が大体250万のものが3つ、それに若い衆様に獅子屋の黒糖羊羹、多分1万円位のが50、大体大雑把にみて2300万位ですね。ねぇ鳳凰さん、娘のボーイフレンドの手土産のバックの方が、貴方のプレゼントのバックより高いわ、今度もっと高いの買って下さいね? この子を貧乏と言える位なんだからお願いしますね?」


「ちゃんとした手土産持ってきた客人を貧乏扱い! いい加減にしな、後で本気で説教するよ」


「それじゃあねー剣ちゃん、また後で」


「今日はすき焼きにするから食べていってね、それじゃ」




「僕が悪かった。高校生がそんな金額使うなんて、確かに言うだけあるね。それで、それは自分で稼いだの?」


「投資とかで頑張っています」


何で稼いだかは本当の事はいえないな。


「それじゃ仮合格あげるよ、娘と付き合いたいなら僕とも友達になって貰うよ、そうだな! 君が本当に投資家として資質があったら本合格、僕は娘にお金の苦労はさせたくない。まぁ本合格したら『お好きにどうぞ』言って置くけどかなり厳しいよ? そうだな本合格になったら、鳳凰グループで課長のポストも用意してあげるよ」


これで仮合格なのか。


だけど、そのポストは要らないな。


「お付き合いは嬉しいですが、会社の方は許して下さい。僕には自分の夢もありますから」


「それじゃ、その辺りも時間のある時に聞くよ」


「パパっ」


「まだ、仮だよ! まぁ良い子を連れてきたね、うん」


ここ迄は順調だ。


だけど、問題は竜ケ崎さんのお父さんだ。


まだ険しい顔をしている。


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