第20話  竜ケ崎組へ 前編

さてと、挨拶、挨拶。


挨拶と言えば手土産が必要だ。


こう見えても色々な組織との仲介役も僕の仕事だった。


だから、こういう事には慣れている。


尤も、最後の方は忙しくて部下に丸投げしていたから……


『誰かの為に物を買うなんて何年ぶりだろう』


今日は学校を休んで三坂屋デパートに来ている。


これでもお得意様で、外商扱いになっているから希望を言えば良い物を選んでくれるだろう。


よく考えたら、近年は部下に任せっきりで、姉以外に何かプレゼントする事はほぼ無かったな。


こう言う事は、プロにお任せが一番だ。


三坂屋デパートの外商専用ラウンジに行き相談する事にした。


早速着いた僕は、いつも担当してくれる佐々木さんに相談する事にした。


「黒木様、お久しぶりですね、女性への贈り物ですか?」


この人はいつも親身になって選んでくれる。


任せて大丈夫だろう。


「大切な方に贈る様な物で何か良い物はありませんか? 出来たら貴金属以外でお願いします!」


流石に、初めて会う人間に、貴金属は引かれてしまうかも知れない。


外すべきだな。


「黒木様のお相手はセレブな方が多いので『メルエスのパーキンのバッグ』辺りを贈ればまず間違いが無いと思いますよ」


「それ、何ですか?」


「高級鞄で女性に凄く人気の物です、当デパートには直営店が入っておりまして大変人気の商品でございます」


価格を聞くと一番高いワニモデルが920万だったが、1つしか無かった。


その次の限定モデルで620万円の物も1つだった。


渡す物はやはり揃えた方が良いよな……金額に差がでちゃ不味い気がする。


結局、250万円のモデルなら色違い物を含んで6個集まると言うのでこれを選んだ。


やはり、金額やデザインは揃えた方が良いだろう。


男性用にはローラックスの時計で250万前後のGMTモデルを用意した。


もっと高い物をとも考えたが先方のお母様たちへのプレゼントと差が出てしまうと困るから、金額を合わせた。


組織という物は繋がりがある。


そして、その手土産が後々の付き合いに繋がる。


だからこそ、こう言う事はしっかりしておきたい。


僕は、こういう普通のプレゼント選びが少し苦手だ。


後は獅子屋の黒糖羊羹を50個位持って行けば、他の方も楽しめる。


今は流石に在庫が無いという事だったが、翌日には家に届けてくれるそうだから日曜日には間に合う。


これに後は花束を持っていけば、失礼に当たらないよな。


健全な方相手だとちょっと選ぶ物が難しい。


中南米とかのゲリラ組織だとマシンガンの50丁も送れば喜んで握手してくれるから簡単なんだけどなぁ。


うん!? ヤクザなら……その方が……ないな。


これで本当に大丈夫なのかちょっと心配だけど、まぁ大丈夫だろう。


◆◆◆


次の日に学園に通うと奈々子がいた。


「あっ剣お兄ちゃん、おはよう、あの友達から聞いたんだけど、竜ケ崎先輩と仲が良いって本当ですか?」


「そうだね、竜ケ崎さんは僕の姉に凄く似ているからね、つい見てしまってそこから話し相手になって貰っているよ!」


「剣お兄ちゃん、竜ケ崎先輩の正体を知らないんだね。剣お兄ちゃん、余り人の事悪く言いたくはないけど、竜ケ崎先輩の家はヤクザだよ……危ないよ!」


え~とヤクザの何が危ないのか分からない。


世の中にはもっと危ない人間が山ほどいる。


寧ろ正々堂々としているだけ安全な気がする。


あれが危ないというなら、僕はもっと危ない人間だった。


だが、それを今言う必要は無い。


今の僕は『普通の高校生』を目指しているんだから……


「奈々子ちゃん気にしすぎだよ? 僕は人を見る時は、その背後関係は一切気にしないから、そうしないと個人の価値なんて解らないから」


「だけど、危ないよ」


「案外、僕の方が危ない人間かも知れないよ」


うん、今は兎も角、過去の僕の方が世間一般的には危ない人間だ。


「あはははっ、おかしいの! 剣お兄ちゃんは絶対悪い人じゃないもん」


「そう、ありがとう! それじゃ授業の準備があるからいくね!」


「うん、またね」


人を見る目が全くないな……僕が善人だと思っている。


まるで、兄妹の様に思ってくれているみたいだから。


気をつけて見てあげよう。


そうしないと騙されそうだし、危なっかしい……


◆◆◆


日曜日が来た。


人に会うのだから、それなりの恰好をしないと不味いだろう。


シャワーを浴びて、身支度をし整える。


しっかり髪を切りそろえて手櫛で髪を整える。


アラマーニのブラックスーツに着替え、ムスクの香水をつける。


靴はルリバトンの靴。


これで良い筈だよな。


姉さんは『剣ちゃんは無駄にカッコ良いから普段はしちゃ駄目』って言っていた反面『TPOは弁えろ』とも言っていたからこれで良い筈だ。


此処からは何時もより少し大人っぽく舞った方が良いだろう。


車は……残念ながら運転手の戦闘員がいない。


仕方が無いから、タクシーを呼び15分前につくように出発した。


ここが竜ケ崎さんの家か。


なかなかな大きな日本邸宅だった。


これを攻略するならやはり上空からの爆撃が一番良いかも知れない。


そのまま門の前で止まって貰ったが運転手の顔が真っ青になっていた。


「すいません、荷物を運ぶの手伝ってくれませんか?」


「はい」


なんで、こんなに顏が青いんだ……まぁどうでも良いけど。


「なんだ、お前此処が何処か知っていて目の前で降りるのか? あん!」


この間襲って来た、2人組の一人だ。


「この間はお世話になりました、今日は招待頂き客として参りました。黒木剣です!」


一瞬、目が合い驚いたようだが、直ぐに言葉遣いが変わった。


「黒木様ですね、お話は聞いております、どうぞお通り下さい!」


敵ではなく客人だと判断したら、態度が変わった。


しっかり教育されていて素晴らしい。


「ご丁寧に、あと手土産等を持ってきたのですが、どうすれば良いですか?」


「それはご丁寧に、此方でお預かりいたします」


なかなか、良く出来た部下だ。


上の者に迷惑を掛けない為に私怨を押し殺した。


これは好感が持てる。


「それじゃ、宜しくお願い致します」


花束だけ取ってそのまま行こうとしたら……


「すいません、それもあらためます」


止められた。


本当に良く出来た部下だ。


僕が暗殺者なら花束に武器を仕込む事も充分にある。


「宜しく頼む」


そう言うと花束をチェックして返してよこした。


「客人、失礼しました、ご案内致します」


彼を見ていると、僕の部下だった戦闘員を思いだし、少し目頭が熱くなった。


彼に案内され付いて行くと、直ぐにこちらに走ってくる足音が聞こえてきた。


「あれっ、剣ちゃんの声が聞こえて来たんだけど……誰っ?」


今日は挨拶にきたんだ。


しっかりとした方が良いだろう……


「三上さん! 今日はお招き頂き有難うございます」


「えっ、剣ちゃんなの?」


なんで驚いているんだろう。


まぁ、着飾っているからか……


「はい、今日はお招き頂いたので少しだけ着飾ってまいりました、これをどうぞ!」


「剣ちゃん、嘘みたい、まるで別人じゃない! 凄くカッコ良いね驚いたよ! 私が好きな宇宙軍人物のアニメの主人公みたい……下がっていいわ。此処からは私が案内するからね」


三上さんの話を聞いた部下は会釈をし去っていった。


「お願いします、三上さん!」


「うん、任せて」


どうしたんだろうか?三上さん凄く緊張しているみたいだけど。


◆◆◆


「此処に、麗美ちゃんと小太刀ちゃんが居るから、準備が出来るまで暫く話していてってパパが……言っているから待っていて。しかし、剣ちゃん、本当にカッコ良いね……うん、見違えちゃったよ」


「そう? ああっ今日は少しだけお洒落をしているからね」


ドアを開けて貰ったのでそのまま部屋に入った。


「剣……くん?」


「剣さん……?」


「どうかしましたか? 竜ケ崎さんに北条さん?」


「いや、剣さん見違えましたわよ! 何時もと違って見間違いましたわ」


「本当に驚いた剣くん、凄くカッコ良いね。見違えたよ!」


『剣さんが、此処に恐れずに来たのにも驚きましたが、あれが本当の姿なんですの! 美しいとしか言えませんわ。生まれのせいで恋愛なんて真面に出来ないと思ってました。男友達ですら作れない、そう思っていましたのに……信じられませんわ。 剣さんはまるで私の夢見るような理想の男性でしたわ……そう言えば剣さんの理想のタイプはお姉さまでしたわね。それに私が似ているって事は……剣さんの理想のタイプは……私? 顔が赤くなってしまいますわ』


『私は度胸がある男が好きだ、正直もう充分だったのに、何あれ、完璧すぎるよ! 強いだけでなく度胸迄あるのにあの美貌。まさに私の理想の男性その物だ。 あの度胸に喧嘩の腕、あれで私の親父が気に入らない訳は無い。 やっぱり来て貰って良かった。逆に亜美のお父さんには嫌われそうな気がするけど、関係ないな』



「今日は折角のお招きなので少し着飾ってきたんです、可笑しく無いですか?」


「全然可笑しく何てありませんわ、良く似合ってますわよ!」


「うん、凄くカッコ良いよ! 剣くん」


「うん、凄く似合っていると思う」


やっぱりTPOは重要だよな。


やはりこの服装で間違って無かった。



「良かった。三人とも初めて私服を見ましたが、皆さん良く似合っていて凄く素敵ですよ」



『しかし、凄いですわね、ヤクザの組の本家に上がっているのに何も恐れて無い様子ですわ』


『強くてカッコ良い、うん100点満点、多分親父も間違いなく気に入る、最高だ』


『私にとっては最高なんだけど、お父様は……弱っちゃったなぁ』


「「「ありがとう」」」


三人が笑顔で喜んでくれる。


偶には着飾るのも悪くない。


◆◆◆


「お前らが言っていた奴、あれか?」


「へい」


「あんなチャラチャラしたのに負けたのか?」


「見た目に惑わされちゃいけない、あれは相当の強者ですよ」


「あのなぁ、あれどう見ても優男にしか見えないぞ!」


「俺たちは彼奴に2人がかりで負けた、しかも無様に気絶させられたんだ、弱い訳ねーよ」


「それはお前らが弱いからじゃね?」


「だったら、お前、俺ら2人相手に喧嘩できるか?」


「2人何て卑怯じゃねーか」


「彼奴はそれをやったんだよ、しかもきっちりと勝ちやがった」

「お前等、楽しそうな話をしているな?」


「「「「「「「「「「政さん」」」」」」」」」」


「お前達が釘さしで、負けた男ってお嬢の客人なのか?」


「そうです、彼奴全然、ヤクザに怯えなくて度胸がありますよ」


「そうかい、それは良かった」


「良かった?」


「お嬢ももう年頃だ、好きな男が出来れば、あの性格もおさまるだろうよ」


お嬢を含みあの三人は組長や幹部の父親によく似ている。


特にお嬢は荒れると手が付けられない程怖い。


好きな男が出来ればなにか変わるだろう。


「そうですね、お嬢の癇癪も治ってくれれば万々歳だ」


「しかも、お前達の話じゃ、度胸も腕っぷしもあるんだろう? お嬢にお似合いじゃないか?」


「ですが政さん、もし上手くいかなかったら? そして組長の逆鱗に彼奴が触れたら……」


「機嫌の悪い、組長、兄貴たち……それに機嫌の悪いお嬢たち……地獄じゃないですか?」


「うん、地獄だな」


その状態の組にはいたくないな。


「客人、ブラックスーツ着ていてお洒落でしたよ。組長が嫌うタイプじゃないですか? やばくないですか?」


「それは本当か?」


「ええっ」


不味い事にならないといいな……そう思うしかない。


「これは終わったかも知れねーな! これから暫くは嵐だ! 覚悟した方が良いかもな!」


「「「「「政さん」」」」」


俺がどうこう出来る事じゃねーだろう。


「俺には大変な事にならないように祈る事しか出来ねーな。まぁ組長も大人だ! 流石にガキには酷い事はしないだろう」


まさか、俺に話は回ってこねーよな。


流石に素人のガキに酷い事はしたくねーな。


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