第17話 脅される

次の日から僕に新しい楽しみが出来た。


姉の雰囲気を持つ女性、竜ケ崎麗美。


何となく、組織の女幹部の雰囲気を持つ 北条小太刀。


不思議な雰囲気の三上亜美。


組織が無くなってから、何もかもが灰色だった世界。


だが、何故か彼女達に出会ってから少しだけ色がついた気がした。


何も無い世界から引き戻してくれた……そんな感じがした。


不思議な事に彼女達いつも三人だけでいる。


不思議な事に彼女達の傍には他の人間は寄り付かない。


これだけ美人なら男女問わず寄って来ても可笑しくない筈だ。


姉のような強者のオーラの様な物が出ているのか?


いや、そんな感じじゃない。


「竜ケ崎さん、北条さん、三上さん、こんにちわ!」


「あらっ黒木さん、はい、こんにちは」


「こんにちわ黒木くん」


「黒木ちゃん、こんにちは~ それでどうしたの?」


普通に挨拶が返ってくる。


何処にも避ける要素は無い。



「また、お話ししてくれるって言って頂けたので声を掛けました」


「あらっ本当に声を掛けて下さったのね!」


「前にも言った通り、竜ケ崎さんは僕の姉に似ていますからね、話してみたくて」


「随分とお姉さんが好きだったのね」


僕にとって亡くなった前総統と姉さんは家族みたいなものだ。


大きな物では、組織の仲間も同じだけど……


「はい、僕には本当の両親がいませんでしたからね、姉が育ててくれたような物ですから……」


「ちょっと待ちなさい! 貴方そのお姉さんが亡くなったと言いませんでしたか?」


なんで驚いているんだろう?


「はい、つい最近、亡くしました」


三人の顔が少し青ざめ、気のせいか悲しそうな表情に変わった気がする。


姉を失ったのは悲しい……だが、僕はもうそれは吹っ切った。


そんな顔をする必要は無い。


「ちょっと待って剣くん、それはもしかして家族がいない、そういう事なの?」


「確かに、いませんね」



「黒木ちゃん、それじゃお金とかどうしているの?」


「普通に働いて生活しています」


投資という意味なら今も自動でプログラムに任せてやっている。


お金が増えていくのだから、働いている事になるよな。


「そうなんですの? 凄いですわね、働きながら学園に通うなんて」


「就労学生か、凄いな」


「黒木ちゃん、偉い、偉い」


何故だろうか?


話した感じは他の学生と同じ。


内容もほぼ同じ。


だけど、何故かこの三人は『なにか違う気がする』


他の生徒とはまるっきり違う、何かがある。


それが何かといえば分からない。


仲間意識が強いのは分る。


それ以外にも他になにか違いがある気がする。


それがなにかと言えば、何かは解らない。



『話していると何故か落ち着く』


やはり、竜ケ崎さんは姉に似ている。


姿形じゃなくて、雰囲気、仕草が凄く似ている。


多分、性格も似ているような気がする。


外見は全然似ていない。


それなのに、笑い声なんか重なって見える時がある。


「そうでも無いですよ。大した事じゃありません!」



「それはそうと、本当に私がお姉さんに似ていますの?」


「さっきから黒木くん、麗美の顔見っぱなしだぞ!」


「うんうん、余程、お姉さんが好きだったんだね!」


まずいな。


竜ケ崎さんの顔をつい、見つめてしまった。


全然似ていない……それなのに何故か姉の面影に重なる。


「まぁ、姉は僕の理想の女性でしたから」


良く言う『ブラコン』そう思われてもおかしくない。


「それって黒木ちゃん、麗美が黒木ちゃんの理想のタイプ、そう言っているように思えるんだけど」


「そうだな、私にもそう聞こえた」


「ちょっと待って、そういう事なのですの?」


やはり仕草が雰囲気がそっくりだ。


そのまま答えれば良いのだろうか?


「そう言う事になりますね」


「だって麗美ちゃん」


「そう言う事だ、そうだ」


「ああっ、そうでもあるのですね……うん、有難うございますわ、黒木さん」


顔を赤くして焦る仕草も可愛いと思う。


やはり彼女は姉に何処か似ている。


「そうだ、黒木くん、全て知った上で、今と同じで居られるなら、本当の友達になろうか?」


「そうだね、うん、私もそれならOKかな」


北条さんと三上さんは何を言っているんだろうか?


「そうねもし、全てを知った上で、まだ私がお姉さんみたいって思えるなら、良いですわよ?」


一体どう言う事なんだろう?


『全てを知った上で』


なにか彼女達に秘密があるのだろうか?


「有難うございます、あっ、こんな時間、引き留めてすみませんでした」


人間秘密の一つや二つある。


ましては僕には誰にも語れない秘密が山ほどある。


どんな秘密があるのか知らないが……それが仲良く出来ない理由になんてならない。


「黒木くん、またな」


「黒木ちゃん、またね」


「黒木さん、それじゃまた明日」


僕は手を振り彼女達と別れた。



彼女達から少し離れた場所から僕を舐め回すように見ていた奴がいる。


まぁ彼女達に危害を加えようとしている訳では無さそうだ。


それなら放置で良い。


◆◆◆


「黒木ちゃん、凄く良い子だよね、孤児なのに一人で生きているし、凄い頑張り屋さんだね」


「ああっ、そんな環境なのに、健気だな!」


「ええっ本当にそう思いますわね。あんな真っすぐな目で見つめられたのは初めてですわ」




「仕方ないよね、事情を知ったら不良ですら逃げ出しちゃうんだから」


「そうだな、まぁどんな奴も、事情を知ったら手のひら返し、不良は敬語になって卑屈になり、やがて話しかけて来なくなる」


「竜ケ崎組、組長の娘、本当に怖いですわね」


まぁ、日本でも有数の大きな組組織、そこの組長の1人娘が私。


「「本当に怖い、怖い」」


そして、幹部の娘がこの2人。


「それで黒木ちゃん……どうかな?」


「流石の黒木くんでも、ヤクザに囲まれて怖い思いをしたら、もう話しかけて来ないだろうなぁ」


「そうですわね、あんな綺麗な目で、もう見つめてはくれないでしょうね」


「全く、凄い迷惑、いい加減子離れして欲しいよね」


「そうだな」


「あんな子が痛い目に遭うのは流石に気が咎めますわ、きょうお父様に釘差しますわ」


本当に子離れできなくて困りますわ。


いい加減、子供の世界に入って来ないで欲しい物ですわね。


◆◆◆



三人と離れて人気のない道を歩いていると、人相の悪い男2人に囲まれた。


「はぁ~何なんだ!」


明らかに危ない雰囲気を醸し出しているけど……


脅威は感じない。


「何なんだとは、挨拶だな!」


「そうそう、態々安全な方に導く為の良い人間だよ!俺達は」


と言いながら、明らかに悪意を感じる。


だが、戦闘員以下……脅威は感じない。



「それで、どう導てくれるんですかね?」


挑発しても問題は無い。


すぐに制圧……場合によっては始末も出来る。


「お前、俺らが怖くないのか? 目を逸らさずにいるのは褒めてやる」


「俺達は竜ケ崎組の者だ! 竜ケ崎麗美、お嬢さん達に今後近づかないなら何もしない」


竜ケ崎さんの関係者。


それじゃ、殺しちゃまずいよな。


だが、脅されっぱなしも……腹が立つ。


「嫌だと言ったら?」


顔色が変わった、さっきと違い凄みを出してきた。


残念ながら、その程度の凄み、戦闘員でも出せる。


「まぁ聞けや! あの方は竜ケ崎組の組長の娘だ! これで解かったか、まぁ諦めや」


え~と只のヤクザの娘だよな。


そんな事でなんで諦めなくちゃいけない?


意味が分からない。


「何故諦めないといけないのかな!」


しかし、ヤクザの娘だったんだ。


だから、姉さんに重なったのかな。


規模は違うが非合法の組織の中で生きているから……


そう見えたのか。


「話聞いて無かったのかよ! 竜ケ崎組、組長の娘なんだぞ! 他の二人だって幹部の娘だ!」


そんな事言いだしたら、僕は元副総統だ。


「それがどうかしたのか? 友達になるのに親は関係ないだろう!」



「お前は、ヤクザの娘と知ってもお嬢と付き合いたい、そういう事か?」


別に問題は無いな。


「そんな問題になる事ですか。そんなの僕には関係ない!竜ケ崎さん、北条さん、三上さん、皆素晴らしい人ですからね」



「そうか、俺はお前みたいな奴はそんなに嫌いじゃない。だがな、悪い……親父達にお嬢に男を近づけるな! そう言われているんだ!」


いきなり、蹴りをぶっこんで来た。


だが、こんな不意打ち意味はない。


簡単に躱せる。


相手はたった2人、こんなんじゃ僕の相手は不十分だ。


「成程なぁ、それなりに喧嘩した事がある。そういう事か? 俺は気に入ったが悪いな、こっちはプロなんだ……」


プロ……なのか?


殺し屋とは思えない動きだ。


「あの、貴方達に勝ったら、お付き合いを認めて貰えるのかな?」


「ああっ、と言いたいが、そう言う訳にはいかないんだ! お嬢に近づけるな! そういう命令だ。悪いな!」


「だが、その前に俺達に勝てると思っているのか?」


困ったな。


竜ケ崎さんの関係者なら殺しちゃ不味い。


出来るだけ、優しくかたづけよう。


「それじゃ何の意味もないじゃないか」


僕はそう言うと相手の言葉も聞かずに、素早く1人に蹴りを入れた、このタイミングなら意識を簡単に刈り取れるだろう。


「なっ、この野郎……」


もう遅い。


もう一人の後ろに回り込み、後頭部に手刀を打ち込み。


上手く意識を刈り取れたようだ。




ここだと邪魔なので二人を植え込み近くに座らせて、その場を立ち去った。


◆◆◆


【???】


「凄すぎる……そしてカッコ良い」


仕方ない私も動こうか……


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