第13話 陸上部 水上裕子
しかし僕はここで何を学べば良いんだろうか?
勉強って言うなら悪いけど、僕の方が教師より遙かに上だし。
運動って言うならオリンピックで殆どの競技で金メダルが取れる。
それ処か、野生動物より僕の方が身体能力は上だ。
そんな僕に此処での生活は凄く退屈だ。
姉さんの遺言だから、なにかしら僕にも学ぶ事があるのかも知れない。
姉さんは一体、僕に何を望み、何をさせたいんだ……
姉さんの考えは流石に僕には解らない……
僕は天才に近い秀才。
姉さんは本当の天才。
その差は物凄く大きい。
きっと、ここに僕には必要な何かがある筈だ。
そんな事を考えながら、ぼんやりと校庭を眺めていた。
すると、1人の女の子と目が合った。
「ちょっと、何見ているのよ! 嫌らしい目をして」
「ただ、校庭を眺めていただけなんだが」
「しらじらしいわよ、絶対に変な目でこっちを見ていたでしょう?」
確かに誤解を受けても仕方が無いのかもしれない。
校庭では陸上部の女の子達が水着の様に見えるユニフォームを着て走っていた。
こういう恰好をセクシーというんだよな……
まぁ、僕は全く興味がない。
だが、そう見られても仕方ない状況だ。
「その気は無かったのだが、誤解されても仕方が無い、僕は……」
弁明して立ち去ろうとしたのだが……
「待ちなさい! 本当に困るのよ、こっちは一生懸命、頑張っているのにそんな目で見られてさぁ!」
幾らなんでも弁明位聞くべきだろう。
冤罪も甚だしい。
此処は校庭だし着替え室じゃない。
校庭を眺めていただけでここ迄言われる筋合いはない。
少し頭にきた。
「一生懸命? あのお遊びが? 僕には、そうは見えないな!」
別に貶めている訳じゃない。
だが、僕には『たかがあれが』が一生懸命には見えない。
僕にとって一生懸命と言うのは『命を賭けて頑張る事だ』
ただ、体力向上の為に走っていた所で、そんな物に価値はない。
この中の何人が、走る事で生活が出来るようになれる。
恐らくアスリートに成れるような人間は見た感じ居ない。
それに彼女達は『走るのに負けた』位で死にはしない。
戦闘員の訓練より遥かに劣るたかが練習で一生懸命?
違うだろう。
「何よ、馬鹿にしているの!」
馬鹿にしているわけじゃない。
これは『一生懸命』じゃない。
そう思っただけだ。
「馬鹿にはしていないが、あれは一生懸命では無いよ!幾ら言われてもね」
「やっぱり馬鹿にしている、私はこれでもスポーツ特待生で入学しているの、しかも実績も出しているわ!」
これでも僕は人を見る目はある方だ。
悪いが、今の彼女の実力でこの程度の努力じゃ、アスリートになんてなれない。
その位は充分分かる。
だが、これ以上揉めても仕方が無い。
「へぇ~努力しているんだ。偉い偉い……もう行っていいかな?」
「やっぱり馬鹿にしている! 私達のやっている事がお遊びだと言うなら勝負しなさい!」
「勝負?」
この僕相手に、馬鹿じゃないか。
「そうよ、勝負しなさい」
「何もメリットが無い!」
「そうね、もし勝ったら、デートしてあげるわ」
ポニーティルの髪型に褐色の肌。
スレンダーな体。
モデルとかに居そうでなかなかの美少女なのかも知れない。
だが、悪いが僕はそんな物に興味はない。
容姿など手に入れたければ幾らでも後天的に手に入れられる。
実際の別の支部にいた蜂女は、元の姿と違い。妙齢の美女に改造していた。
「デート? 別に興味ないし」
「私はこれでも陸上小町って言われているのよ、それがデートしてあげるんだから良いでしょう?」
何だかしつこいな……どうせ暇だから相手してやるか。
「仕方ない、それで何をやれば良いの?」
「100メートル走で勝負よ」
「いや、無理でしょう、男子と女子じゃ1秒近い差があるし女子が勝てる道理が無い」
元から男女で記録に差があるんだ。
相手にならないよ。
「逃げるの?」
「まぁ、いいや暇だから相手してあげるよ! ただやるからには本気出すよ」
「私に勝てるつもりなのね」
「まぁね」
確か、高校生の男子なら10秒台で走れば良いタイムな筈だ。
流石に本気じゃ走らない。
仕方なくつきあいグランドに行った。
「また水上先輩、男を連れ込んで可愛そう」
「そこ無駄口叩かない、しかも意味が違うでしょう」
「だけど、あれ負けたらお説教と正座と罵倒が待っているでしょう」
「可哀想だよね、陰キャみたいだし泣いちゃうんじゃない」
「別に見ていてもいいじゃん! これかなりセクシーだけど競技会でも着ているんだし」
「まぁこうなったらもう無理じゃない?」
普通に着ているんだから、見られても文句なんて言えないよな。
何だかな。
「それじゃ、勝負よ」
「解ったよ」
仕方ないから、スタート位置についた。
「ちょっと待って制服のままで走る気」
「これで充分」
「あんた、私を舐めすぎ、着替えなさい」
本当にめんどくさいな。
仕方ないから持っていたジャージに着替え始めた。
「きゃーっ何でこんな所で着替えるのよ」
「嘘、思ったより鍛えているんじゃない」
「彼、凄い体しているよ、細マッチョって奴だぁ~」
「だけど、無理ね、水上裕子先輩は、女子高校生記録保持者だからね、この学園で男子も含んで一番速いんだからさぁ」
成程、それじゃ11秒位だな、まぁ手加減して100メートル10秒位で走れば良いか?
「さぁ準備は良いわね。今度こそ良いよね、それじゃ、頼んだよ」
「はい、位置についてよーいドン!」
確かに速い。
だが、改造人間の僕に敵う訳が無い。
本気を出せばバイクより速いし、チーターやシマウマでも追い抜ける。
流石に本気を出すのは大人気ないから充分手加減するけど。
「えっ嘘、裕子先輩が負けちゃった」
「しかも結構、差がひらいて無いかな?」
「ちょっと待って裕子先輩が11秒62! 相手は嘘9秒86うーーーーっ!」
「完全に計測ミスだよね……」
「だけど、裕子先輩とのひらきから考えて、凄く速いのは間違いないわ!」
「ハァハァ、嘘っ負けちゃった!」
「それじゃ僕はこれで……」
立ち去ろうとしたら……肩をいきなり掴まれた。
「す.こ.し.わ.た.しとお話ししない!」
明かに断れない雰囲気の怖い顔で言われた。
仕方ない応じるしか無いな。
「手短にしてくれ……」
「成程ね、かなり体を鍛え込んでいたのね、だから私達の事を馬鹿にしていた訳ね」
何を言い出しているのか解らない。
僕は改造人間。
鍛えてなどいない。
勝手に決めつけられても困る。
「いや、そう言う訳じゃ無くてね『一生懸命』という言葉が許せなかっただけだよ」
「何でそんな事言うのよ? ちゃんと努力しているわ!」
「あのさぁ、努力って何?」
「努力は努力よ!」
やっぱり分かってない。
「良いか? 普通はね一生懸命は当たり前だ。努力する事は当たり前なんだよ! 努力なんて言って通用するのは甘い世界だけだ。そうだな会社に入って営業になりました『売り上げは悪いけど努力してました』これ通用すると思う?」
「努力して売れないなら仕方ないんじゃない?」
こいつ、本当に馬鹿だ。
「そんな言い訳大人には通じないよ。実際の社会ではそんな奴は無能と呼ばれてクビになる」
「そうなのかも知れない、だけど……」
「それじゃ、君は努力していたのかも知れない。さっき聞いた感じだと『高校生記録保持者』だから成果は出している。だけど他の子はただのお遊びだよね?」
成果を出して無いし、どうみても向上心が無い。
「そんな事ないわ、しっかり頑張っているわ」
「だったら、他の子と同じ練習量で君はそこまで速くなれたのかな?」
「違うわ、他の子以上に頑張って練習して...あっ」
「分った? 『他の子以上』って言ったよな? そう考えたら君だけは一生懸命を使えるかも知れないけど、他の子は使えない。それに僕に負けた位だから、オリンピックの選手以下の練習しかしていないんじゃないか? そんな物努力しているなんて僕は認めない」
「だって……ごめん……あんたには言う権利があるわね。勝負で負けた以上私はあんたより努力して無いと認めないとね。さっきのタイムは計測ミスとはいえ10秒を切っていた、私よりあんだけ速いんだから計測ミスがあっても10秒台は確実だわ……ごめんなさい、間違っていたみたい」
僕は改造人間。
偉そうに言える立場じゃない。
少しでも体を鍛えている。 彼女達の方が本当は偉い。
言う気が無かったのについ口を出してしまった。
「気にしなくて良いから……」
「ううん、こんなタイム出せるなら、かなり本格的に練習をしているんだよね? そんな人に一生懸命やっているなんて、言っていい事じゃなかったわ……馬鹿にされても仕方がないもの」
「僕も言い過ぎた。気にしないで、それじゃ……」
大人気ないよな。
だけどブラックローズでは失敗=死、だから皆が元から死ぬ気で一生懸命だ。
だからつい口から出てしまった。
余計な事を......と姉さんがいたら怒られそうだ。
「ちょっと待って、早速だけど、コーチとデートのお話ししようか?」
「いや……」
「良いじゃない? おはなししようよ?」
笑顔なのに怖い。
この目は獲物を見つけた姉さんみたいな目だ。
きっと僕は碌でもない事に巻き込まれそうな気がする。
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