第11話 戦いにすらならない真実

相変わらず、僕は何時もと変わらない日常を過ごしていた。


一つ変わった事は、奈々子が良く構って来る事だ。


彼女は人気者で周りから少しやっかまれる事が多い。


まぁ別に気にならない。


よく考えたら姉みたいな存在は居たけど、妹みたいな存在とつきあった事がない。


これはこれで案外楽しい。


そして今日も何時もの様に、奈々子と途中まで一緒に帰っていた。


「奈々子ちゃん、僕に構っていて良いの?」


何故、この子は僕に構うのだろう?


正直分からない。


「勿論、構わないよ? 私剣お兄ちゃんが一番だから」


「そう?」


懐かれるって言うのも満更悪くない。


奈々子とたわいの無い会話をしながら歩いていると……


嫌な奴らが近づいてきた。


あの時の三人組だ。


『ついてない』


奈々子がいる……


「何だ、此奴、女なんか連れて」


「へぇーガキだけど結構可愛いじゃん、俺に寄こせよ」


「また芋虫みたいに這いずり回りたく無ければ、その女置いて行けよ」


不味かった。


確かにこの場所はあの公園の傍だった。


良く考えれば、この場所ならもう一度出くわす可能性は充分にあった。


どうしようか、考え僕が黙っていると、頭の悪そうな派手なシャツを着た。男が話し出す。


「此処はまず人は通らないな。助けは期待できないぞ」


「ああっ更に防犯カメラも無いからな、何をしてもバレない」


周りを見回すと、更に人通りも無い。


『都合が良い』


これで奈々子を逃がせば……何をしてもバレない。


奈々子の方を見ると体を震わせ怯えている。


まずは奈々子を逃がさないとな……


「奈々子ちゃん、僕はこの人達と話しがあるから、先に行って、後問題は無いから助けは呼ばなくても良いからね」


「だけど」


「良いから」


奈々子は急いで逃げようとしたが……


「おっと、そう簡単には通さないぜ」


回り込まれたか。


こう言う下世話な奴なら……金で転ぶだろう。


「お金の話しをしよう……ほら」


1人に近づき小声で話、僕は奈々子に見えない様に内ポケットの札束を見せた。


すると、笑顔になり塞いでいた道をあけた。


「そう言う事なら、女は行かせてやる、おいガキ女、この事を誰にも言うなよ!誰かに話したらただじゃ置かねーからな、家を探し出して必ず後悔させてやるからな」


「剣お兄ちゃん」


「僕は大丈夫だから、先に行って、直ぐに追いかけるから」


「はい」


奈々子はすぐに走って行き見えなくなった。


人通りは無いとはいえ、誰かが通らないとは限らない。


素早く対応しないとな。


「さぁ、これで女は見逃してやった! 金の話だが、とりあえずその懐の金寄こせ!」


「明日も持って来いよ」


「金が続く限りは何もしねーからな」


僕にとっては、はした金だが、嫌いな奴に渡す程お人よしじゃない。


相手は三人、しかも人通りも無いしカメラも無いなら遠慮は要らない。


更にマンホールが近くにある。


これは最高の条件だ。


「君達はこれで2回目、僕はもう赦さない! 知り合いに手を出されると困るから、ここで潰す事にした! 悪人なら悪人らしくその中でやりあおう」


「何だ、それ」


僕は1人に近づくと顔に手を掛けた。


そのまま力を入れると『グチャリ』という音を立てて頭が潰れた。


頭の1/4が無くなり、体が痙攣している。


何が起こったのか解らず、他の2人はこちらを見ていた。


多分、視覚に頭部が入らず『何かされた位』にしか考えて無いのだろう。


だが、反応が遅い……


折角、三人もいるのにもう、一人は死んだ。


三人もいるのに数の理を生かしていない。


僕の仲間なら1人を殺しているうちに他の仲間が腹を刺しにくる。


「てめーふざけた事すんな! 殺すぞ!」


「謝ってももう、許してやんねーからな!」


『悪人』なら最低限『人を殺す』『自分が殺される』その覚悟を持つべきだ。


何故、今になって『殺すぞ』なんて脅しをする。


明確な敵なんだ……殺さないと寝首をかかれる事になりかねない。


僕は……復讐を許す気が無いから『殺す』それ以外の選択は無い。


二人して殴ってきたからそれを躱して1人の目を潰した。


勿論ただ潰すのではなくそのまま二本の指を押し込んだ。


下から頭蓋骨を吹き飛ばす様に突き入れたから頭蓋骨の前側が割れて脳味噌が露出していた。


「うがううーーーーっうががが」


何だか解らない悲鳴を上げてそのまま動かなくなった。


死んだな。


良く特撮ヒーロで怪人相手に、普通人が少しは戦える様な描写があるが、あんな事は本当にはあり得ない。


どこぞの空想世界の首領が『人間の20倍』なんて言っていたが、そんな化け物がいたら、絶対にバイク屋の中年オヤジが一撃を防げるわけが無い。


人間は熊に勝てないしライオンには当然勝てない。


そんな弱い人間が改造人間の一撃など防げるわけもない。


あれはお子様向けの空想科学の世界。


真実の世界じゃこんな物だ。


僕はうっかり力を入れて物を壊さない様に1年以上力を抜く訓練をした。


そうしないと、触った物すべてを破壊しかねないからだ。


此処でようやく、最後の1人が仲間が殺されている事に気がついた。


だが、こうなってはもう逃がす訳にいかない。


「あっああああああーーーっ助けて助けて助けて」


「あのさぁ、さっきの女の子、僕の数少ない友達なんだよね? 手を出されたら困るんだよ!」


「しない、しませんから……殺さないで」


こういうクズの言う事は信じられない。


今は僕を恐れて命乞いをしているが、何かあり僕に勝てるチャンスを見つけたら、手のひらを返す。


まして、僕の弱点になりうる『知り合い』の存在を知っている以上は生かしておく事は出来ない。


「いや、クズの言う事は信じられないから」


僕は軽く腹を蹴った。


「ぐはぁ、ああぁぁぁぁあーー」


多分、背骨が折れて内臓がぐちゃぐちゃだ。


少し転げまわっていたが、すぐに動かなくなった。


これで三人が死んだ訳だが、マンホールがあるのはあらかじめ確認している。


マンホールの蓋を開けて中に三人の死体を放りこんだ。


マンホールって結構便利だ。


戦闘を素早く行ったから、手が汚れている位で服は汚れていない。


周りに少し血やら変な液体があるが少量だから処理は簡単だ。



こんな事もあろうかと持っていたブラックローズ特製の薬品を振りまいたから、これで一安心だ。


これで当分の間はバレない。


そのまま公園で薬品で手を洗った。


恐らく、これで大丈夫だが……


だが、万が一にもバレたら困る。


念には念を入れて僕は清掃屋に電話した。


清掃屋とは、こういった死体や犯行現場をかたづけるプロフェッショナルだ。


組織を運営していると、まぁこういう付き合いもある。


スマホから電話を掛けた。


『お世話になります、○○公園の入り口近くのマンホールの中猿3匹の死体があるから処理を頼む、あとその周辺の隠蔽と公園の水飲み場の処理もお願いします』


『解りました、いつもの口座に何時もの報酬を入れて下さい』


『了解』


ヤクザや裏社会の人間が使う裏の掃除屋という訳だ。


報酬が高い代わりに確実に様々な薬品を使い、解らない様に清掃し死体も処理してくれる有難い会社だ。


あの手のクズは約束など守らないから殺すのが一番だ。


◆◆◆


すぐに僕は奈々子を追った。


奈々子の性格だと誰かに助けを求めるかもしれない。


そうなるとややこしくなる。


「はぁはぁ……奈々子ちゃん、お待たせ!」


本当は余裕だが息せき切らした芝居をした方が良いだろう。


「剣お兄ちゃん、大丈夫だったの?」


「うん、思ったより良い人で、ちゃんと説得したらもうしないって約束してくれたから安心していいよ」


死人は絶対に復讐しない。


『いい人』だ。


「そう、良かったぁ……だけど、まだ3分もたって無いよ。よく説得できたねぇ! 剣お兄ちゃんって本当に凄いね」


「あははっ、まぁね」


少し早すぎたかな。




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