第9話 信じられない
「あれっ奈々子は?」
奈々子は朝寝坊で起きて来ない。
毎朝起こすのが私の仕事なんだけど、奈々子の部屋に行ったらいなかったからお母さんに聞いてみたら……
「黒木君が 随分気に入ったみたいで一緒に登校するんだって早くにお弁当作って出て行ったわよ」
「奈々子が?」
信じられない。
奈々子は朝が凄く弱くていつも不機嫌な顔をしている。
時間ぎりぎりまで寝ていて、慌てて朝食抜きで登校する事も多いのに。
それが、もう学校に行った?
信じられない、今迄私より奈々子が先に起きた事なんて一回も無かったのに……
イケメンの男の子相手なら、そういう事もあるかも知れない。
でも、黒木くんはどう見てももっさりしている感じだし、正直言えばクラス委員でなければ、私だって進んで話掛けたりしない。
奈々子は私よりも更に面食いだから、普通に考えたら絶対に相手にしないタイプだと思う。
青倫館学園は小中高一貫教育だから結構なマンモス校だ。
その中でも奈々子は『外見だけなら上位』に入る。
学園内にある美少女ランキングでは一桁台。
中等部では常に1~2位を争っている。
奈々子が常に1位にならない理由は、その性格にある。
自分の美貌に自信がある奈々子は『その事を良く鼻にかけている』
だけど、そんなマイナス分を加味しても凄く人気がある。
正直、私は奈々子に容姿は敵わない。
クラス委員をして愛想を振りまいて、それでようやくクラスの人気者止まり。
『誰にでも優しい陽子ちゃん』それでようやくクラスの人気者でいられるの。
奈々子みたいに何も努力しないで全部持っている子とは違う。
私だって普通よりは可愛いと自分では思っているし、そうだと思う。
だけど、近くに奈々子が居るから……私が好きになる男の子は皆、奈々子の方を見て好きになる。
そして、残酷に奈々子に振られる。
奈々子はスーパー面食いだ。
だから、私から彼氏を盗る事などしない。
むしろ『死んだ方が良いよ』とか罵詈雑言で最初から取り合わない。
絶対に付き合って貰えない事が分かっているのに……皆が奈々子にいく。
そんな奈々子は実は『シスコン気味』でもある。
あんなにツンツンしているくせに『お姉ちゃん』と何時も家ではすり寄ってくる。
話は元に戻すけど……奈々子は『超』が付く面食いだ。
それがどうして、黒木くんなのか解らない。
でも、奈々子に彼氏が出来れば、これからは私も恋愛が出来るから嬉しいけど……
◆◆◆
たしかお姉ちゃんの情報ではこの辺りの筈……まさか、このタワマンじゃないよね、とすればこっちの木造アパートかな。
これは多分見られたく無いよね……だったら、この先の路地で待っていれば剣お兄ちゃんに会えるかな?
ここで待ってよう……
剣お兄ちゃん、早く来ないかな……
あっ、来たっ!
「あれっ奈々子ちゃん、どうしたの? こんな早くから」
剣お兄ちゃん。
何でこんな、変装みたいな事しているのかな?
普通に眼鏡を外して髪型だけ整えれば、凄くカッコ良いのに。
まぁ、そのお陰で『皆が気がつかない』から良いけどさぁ。
「近くまで来たんで、もしかしたら剣お兄ちゃん居るかなって思って」
会いたいから来たんだけどね。
「そう、だったら一緒に学園迄行こうか?」
「はい、剣お兄ちゃん」
可愛らしい笑顔で返してあげた。
しかし、凄いな~ しっかりと見ればこの距離なら素顔がしっかり見られるよ。
あの牛乳の瓶底みたいな眼鏡の横から見える、この素顔……素敵すぎる。
髪だって、何故かボサボサにしているけど、風で流れるようにサラサラだし……まるで物語から飛び出てきたみたい。
凄く綺麗で思わず見惚れちゃう。
あれっ
あれれっ!
私、何で点なんてつけていたのかな?
不味いんじゃないかな?
剣お兄ちゃんが100点中120点、ううん1000点。
私は逆に80点……
今迄と逆じゃないこれ。
私の方が頑張らないといけないんじゃないかな。
まぁ、剣お兄ちゃんの凄さに皆が気がつく前が勝負だよね。
◆◆◆
『あれ、橘 奈々子じゃない? なんで、あんな冴えない男連れているの?』
『彼氏じゃないだろう、彼奴とんでもない面食いな筈だから』
『そうだよね、あれで良いなら、智くんや徹くんが玉砕するわけ無いし』
『しかし、あの男誰なんだ』
うん、やっぱり奈々子ちゃんは人気があるみたいだ。
二人して暫く暫く歩いていると学園にたどり着いた。
「それじゃ、奈々子ちゃん僕はこっちだから」
「そうだね、そうだ、奈々子お弁当作ってきたんだぁ~ お昼に行っても良い?」
「お弁当くれるの? ありがとう」
「うん、それじゃ昼休みに行くから楽しみにしててね、つ.る.ぎ.お.に.い.ちゃ.ん」
見かけによらず面倒見が良いのかな
◆◆◆
「奈々子どうしたの? 高等部にくるなんて珍しいじゃない? なにかよう?」
忘れていたよ。
お姉ちゃんが同じクラスに居たんだったっけ。
すっかり忘れていたよ。
「お姉ちゃんに用はないよ! 剣お兄ちゃん、奈々子がぁお弁当を持ってきましたぁ!一緒に食べよう!」
「ありがとう」
「どう致しまして、剣お兄ちゃん」
「奈々子、お姉ちゃんの分は?」
お姉ちゃんの分なんて奈々子、作るわけないじゃん。
「え~無いよ、お姉ちゃんは何時も学食でしょう?」
「そんな、本当に無いの? 一緒に食べるんじゃないの?」
うん、本当に無い。
剣お兄ちゃんと二人っきりになるチャンスなんだよ!
お姉ちゃんは邪魔だよ……
「無いよ、奈々子は剣お兄ちゃんと食べる為に誘いに来ただけなんだから……お姉ちゃん、いい加減邪魔しないでくれるかな」
「奈々子……」
姉妹愛より恋愛、当たり前じゃない?
◆◆◆
『嘘、橘 奈々子が剣にお弁当持ってきているのか』
『あり得ないだろう。顔は凄く可愛いけど、性格はクール。何人もの男が撃沈している……あの奈々子だよ』
『何で、剣なんだ、信じられない』
あーっもう外野が煩い!
「ここで食べるのも何だから、そうだ学食で一緒に食べない?」
何でお姉ちゃんが割り込んでくるのかな! はぁ~迷惑なんだけど……
「それがいいかもね」
くっ、剣お兄ちゃんが賛成しちゃったよ。
「奈々子は別に構いません」
本当にお姉ちゃん……じゃまだなぁ。
嫌って今の状態じゃ言えないじゃない。
◆◆◆
私こと陽子は学食で信じられないものを見てしまった。
『本当にどうしちゃったのよ!奈々子』
ご飯の上にハート形の卵焼き、しかも ILOVE TURUGIってなに?
タコさんウィンナーに唐揚げまで入っているよ。
これ、どう見てもこれ好きな人に作るお弁当だよね。
「はい、剣お兄ちゃん、あーん」
あ~ん、あの奈々子が横に座ってしなまで作って『あ~ん』信じられない。
「大丈夫だよ、自分で食べられるから」
「そんな事言わないで、一口で良いんで食べて下さいよ」
周りも気にせず、平気でイチャつこうとしている。
そんな事するから周りの男の子が固まっているじゃない。
「分りました。はい、あーん……これで良いの?」
私は一体なにを見ているの……
あの奈々子が、男に媚びているなんて……
信じられない。
しかも相手はイケメンじゃない黒木くん……なにが起きているの?
「お姉ちゃん、さっさと学食買ってくれば? お昼終わっちゃうよ」
「あっ、そうだ買ってくるね、あははははっ」
あれは本気にしか見えない。
あの奈々子がイケメンでもない、地味な黒木くんを好きになるなんて……
一体なにが起きたのかな……
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