第7話 一方的に殴られる

毎日が詰まらない……


仕方なく学園には通っているが、姉の最後の願いの為に通っているだけで、なんの意味も見いだせない。


おや?


ただ、なにも考えず一人帰っていると、冴えない中年オヤジが3人組の素行の悪そうな学生に絡まれていた。


何時もなら見ても無視するが、今日は何故か目に止まった。


あの親父、なんだか、改造される前のカバ男に少し似ている。


そう思い、思わず足を止めて見てしまった。


「君達、いい加減にしたまえ」


なんだ、あのガラの悪い学生に注意しているのか?


「何だと、このおっさん!煩いんだよ」


「君達が公園でたむろっているから、子供や母親が怯えて遊べないじゃないか?」


外見が似ていると中身まで似て来るのか……カバ男もマナーに煩かったな。


懐かしい。


「おっさんには関係ないだろうが、文句がある奴がいるならそいつが直接文句を言ってくる筈だぜ。誰も文句なんて言ってないだろうがっ」


「それは、お前達みたいな奴らに子供や女性は怖くて文句なんて言えないだろう」


「うっさいな、めんどくさいからからこのおっさんボコっちゃえ」


「あーあ、阿部ちゃん怒らすから悪いんだ、俺は知らないぞ」


「可哀想に、殴られた挙句、金目の物を盗られちゃうんだ」


「君達、そんな犯罪みたいな事は止めたまえ」


「もう煩ぇや、オラよ」


殴られ始めた……此処から反撃するんだろう。


筋肉があるから、この程度の学生なら余裕だよな……


あれっ、この親父、まるで弱いじゃないか?


見た感じは筋肉質なのに……何故戦わないんだ?

眺めていると一人の学生が僕の方に歩いてきた。


「お前、何見ているんだよ、ムカつくな、その目」


ただ見ていただけなのに絡まれた。


「僕はただ見ているだけだから、お構いなく」


「何だ、お前もムカつくから、一緒にボコってやんよ、おらっ!」



凄く遅い、当たり前だが戦闘員より遙かに遅いじゃないか?


これが一般人? の戦力か?


まるで相手にならないな。


僕は簡単に避けると軽くお腹を殴った。


本当に軽く……殺さない様に殴るのが案外難しいんだよな……ちょっと強く殴ったら内臓破裂で簡単に死んじゃうからな。


「うげっうごごごうげぇぇぇぇぇぇぇーーーっ」


それでも腹を抱え転げまわりながら吐き散らかしている。


死なないで良かった。


「貴方がいけないんですよ? 大した実力も無いのに掛かってくるから……良かったですね死なないで……」


「おい、健二、健二……大丈夫か? 貴様、健二をこんな目に遭わせやがって、絶対に許さねぇ」


「許さない?だったら、どうするの?」 


あれっやばい、あの道路の反対側にいる奴。僕と同じ学園の制服を着ている。 しかもよく見ると廊下ですれ違った事がある気がする。


喧嘩しているのを教師に報告されたら不味いか……


「こうするんだよ」


いきなり腹を殴ってきた。


だけど……全然痛くも痒くない。


だが、それはおかしな光景だ。


それらしく見せた方が良いな。


改造人間の僕は人どころかワニに噛まれても、白熊に殴られても怪我なんてしない。


いや、真面目な話、ゾウに踏まれても怪我はしない。


それだと対外的に不味いので、一応ある程度ダメージを受けると『怪我っぽく見える』ように調整されているが、実際はノーダメージだ。


それこそヘビー級の世界チャンピオンのボクサーだって本気の僕なら瞬殺だ。


「うっげっ」


まぁこういう感じに演技しないと不味いよな。


瞬殺なんてしたら目立ってまずいよな。


『何時でも殺せる』そう考えたら悔しくもない。


この後に下手に目立って生活が脅かされる事を考えたら……此処は我慢だ。


僕は黙って蹲り、ひたすら蹴られ続ける事にした。


「何だぁ~此奴、威勢が良かったのは最初だけじゃねーーーか!」


「本当に弱いくせにしゃしゃり出てくるからこうなるんだよっ!」


「あーあー馬鹿じゃないの? ガキが粋がってオラオラオラどうした」


『次に人気のない場所で遭ったら覚えておけよ』


そう思い睨んでいた。


暫くすると、満足したのか「おら見世物じゃねーぞ」と叫びながら学生たちは去っていった。


「君、巻き込んでしまって済まなかったな……」


僕が起き上がり見たのは、カバ男に似た中年オヤジのすまなそうな顔だった。


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