第6話 仲間とは

青倫館学園への編入は簡単に終わってしまった。


松井頭取の推薦もあるが、大体僕は大学も卒業しているし、IQは600もある。


編入試験なんて楽勝だ。


僕は改造人間だし、補助能力として『絶対記憶能力』もある。


だが、これは自慢出来るもんじゃない。


改造手術で手に入れた物で、自分が努力して手に入れた物じゃない。


面接ですら、沢山の疑似記憶から相手が好みそうな回答を考え話していただけだ。


その結果……


「素晴らしい、全てのテストは満点、面接も素晴らしい受け答えでした、編入を認めます」


「有難うございます」


こんな感じで余裕で編入出来た。


幾ら名門とはいえ、僕には余裕だ。


「此処まで優秀な生徒は見たことが無いので特待生として入学を……」


少しやり過ぎたかな……


「それは要りませんよ、普通の高校生として生活したいので、一般の学生として入学させて下さい」


「宜しいのですか? 特待生なら入学金も授業料も免除になるんですよ」


「はい」


特待生の枠は人数の制限があると要項に書いてあった。


誰か分からないが誰かのチャンスをわざわざ潰すことは無い。


こうしてようやく僕は高校生としてのスタートをきる事が出来た。


だが、いざ生活を始めてはみた物の正直、生活は全く充実していない。


授業を聞いていても……こんな事に価値を見出せない。


殆どの知識はとっくのとうに覚えているし、僕の頭脳は、その辺のコンピューターよりも早く計算が出来る。


だから、教室ではただ寝ている事が自然に多くなっている。


最初は教師が良く起こしたが、今では起こされる事は殆ど無い。


寝ていても的確に質問に答え、テストはいつも100点、成績も学年1位だから文句も言えず、今では放置状態で、構われなくなった。


そんな僕のクラスでの評価は最悪だ。


「あのキモ眼鏡何様なの、ちょっと頭が良いからってさぁ!何あの態度!」


「本当にキモイよな、髪の毛はボサボサだし、あんな分厚い眼鏡かけて、勉強以外なにも出来ないんだろうな」


「多分、貧乏なんじゃないのかな? だから何時も制服で居るんだよ」


「本当に付き合い悪いよな」


僕の聴覚は凄く良いんだ……聞こえているぞ。


まぁ低俗な奴らが何を言っていても気にはならない。


卒業したら、もう関係の無い人間だし名前を覚える気にもならない。


こちらも付き合う気が無いからどうでも良い事だ。


だが、そんな僕に気を使う奴がいる。


「余り、悪口は言わない方が良いよ? 本当に貧乏だったら仕方ないんじゃない? お金が無いから身だしなみにお金が掛けられない、お金の為にバイトしているから時間が無い、仕方ない事じゃないかな?」


「陽子……」


「同じクラスメイトなんだからさぁ、バイトと勉強で疲れているんだから気を使ってあげようよ」


「そう言われれば、そうだな」


「うちは裕福だから、そんなの解らなかったよ、苦学生なら仕方ないのか」


「奨学生狙いでがり勉している、そう考えたら仕方ないな」


僕に同情している。


この子は『橘 陽子』はぱっつん前髪の栗毛の笑顔が可愛らしい女の子だ。


明るくクラスの中心人物で、恐らく根は良い奴なのだろうが、僕の事を勝手に決めつけて、勝手にこんな話に変えてしまった。


『僕はお前達の親の何倍も金はあるぞ』そう言いたくなるが、まぁ普通は僕みたいな高校生は居ないだろうから『無視』している。


だが、勝手に『可哀想な子』にされるのは不愉快だ。


本当に不愉快ではあるが、今の僕はただの学生だ。こんなのは放置だ。


ただ、面倒臭い事に、この橘陽子は何かと僕に関わってくる。


「黒木くん、少しはクラスに馴染む様にした方が良いよ? このままじゃ卒業までに友達出来ないよ」


放っておいて欲しい。


「そうだな」


話しを合わせてただ一言答える。


別に友達なんて要らない。一緒に世界征服を目指す様な奴なら話は別だがそんな奴はまずいない。


今の僕は普通に、平凡に生きなくてはならない。


だから、友達は要らない。



「何時も『そうだね』しか言わないよね? 少しは前向きに考えた方が良いよ」


本当に煩いな。


「そうだな」


「だから、いい加減に少しは前向きに考えなよ」


本当に面倒くさいな。



「じゃぁ聞くけど? 橘さんには友達は居るの?」


「ええっ沢山居るわよ」


居るわけないよ。


「嘘だ」


「嘘なんて言わないよ!」


「だったら、その友達は橘さんにもしもの事があったら代わりに死んでくれるのかな? 大きな困難にあった時に死に物狂いで助けてくれるのかな? お金に困ったら10億位貸してくれるのかな?」


ついむきになり話してしまった。


「そんなの居る訳無いじゃない!」


今は居ない。


だけど、僕には本当に居たんだ。


「だったら橘さんにも友達は居ないと思うよ」


「黒木くん、そうやって煙に巻くのは良く無いよ」


そう言って橘さんは呆れた顔で立ち去っていった。


橘さんはクラス委員長だから、僕に関わって来るしかない。


先生に頼まれたから、そういう部分も大きいのだと思う。


しかも『クラスの人気者』そういう立場があるからしているだけ。


それだけだ。


僕にとっての友人は組織の仲間しか知らない。


共に命を掛け、大きな野望の為に戦う仲間だった。


悪いがお前達じゃ仲間になんてなれないよ。


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