第4話 銀行にて
駄目だ、本当に何もする気が起きない。
もう此処に泊って10日間になるが何もする気が本当におきない。
お腹がすいたらルームサービスを頼んで食い、他はただ寝ているだけの日々だ。
『世界征服の野望』それを無くした今……何もやりたい事が無い。
『これで良いのか?』
これで良い訳が無い、僕はブラックローズの最後の一人だ。
復讐も出来ないけど……せめて姉が言う通り『普通の高校生』として残りの人生を生きなければ……それが遺言なのだからせめて叶えたい。
だが、一体何から手をつければ良いんだろうか?
僕は組織の中で生きてきて世界征服結社の幹部として帝王教育を学んできた。
特に、財政を担当していたから『普通』って物が解らない。
過去を振り返ってみたら、世界征服と金儲け、経済、それ以外は何も学んでいなかった気がする。
才淡いこのホテルはWIFIもある。
ネット環境が充実しているから、スマホとノートパソコンで調べてみた方が良いかも知れない。
こう見えても改造手術の結果知能も高い。
きっと、どうにかなるだろう。
考えた結果まず、僕に必要なのは『住む場所』だ。
行く場所は決まった、不動産屋にいこう。
そこに行って部屋を借りる。
そこが多分一番最初のスタートだ。
とりあえずホテルから一番近い不動産屋に来た。
お金はあるとはいえ、余り贅沢はしない方が良いだろう。
不動産屋に貼りだされている物件を見て見る。
月80万も出せば結構広い部屋も借りられるが此処はぐっと家賃を押さえて50万円以下の物件にした方が良いだろう。
店頭に貼っている物件で気に入ったのがあったから入店して詳しく聞いてみる事にした。
「いらっしゃいませ、お部屋をお探しですか?」
なかなか愛想のよい店員さんが話しかけてきたが、目が合うと急に目つきが変わった気がする。
「店頭で気に入った物件があったので借りたいと思いまして」
そう伝えたのだが、なんだか嫌な目で見られている気がする。
こういう目をする人物はこちらを勘ぐっている人物に多い。
「それでどの物件ですか?」
「はい、こちらの物件です」
「はぁ~これ1か月48万の家賃なんですが……見間違いとか言いませんよね」
なんだか随分失礼な態度だな。
「はい、それ位なら充分払えると思います」
「敷金とか礼金とか掛かりますよ? それにお客様は未成年じゃないですか?」
見落としなどしていない、この位なら僕にとって小銭みたいなもんだ。
「はい……『確か』16歳です」
「親御さんは許可されたのですか?」
親御……さん?
「両親はいません」
「……保証人は?」
保証人?
「居ません」
「はぁ~貴方私をおちょくりに来たんですか? 両親も居ない? 保証人も居ない? そんな人間がこんな高級マンション借りられる訳が無いでしょうが」
「あの、お金なら12ケタ位ありますが……」
「ぷっ……12ケタ、1千億ですか? 冗談は止めて下さいね、これ以上馬鹿言うなら摘まみだしますよ? ほら奥で怖い店長も睨んでいますよ、とっと出て行きなさい、金持ちゴッコは他でして下さいね!」
困ったな、お金ならあるのに。
保証人が要るのか。
「解りました、ご迷惑をお掛け致しました」
お金に余裕があっても保証人がいないと賃貸は借りられないのか。
何で姉は僕を高校生にしたかったんだ?
どうせ戸籍を偽造するなら20歳にしてくれれば良かったのに。
まぁ良いや、こういう時はとりあえず銀行に相談だ。
いつも、何かあると僕は銀行に相談してきた。
今回もきっと、なにか良いアイデアを出してくれるだろう。
僕は丸の内にある、ポリアル銀行 本店に行く事にした。
ここは組織の表の顔である会社のメインバンクだし、僕のお金も殆ど此処に預けてある。
姉からも困った事があったら銀行に相談。
そう言われていた。
きっとどうにかなるだろう。
銀行につき受付に行く。
「すみません、松井頭取に会いたいのですが?」
「アポイントはおありですか?」
「有りませんが」
なんかいつもと対応が違う気がする。
「頭取はアポイントが無い方にはお会いしません」
いつもアポイントなんかなく会ってくれていたがどうしたんだ?
「急用で困っているのですが」
「無理でございます、お引き取りを」
「困っているんです」
「お引き取り下さい」
なんだ此奴……
だが、約束をしなかった僕のミスだ。
姉は僕と違って必ず連絡をしていた気がする。
「それでは、連絡先の電話番号を教えて下さい」
「はぁ~ それを知らない人間に頭取が会う訳ないでしょうが...警備員呼びますよ」
結構な金額を僕は預けているんだけどなぁ。
こんな事になるなら姉に連絡先を聞いておくべきだった。
「幾ら何でも、僕だってこの銀行に預金を預けているし、取引きしているんだ。それは無いでしょう」
「仕方ありませんね、警備員を呼びます」
「そうですか」
何で此処までされなくちゃいけないんだ。
「とっとと出て行ってくれませんか」
「行かない」
いい加減腹がたってきた。
「何をいっているんですか、仕方ない警備員を呼びます、覚悟して下さいね」
「何を揉めているんだ!」
何処からか聞いた覚えのある声が聞こえてきた。
「水島さん聞いて下さい、この変な男性が頭取と会わせろとしつこくて」
あっ、水島さんだ。
この人なら僕の顔を知っている。
「君、しつこくしても……あれっ、貴方は黒木様の弟さんですか」
助かった。
「良かった、知り合いに会えて、水島さん困っているんです。相談に乗って下さい」
「やはり、黒木様だ……野川くん、今、松井頭取はお忙しいのか?」
「会わせるんですか?」
「当たり前だろう!この方は元ローズカンパニーグループ総帥 黒木胡桃様の弟様だ! お得意先だぞ!」
「ローズカンパニーの総帥の弟様でしたか。失礼しました」
「それで、頭取の時間は取れそう?」
「それが今、打ち合わせ中です」
「それじゃ木島常務の方に連絡を入れてくれませんか?」
「はい」
これで相談に乗って貰えるな。
受付嬢が連絡を入れると、凄い勢いでエレベーターから走ってくる人物がいた。
「ハァハァ、いやぁ黒木様、お久しぶりでございます、大きくなりましたな」
「お久しぶりです松井頭取」
商談じゃ無かったのかな。
その横に木島常務もいる。
「はははっ本当に大きくなりましたな」
「木島常務まで、あの今は重要な打ち合わせ中だったのでは無いのですか?」
「何を言っているんですか? この銀行には黒木様とのお付き合い以上に大切な用事なんてない。そうだよな、木島?」
「そうですよ、あんな社内会議放って置いても構いませんね」
「助かりました」
「解っております、胡桃様の癖がまた出たのですね、しっかりとフォローするように言われていますから、ご安心を」
【頭取室にて】
「しかし、胡桃さんも忙しいですな、また何処かに行ってしまったのですか?」
姉である総統が何か言っていたのだろう。
ここは話を合わせておいた方が良いな。
「はい」
「確かにビジネスになると直ぐに出かけてしまう、そう言う方ですからフォローする弟さんも大変ですね」
「そうですね、多分今度は結構長くなりそうです」
「だからですね、ローズカンパニーは畳んでしまって全部お金に変えてしまったのは」
「そんな事があったのですか?」
「話しを聞いていないんですか?」
「はい」
「会社を売ってしまわれて、そのお金は全部、貴方名義で当行が預かっています、詳しくは後で貸金庫に通帳から全部ありますので確認下さい、軽く13ケタはありますよ。これは贈与他税金の手続きを終えて、自由にして問題ない金額になります。 すべての手続きは当行の弁護士と税理士がしておりますからご安心下さい」
そんな事は初耳だ。
「何から何まで有難うございます」
「それで、黒木様の後見人は胡桃様に頼まれて私がなりましたからご安心下さい。まぁ胡桃さんとは長い付き合いで半分娘の様に思っていましたからな」
確かに良くして貰った記憶がある。
姉が『何かあったら頼れ』そういう位信用していた。
僕は現状について話した。
すると、簡単に話は纏まりどうにかしてくれるそうだ。
「有難うございます、これで家を借りるなり買う事が出来る」
「そうですな、買うのであれば当社にも不動産部門がありますのでそこから良い物件を紹介させて頂きますが、如何でしょうか?」
「良かった、さっき不動産屋に断られて困っていたんです! そうしてくれると助かります」
「何処の不動産屋ですか?」
「ホテルから一番近い、何といったかな?」
「あそこかぁ~、まぁうちと付き合いもありますからクレームを入れて置きます」
「放って置いて構いませんよ」
「なら、そうしましょう」
暫くは姉、胡桃の話で華が咲いた。
どうやら此処では姉は死んだのでは無く、海外に新しいビジネスチャンスを求めて旅立った事になっている。
まだ、先代の総統がやっていた頃からの付き合いで、この銀行が資金繰りで困っていた時に先代が多額のお金を預けた。
そこからの付き合いだ。
裏で儲けたお金を姉の持っている会社に振り込む、その姉が持っている会社のメインバンクが此処だ。
銀行を助けた事から、家族の様に先代と姉は付き合い、僕もその輪に加わっている。
子供の時に松井頭取に遊園地に連れていって貰らった思い出もある。
「そう言えば高校に通うのでしたね、私としては通う必要は無いと思いますが、海外の大学を飛び級でとっくに卒業しているのに、今更通うのですか?」
確かにそうなっている。
お金と裏の力で手に入れた学歴。
尤も、知識だけなら改造手術でIQ600の僕には必要ない。
「ですが、姉は僕には普通の高校生活を送って貰いたいみたいで、再度高校に通うように言われました」
「なら青倫館学園がお勧めです、名門と言えませんがそこそこ学力も高い、それに当行がお金を多額貸し付けているので融通も利きます」
「それじゃお願いして宜しいですか?」
「はい、任されました」
うん『普通の生活』に一歩近づいたな。
「後は住む所ですね」
「それなら、その学園から二つ先の駅近にタワーマンションがありますからそこを買っては如何ですか? 当行も一枚噛んでいますので」
「重ね重ね有難うございます」
「いえ、此方がいつもお世話になりっぱなしでしたからこれからはなんなりとご相談下さい」
銀行に来てよかった。
姉の事を知っている人と話しをした僕は久々に笑った気がした。
ほんの少しだけだけど、生きる希望が戻った気がした。
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