今さらママのことが欲しくなっちゃったのかしら?

 ねむたちは飛行機に乗って電車に揺られ、ママのいる国会議事堂にやってきた。


 ニュースにしょっちゅう出てる新しめの遺跡みたいな建物が、どーんとねむたちを待ち構えている。


 入口には、警備員が四人。

 さすがにねむたちじゃどうしようもないな。


 もっとSNSとかで人を集めてくるべきだったかな……?

 でも今正気な人はSNSやってない気がする。


「これ……どうやって入んの?」

「国会議事堂って見学できるらしいから、その制度を使って入ろう。どうせ今見学しようって人はいないから、たぶん入れると思う」


「たしかに……みんな由芽さんになるのに必死だもんね……」


 彩乃こいつ頼りになるなぁ。

 なーんて思っていたら参観受付は裏口にあるって言われた。


 ちょっと見直したねむがバカだった。

 でも見学なら、怪しまれることもないだろう。


 ねむたちを怪しむ要素とか一ミリもないでしょ。

 人妻軍団だぞこちとら。


 参観申込書を書いて、手荷物検査を受ける。

 あれ? なんかいまりんの顔青くない?


 警備員がいまりんのボディチェックをしようとした瞬間、バチっと電流が走った。

 ぐらりと警備員が床に倒れる。


 え? 今こいつ何した?

 もうひとりの警備員が、ぎょっとしていまりんを警戒する。


 まずい……このままじゃテロリストかなんかだと思われるな。

 あながち間違ってはないけど。


 ここは警備員の気をいまりんから逸らさなきゃ!


「あっ、手が滑っちゃった~!」

「きゃっ!?」


 ねむは佳奈のスカートをひらりとめくった。

 白いぱんつが一瞬だけ奥ゆかしく顔を出す。


 警備員の目は突然のぱんつに惹かれた。

 その隙をいまりんは見逃さなかった。


 電流が警備員に走り、気絶させる。


「ちょっとねむちゃんなにするの!?」

「そこにいた佳奈が悪い」


「こんのっ……!」

「待って! こいつがカスなのは今に始まったことじゃないから!」


「チカあんたどんどん口悪くなってない? ていうか、いまりんはなんでスタンガン持ってんの?」


「こういうときに使えるかなって……」

「なるべく“こういうとき”にならないように立ち回った方がいいに決まってんだろボケ!」


 こいつ置いていってやろうか。

 まあ、とりあえず手荷物検査を突破できた。


 あとはずんずん入っちゃおう。

 受付の警備員はふたりしかいなかったみたいだし。


 すぐに国会の中に入れるのかと思っていたら、最初にやたら長い階段が立ちふさがった。


 これ上るのだるいな……。

 でも、ママが待ってるんだ。


 ねむたちは息を切らしつつも階段を駆け上った。


 ママ、どこにいるんだろ。

 ドアを開けるとそこは、本会議場だった。


 警備員もいないけどママもいない。

 まあ国会もしてないし。


 もし開いてたら由芽ちゃんの議題しか挙げられてなさそう。

 なんて時間の無駄なんだ。


 そそくさと本会議場を後にして、長い廊下を歩く。

 階段といい廊下といい、なんでこんなに長いの?


「君たち、見学か? 担当の衛視は誰――」


 なぜかねむたちを怪しんできた警備員が圧をかけてくるが、すかさずいまりんがスタンガンを当てようとする。


「うっ……!」

「そんな見え見えの攻撃が、私に通用するとでも?」


 しかしさすがは警備員。ぱっといまりんの手を避けて足払いをかけてきた。

 まずい……! 不意打ちが失敗するなんて……!


「すみません! 私の手が!」

「ひゃあっ!?」


「なっ!?」


 撫子が素早く佳奈のスカートをめくる。

 本日二度目のパンチラと悲鳴は、警備員の注意を一瞬逸らすのに十分だった。


 いまりんが落としたスタンガンをチカが拾って、警備員の体に電流を流す。


「ナイス、チカ!」

「警備員さんには、ちょっと申し訳ないけどね! それより……」


「撫子さん! なんで私のスカートをめくったんですか!?」

「そこにスカートがあったからです。めくるしかないじゃないですか」


「……ねむちゃんといい、私のことなんだと思ってるの!?」


 いい悲鳴を上げてくれる女。

 たぶん、さっきのパンチラで撫子も気付いたんだろう。


 佳奈の、可能性に。

 さすがエロを嗜んでいるだけのことはある。


「それよりはやく行かないと! また警備員さん来ちゃうよ!」

「うう……あとで覚えててよ……!」


「ええ。対価なきパンチラなど、あぶく銭同然ですから」


 そうして長い廊下を走って、なんかそれっぽい豪華な部屋を見たけどママはいなかった。


「変だな……警備の数が少なすぎる……もっと配置されていてもいいはずなのに……」


「たしかに……ぜんぜん見かけないね」


 彩乃の言う通り、いくら国会が開かれていないとはいえ静かすぎる。

 ……逆に怖いな。


 警戒しつつも走っていると、吹き抜けの広間にたどり着いた。

 天井がやたら高くて、どっかの宮殿にでも来たみたいな気分になる。


 広間の隅には偉人の石像が建てられていて、ひとつの隅にだけ石像がなく台座だけ置かれていて。


 その台座の前に……ママはいた。


「この台座……由芽ちゃんの石像を立てるのにちょうどいいわね。あっ、この人達をどかせば全部の隅に由芽ちゃんを置けるわ!」


「ママ!」


 声を掛けると、ママはくるっとこちらを向いて首をかしげた。


「なんでねむちゃんがここにいるの?」

「ママを、迎えに来たの」


「いつからあなたが私のママになったのかしら。由芽ちゃんになれなかったからって……やけっぱちで下剋上でもするつもり?」


「やけっぱちなのはママの方でしょ。恋人のためだけに国乗っ取るとか……何考えてんの?」


「由芽ちゃんをつくることしか考えてないわ。ねむちゃんにもう用はないの。だからはやく帰ってくれる? ママは忙しいの」


 ママはねとつべの広告を見てるときみたいな目をしている。

 ……ほんとは、構ってほしいくせに。


「イヤ。ママがねむを見てくれるまで、帰らない」

「ふーん。今さらママのことが欲しくなっちゃったのかしら? だったらまず、その取り巻きを捨ててきたらどう? ぜんぜん誠意を感じないわ」


「こいつらはここ入るために連れてきただけだよ。そういう関係じゃないから」


「そうですよ! あたしとこんな奴が付き合うとかありえないし!」

「誠に遺憾です! その発言、政策と一緒に取り消してください!」


 チカはともかく、快楽堕ちしてた撫子が言ってもなぁ。

 でも援護射撃してくれたのは嬉しい。


「総理! 人間がまったく別の人間になることなんてありません! 私たちから、心を奪わないでください!」


「あなたのしていることは、国をただ引っ掻き回してるだけです。そんな人に国のトップは務まりませんよ」


「……居場所が欲しいんですよね。もっと、他の方法を探してみませんか?」


 佳奈と彩乃、そしていまりんも加勢する。

 国民の悲痛な訴えに、ママは。


「……あなたたちは、由芽ちゃんになりきれなかったのね。かわいそうに。もう一度チャンスを与えてあげるわ」


 蠱惑的な笑みを浮かべて、言った。


『あなたたち、由芽ちゃんになって』


 その声を聴いたみんなは、なにかが体に入り込んできたような顔をした。


「うっ……やめっ……ああああああああああ!!!」

「いやっ……あああああああああ!!!」


 狂ったように、頭をかきむしる。

 な、なにこれ……。


 気味の悪い状況に恐怖を感じていると、みんなはいっせいににっこりと笑った。


「「「「「ねね! 会いたかったよ~!」」」」」


 嘘、でしょ。

 絶句するねむに、ママが耳元で囁いてくる。


「警備員さん少ないなって思わなかった? それはね、警備する意味があんまりないからよ」






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