今後一生お前に彼女ができるたびに寝取り続けてやるからなぁ!

「由芽ちゃん、ねむちゃんを捕まえて」

「「「「「うん!」」」」」


 みんながねむに飛びかかってくる。

 完全に操られてる……! 


 もうやってることが異能力モノのラスボスじゃん!

 やっぱりママは人智を超えすぎてる……!


 ねむは数の暴力を前にあっさり取り押さえられてしまう。

 くそっ……!


「みんな目を覚まして! なに洗脳されてんの!」


 ほっぺをつねったり頭突きをしたりしてみても、みんなは由芽ちゃんのままだった。


「無駄よ。みんな私の魅力に堕とされているもの。ねむちゃん、しょせんあなたが作った絆なんて、こんなにあっさり壊れちゃうくらい脆いものなのよ」


 ママがねむを嘲るように笑ってくる。

 ……これが寝取られた人間の気持ちなのかな。


 どうでもいいけどね!


「ママを止めるんでしょ!? とっとと起きろ!」


「ふふっ……ねむちゃんには無理よ。私の血を半分しか引いてないあなたじゃ、半分の魅力しかないってことだもの。私の魅力からは逃げられても、この状況は覆せないわ」


「……違う」

「なにが違うの? あなたは由芽ちゃんになれなくて、私にも勝てない。他の女に浮気した罰が今、あなたに降りかかってるのよ?」


「ねむの魅力は……ママにだって勝てる!」


 ねむは、大きく息を吸い込んで叫んだ。


「チカ! お前今寝取られてんだよバーカ! ねむにいまりん寝取られて悔しかったんでしょ!? だったら、お前が寝取られてんじゃねえよ!」


「ぅ……あ……?」


 ねむを抑えるみんなの鼓膜が、破れるぐらい。


「今起きなかったら、今後一生お前に彼女ができるたびに寝取り続けてやるからなぁ!」


「……人から奪った幸せは、すぐに枯れるって言ったでしょ!」


 チカが、くわっとねむに吠えた。

 よし。まず一人。


「そ、そんな!?」


 ママはぎょっとして目を見開いた。


「まだまだこれからだよ、ママ。佳奈! お前は頑張れる女だよ! 今までそこそこの才能で頑張ってきたんだから! 洗脳くらい頑張って解いてみせろよ! そしたらお前は、努力の天才だってねむが認めてあげる!」


「……はあっ! どう? ねむちゃん……!」

「最高」


 佳奈も気合で目を覚ました。

 お前、天才だよ。


「いまりん! 反省したみたいだけど、まだ寂しいんでしょ! たまには寝落ち通話付き合ったげるから、戻ってきてよ! ねむだって、暇なときもあるんだからね! ちゃんとお姉ちゃんの話し相手になれよ!」


「……わたしがお姉ちゃんだし」


 いまりんも正気を取り戻した。

 まだねむが妹の立場だって思い込んでるのはむかつくけど。


「彩乃! モリカーでは勝てなくても、恋愛では勝ってんだよ! 佳奈のこともしっかり寝取ってるから! なんで負けたかわかる~? お前がのんきにゲームとかやってるからだよバーカ!」


「えっ……ちょっとねむちゃん!?」

「……ねむ、後で覚えとけよ……!」


 彩乃が青筋を立てながら目を覚ます。

 なんか佳奈が焦ってるけど、洗脳解除できたしいいでしょ。


「撫子! ねむに寝取らせ趣味はないの! すぐ浮気しちゃうような子は嫌だって言ったでしょ! ぱんつ見せてやるから戻ってこい!」


「……誘惑してきたあなたが言えることじゃないでしょうが!」


 撫子が戻ってきた。さすがはねむの下僕。

 よし。これで全員。


「う、嘘でしょ……ありえないわ……! 私の魅力が、通じないなんて!」

「たしかにねむにママの魅力はないし、由芽ちゃんになることもできない。でも、ねむにはねむの魅力がある。それを使えば、こんぐらい楽勝だよ」


 床にへたり込むママに、手を差し出す。


「ママ。由芽ちゃんの魅力は、由芽ちゃんにしか出せない。でも、ねむがママの居場所になることはできるからさ。戻ってきてよ」


「……嫌よ。なんで浮気したの?」


 ママはキッとねむを睨む。

 まあ、そりゃ怒るよね。


「ねむちゃんは、玲奈のことが好きなんじゃなかったの? だったら、叶わない恋をずっと追い掛けてたらいいじゃない」


「うん。好きだったよ。でも玲奈を好きになったのは、ママに似てたからだよ」

「えっ……?」


「玲奈は……あのときねむを助けてくれたでしょ。その優しさが……すっごく似てた。変装してても、ねむは心のどこかで気付いてたんだと思う。玲奈は、ママだって」


 ねむはママの顔にそっと触れて、言った。


「ねむは、ママのことが好き。ねむを大切に育ててくれて、いっぱい愛情をくれたママが、大好き」


「で、でも! 私は……!」


 ママは罪悪感でいっぱいになった表情でなにか言おうとした。

 そんなママを、ねむはぎゅっと抱きしめる。


「うん。わかってるよ。ママがずっと寂しかったってことは。だから、ひとりにならないで。ねむと一緒にいようよ。ねむも、ママがいないと寂しくなっちゃうんだから……」


 こぼれた雫が、ママの服を濡らしたあと。

 そっとねむの背中を、ママの両腕が包み込んだ。


「……ごめんね、ねむちゃん。ママも、本当はねむちゃんのこと、大好きなのっ……! でも、由芽ちゃんを裏切ってる気がして、私、わたし……っ!」


「いいんだよ、ママ」


 ママがねむのことを大好きだったってことは、一緒にいてずっと伝わってきたから。


 ねむとママは、お互いの存在を確かめあうようにぎゅっと抱き続けた。







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