私いま、ほんっとうにしあわせ!

 ……今の話、まじでなんだったの?

 意味わかんないんだけど!?


 なんでねむママがあんなことをしたのかわかんないし、ねむをそこまで溺愛してる意味もわかんない。


 いくら子供が心配だからって一緒に生徒になるとか……どんな親だよ!


 結婚するって約束をずっと本気にしてたのもやばいし!


 ねむがあんなヤツになったのも納得だ。

 同情はしないけど。


 まあ、もう関わることはないでしょ。

 触らぬ神に祟りなしって言うしね。


 さて……。

 あたしはまったく状況を飲み込めてない石成さんの方を振り返る。


「ねえ、石成さん」

「は、はいっ!」


 声をかけられた石成さんがびくっと震える。


 あいつから偽りの優しさを貰っていたんだろう。

 いなくなってちょっと落ち込んでるのかも。


 この人には今、支えてあげる人がいなきゃダメだ。


「あなたは、絵のことであいつに相談してたんだよね? あたしでよかったら、いつでも相談に乗るよ。あいつの代わりっていうとアレだけど、話を聞くくらいならできると思うからさ……」


「あ、ありがとうございます。その……相談というか、もしよかったらねむちゃんが一体どんなことをしてきたのか、教えてもらってもいいですか? 気になってしまって……」


「あはは……そりゃそうだよね。あと、あたしのことはチカでいいよ。たぶん同い年でしょ?」


「そ、そっか……じゃあチカって呼ぶね」

「おっけー! あ、あたし石成さんのことかなぽよって呼んでいい?」


「ぽ、ぽよ……? いいけど……」


 そうしてあたしとかなぽよは友達になった。

 あいつのことはむかつくけど、新しい友達ができたのはよかったな。



「ふぅ……」


 あー疲れた。

 おばさんになると体力が落ちちゃって嫌だわ。


 椅子に括り付けられた由芽ちゃんは、静かに眠っている。

 もともとはさっきまで私がねむちゃんって呼んでいたものだ。


 最初からこうしていればよかったっていう後悔が、ずっと渦巻いている。

 でも、この子が目を開けたら、由芽ちゃんになっているはずで。


 それはとっても楽しみ!

 久しぶりに由芽ちゃんと逢えるんだもの!


 さて、眠っている恋人を起こすなら、どの方法がいいかしら。

 キス? それともキス? いや、キスっていう選択肢もあるわ。


 私は由芽ちゃんにそっと口づけをした。

 すると由芽ちゃんは、ぱちっと目を開けた。


「あら、おはよう由芽ちゃん。きょうもかわいいわね……」

「ねね……おはよう。ねねもすっごくかわいいよ?」


 私の名前を呼んでくれた! 呼んでくれた! 呼んでくれたっ!

 その事実が嬉しくて嬉しくて、快感が全身を走っていくのを感じる。


「ありがとう由芽ちゃん大好きぃ! ねぇねぇ、きょうは何して遊ぶ?」

「見つめ合いっこしよ!」


「ええ!」


 私と由芽ちゃんはじぃーっとおたがいの顔を見つめ合った。

 ああ……由芽ちゃんの顔ってなんでこんなにかわいいの……?


 見ててぜんぜん飽きないどころか、どんどんかわいくなってる気がする!


 時間を忘れるほどうっとりしていると、由芽ちゃんがよろめいた。

 あら、もう1日が終わっちゃったみたい。


 きっと由芽ちゃん、喉が渇いちゃったのね。


「ごはんにしよっか?」

「うん」


 同じ体勢でしびれた体をなんとか起こして、台所に向かう。


「きょうのごはんなにー?」

「愛情たっぷりのシチューよ」


「やった~! ゆめ、ねねのシチュー大好きぃ!」


 ぴょんぴょんと全身で喜びを表す由芽ちゃん。


 もう……いつまでも子供なんだから。

 そこが由芽ちゃんのかわいいところでもあるんだけどね?


 トップスをたくし上げて、ブラをずらす。

 そして野菜がコトコト煮立っているお鍋に私のお乳を注ぎ込んだ。


 このお野菜もお肉も、私のミルクも、これから由芽ちゃんの体の一部になるのよね……。


 つまりこのシチューはもう由芽ちゃんって言ってもいいはず。


「由芽ちゃん、この温度できもちいい?」

「きもちいいよ! ねねありがと~!」


 お鍋からかわいいお返事が聞こえてきた。

 よかった。ちゃんと温度を調整してあげないと、由芽ちゃんあつくてこげちゃうものね?


「ねね~、まだ~?」

「もうちょっとだから待っててね、由芽ちゃん!」


「由芽ちゃん、あとどれくらいにこにこしてほしい?」

「んー、あとちょっとかな」


「わかったわ。焦らなくていいからね!」


 ふたりの由芽ちゃんにサンドイッチされて、幸せ♡

 できあがった由芽ちゃんをお皿に注いで、由芽ちゃんの前に運んであげる。


「わ~! おいしそ~!」

「ふふっ、それじゃあ手を合わせて~!」


「「いただきまーす!」」 


 私はシチューをスプーンですくって、由芽ちゃんのお口に運ぶ。


「あーん」

「あむ……おいしい……! きょうはねねのミルクたくさん入ってるね!」


「きょうはちょっと張り切っちゃった! だって……久しぶりに由芽ちゃんと逢えたんだもの……!」


「えへへ~! ゆめも、ねねと逢えてうれしかったよ!」

「も~! 由芽ちゃんったらほんとうにかわいいんだから~!」


 私いま、ほんっとうにしあわせ!

 由芽ちゃんといっしょにいられる日がまた来るなんて……!


 ここまで、本当に長かったわ。

 私は、ご飯を食べ終わってすやすやと眠る由芽ちゃんの頭を撫でながら、いままでのことを思い出した――。










だれか、たすけて

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