女の子を世界一かわいい女の子に変えるお仕事
お待たせしました。
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あの後、家まで送ろうか? って玲奈に聞いたら「そこまでしてもらうのは申し訳ないよ」って言ってひとりで帰っちゃった。
顔色はだいぶ戻ってたけど、大丈夫かな。
あのレベルで救急車を呼んでいいのか微妙だし、タクシーを使うほどじゃないって本人は言ってたけど……。
なんだったんだろう、あれは。
ひとつ言えることは……ねむがNTR力を高めれば玲奈にあんな思いはさせずに済むってことだ。
タケノコよりもはやくNTR力を成長させる必要がある。
よし、こういうときは……ママに相談しよう! と思っていたのに。
こんな時に限ってママはいない。
ママがいないときって年に一回あるかないかくらいなのに。
ほんとになんの仕事してんだろあの人。
なにもすることがなくて、家のベッドに寝転がる。
学生よりもはやく帰ってこれて、あとの時間はずっとねむに構ってられる仕事……治験とか?
薬の実験台になるんだっけ?
いやそんなことしてたら体ボロボロになっちゃうか。
あとは……大人のお店?
あーいう店って昼も開いてんのかな? 開いてないよね多分。
夜はずっと一緒にいるから夜働いてるってわけでもないし。
何時に目を覚ましてもママはねむのベッドにいた。
トイレ行きづらくてちょっと困ってるのは内緒。
昼も夜も働いてたらそれこそ体ボロボロだし。
うーん、考えれば考えるほどわかんない……。
「ねえ、ねむちゃん。今ママのこと考えてるでしょ」
「うわっ! びっくりさせないでよ……」
いつの間にかベッドに潜り込んでねむを抱きしめていたママ。
気配なさすぎでしょ。くノ一かなにか?
「びっくりするってことは、ママのこと考えてたのね! うふふっ! ねむちゃんったらかわいい~! ママもねむちゃんのことずっとずーっと考えてたわ!」
「うん……考えてたけどさ……」
ねむのほっぺにキスの雨が降り注ぐ。
いつもよりちょっと激しい気がする。
仕事で嫌なことでもあったのかな。
「ねえ、ママってなんの仕事してるの? いいかげん教えてよ」
「いいわよ。ねむちゃんももう高校生だものね。教えてあげるわ」
ママはちょっと溜めてから、ばーんと言い放った。
「ママはね、女の子を……世界一かわいい女の子に変えるお仕事をしてるの!」
「……メイクアップアーティスト、的なの?」
「そうそう! ねむちゃんってばおりこうさんね!」
わしゃわしゃと撫でられつつも、ぜってぇ適当に言ってるってことを確信する。
だって隠すような職業じゃないし。
よし、ここはイジワルついでに目的を果たそう。
「じゃあさ、ねむにメイク教えてよ、ねむ、もっとかわいくなりたいの」
「え~? そんなことしなくたって、ねむちゃんはとってもかわいいのに~?」
「できないからそーいうこと言うんでしょ。ねむ、ママがかんぺきなメイクしてくれないんだったら、ママはニートだって思っちゃうかんね」
「ひどーい! ママだってちゃんと自分の仕事はしてるのよ!?」
「じゃあなんで嘘つくのさ! 娘からしたら親の仕事わかんないってだいぶ怖いんだよ!?」
うっかり本音が出てしまった。
でも、そろそろ得体の知れないことがひとつくらいわかってもいいだろう。
ねむのママは明らかに、フツーじゃないところが多すぎる。
「もー、しょうがないわね~。わかったわ。ねむちゃんにメイクしてあげる」
「いいの? 出来なかったらママのことニートって呼んじゃうよ?」
「ママに向かってなんてこと言うの?」
顔をがっちりと掴まれて、至近距離で見つめてくる。
「……ご、ごめんなさい」
「いいのよ。ママこそごめんね? ずっと内緒にしてて。それじゃあ、メイクセット持ってくるわね」
根源的な恐怖に屈してしまった。
でもママってメイクできるのかな?
娘のねむから見てもママはすっぴんでその辺のブスを焼き払える。
いや、人妻でも火傷しちゃうかもしれない。
ママが化粧をする必要なんてお世辞抜きでないんだよね。
「ねむちゃんお待たせ~。それじゃあ、メイクしていくわね」
「うん」
目をつむるとクリームらしきものがぬりぬりと塗られていく。
何塗られてるかすら知らないの、女子高生として終わってない?
いや、今までは化粧する必要がなかっただけだ。
これから覚えていけばいいはず。
「今これなに塗ってるの?」
「化粧下地だよ~。あ、ずれちゃうから喋っちゃダメよ」
「うん」
そうして色々ぬりぬりされたりちゅーされたりしていると。
「終わったよ~。お疲れ様。はい鏡」
「ありがと……ってこれがねむ!?」
鏡を覗いてみると、そこにはぴかぴかに輝いているねむが写っていた。
なんていうか……かわいいを通り越して眩しい。
ねむがねむに恋しちゃうかも……。
「もっと別人みたいにすることもできたんだけど、ねむちゃんはもともとかわいいから、本来のかわいさを生かしてみたわ。どうかしら?」
「すごい……すごいよママ……! これなら……!」
ねむ、今年一番感動しちゃった。
こんな可能性が、ねむに秘められてたなんて……!
「ところで、ねむちゃん」
「ん? なーに?」
「なんでかわいくなろうって思ったの?」
「え?」
ママが真顔でそんなことを聞いてくる。
「そりゃ……ねむも女子高生なんだし、かわいくなんなきゃって思っただけだよ?」
「……そうなの?」
「うん」
理由言えるわけねーだろ! って思いながらもごまかす。
「そっか。ならいいのよ……」
ママはそこで引き下がってくれた。
納得してくれてるといいけど。
「ちょっと疲れたでしょ。おやつ持ってきてあげるから待っててね」
「やった~! ママありがと~!」
ママはねむの頭をひと撫でしてから、キッチンに向かった。
今度からは、ちゃんと言い訳考えとこう……。
「怪しいわね……」
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