お前の女寝取られてんだよバーカ!
やるとすっごく気持ちよくなれて、ずっと一緒にいられるくらい愛が深まる。
ねむの言っていたことは本当だった。
わたしは、もう……ねむに塗り替えられていた。
「ねえ」
「ん? な~に?」
膝枕をしてくれているねむを見上げてわたしは言う。
「お願い。ずっと、そばにいて……」
この温かさを失いたくなくて、つい言葉に出してしまう。
胸がしめつけられて、ねむの手をきゅっと握る。
するとねむは、にっこりと笑ってわたしの頭をなでてくれた。
ほわほわとした幸せに包まれていると、ねむがドアを開けて、脱いだ服のポケットからスマホを取り出した。
そしてビデオ通話を始めて、言った。
「やっほーチカ! 今ね、いまりんとえっちして遊んでんだけど来る~?」
*
*
*
『……は? ど、どういうこと……?』
「あれ? 言ってなかったっけ? いまりん、チカのためにずっとえっちの練習頑張ってたんだよ? だから、そろそろチカともさせてあげよーかなって思ってさ!」
ビデオ通話って、いいね。
チカの信じらんないって顔がたまんねえなぁ!
『なに、それ……意味わかんないんだけど……』
「いや分かれよ。お前の女寝取られてんだよバーカ!」
ほんっとにおかしいときって、笑えないんだよね。
過呼吸みたいになっちゃうから。
今のねむはまさにその状態だ。
ヒャヒャヒャ……と掠れた声が喉から出るだけだった。
「まあ、そういうことだから。よろしく~」
『ちょっと待っ――』
通話をぶつっと切る。
いくら電話が進化しても、会って話すのがいちばんだよね。
たぶんいまりん家ってわかるだろうし。
いまりんが、不安そうな表情でねむを見上げる。
「チカとなにかあったの……?」
「だいじょうぶ。いまりんはなんにも心配しなくていいからね~!」
今さらわかったところでもう手遅れだもんね!
そんなことも知らずに、撫でられて目を細めるいまりん。
ずいぶん懐いてくれたなぁ……。
ほんのちょっぴり愛着湧いてきちゃったよ。
しばらくいまりんを愛でていると、インターホンが鳴った。
「えっ……誰?」
「ねむが出てくるから、ちょっと待っててね!」
いまりんのおでこにちゅーをしてから、チカを出迎える。
裸でお出迎えとかはじめての経験だ。
ちゃんとインターホンの動画を確認してから、ドアをばん! と開ける。
「待ってたよチカ~! ほら入って入って~!」
「……ねえ、さっきのさ、冗談だよね」
顔を引きつらせるチカ。
今ならにらめっこ大会優勝できるんじゃないのこいつ。
「え~? 自分の目で確かめてみたら~?」
ねむが言うなり、チカはどたばたとお風呂場に走っていった。
途中で転んだらもっと面白かったのに。
お風呂場のモノを目にして、膝から崩れ落ちるチカ。
そんなチカの肩に手を置いて、ささやく。
「これを見ても、まだ冗談だって思うのかにゃ~?」
「な、なんでこんなことをしたの……?」
「そりゃあ決まってるじゃん。いまりんが寂しそ~だったからだよ!」
「で、でもあたしは、ちゃんと……」
「付き合ってたね。でも、いまりんはずっと寂しがってたよ? チカと一緒にいる時間は減ったし、寝落ち通話もできないしで……」
「依存しちゃったら、どうせまた別れるって言われちゃうんだもん。そんなんで寂しくないわけないじゃん」
「そ、それは……いまりんがあんなことしなかったら、あたしは……」
「うっわいまりんのせいにした! ねえいまりん~! 今の聞いた!? ひどいよねぇ~! 全部チカのためにやったことなのにさ~!」
ぽかんとしているいまりんに問いかける。
「なんでここにチカがいるの?」
「質問を質問で返しちゃダメだよ? いまりんがアレの練習頑張ってるってチカに言ったら、なんか怒っちゃってさ!」
「えっ……頑張ったのに……なんで?」
「……っ!」
はい、いまりんの口から直接いただきました~!
割れてバキバキになった鏡みたいな顔をするチカ。
普段は元気いっぱいな子でも、こういう顔できるんだね。
写真に撮って待ち受けにしよ!
シャッターを切って、ぺぺぺっと待ち受けに設定する。
「いい写真撮れたよチカ! ありがと♡」
「……ねえ。あたしたちって、友達なんじゃなかったの」
チカが、ポロポロと割れた破片をこぼしながら聞いてくる。
「うん。友達だよ?」
「じゃあなんで! なんでよ!」
「チカなら優しいから、許してくれるかなって」
「は……?」
「チカってさ、いまりんだけじゃなくて、ねむとか、いろんな人に優しくできるよね。だから、こういうことしてもチカなら許してくれるって、ねむ信じてたんだよ!」
この人ならこうしてくれるだろうなって思って行動する。
これ以上の信頼関係ってある? ないよね~!
「ねむたち、友達だもんね! ちょっぴり彼女とえっちしたくらいで、怒ったりしないよね!」
「……もう、いいよ。黙ってて」
「許してくれるんだ! やっぱりチカってやさし~! ありがと!」
ねむはチカのほっぺにちゅーをした。
そしたらチカにべしっと払われた。なんでよ。
「……いまりん、自分がなにをしたのか、わかってる?」
「えっ……恋人同士ですることの練習、だけど……」
「いまりんは騙されてる。それは練習なんかじゃない。こいつが……恋人同士でしかしないことを、いまりんとするために言った嘘なんだよ!」
あーあ、バレちゃった。
なんも問題ないけど。
「やっぱり、そうだったんだ……」
「えっ……」
今この子やっぱりって言った?
まさか……気付いてたの?
「ごめん、チカ。最初はわたしも、本当に知らなかったんだけど……だんだん、なにかがおかしいって気付いてたの。でもやめられなかった。ねむがわたしを寂しさから救ってくれたから……」
「じゃあ……」
「ごめんなさい。わたし、チカを……裏切っちゃった」
ぷらりと、チカの両手が垂れる。
なんか落ち込んじゃったみたいだから、励ましてあげよ。
「そういえばチカ、前に言ってたよね。いまりんのこと、放っておけないって。でももうチカがいなくてもだいじょーぶじゃん! よかったね~!」
ねむがそう言うと、チカはゆらりと静かに立ち上がった。
よかった! 元気出してくれたみたい!
「さよなら、いまりん」
チカは一言、ぽつりと呟いたあと。
「……人から奪った幸せなんて、どうせすぐに枯れるから」
ぎろりと、ねむを睨んでそう言った。
「その幸せを最初に手放したのはチカじゃ~ん!」
ねむの言葉を無視して、チカは家を出ていった。
最後に捨て台詞残せる子だったなんて思わなかったなぁ。
さて、と。
ねむはいまりんの前に立って見下ろす。
いまりんはねむの足をそっと掴んだ。
「ねむは、ずっとわたしのそばにいてくれるよね……?」
「そんなわけねえだろ」
「え……?」
さっきのチカと、どっちのヒビがひどいかな。
ねむはどっちも芸術的だと思うな。
「だってお前めんどくさいんだもん。毎日寝落ち通話とかだるすぎでしょ。二度とかけてくんな」
「や、やだ! ごめんなさい! もう二度としないから! わたしを、ひとりにしないで……!」
涙目で縋りついてくるいまりん。
あーあ心が痛むなぁ。
「お前、誰かといっしょにいられるんならそれでいいんでしょ。じゃあねむじゃなくていいじゃん。ばいばーい」
「待って! 待ってよ!」
ぎりっと、ねむの腕が捕まれる。
あーだる。
「言っとくけど、チカんときみたいなことしたらこればら撒くかんね」
「……っ!」
オナニーしたときの動画をちらつかせて、黙らせる。
効いてよかった。
「じゃあね」
そうしてねむはいまりんの家を後にした。
これで二組目……!
コツは掴めてきた気がする。
もっともっと寝取らなきゃ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます