お前の女寝取られてんだよバーカ!

 やるとすっごく気持ちよくなれて、ずっと一緒にいられるくらい愛が深まる。


 ねむの言っていたことは本当だった。

 わたしは、もう……ねむに塗り替えられていた。


「ねえ」

「ん? な~に?」


 膝枕をしてくれているねむを見上げてわたしは言う。


「お願い。ずっと、そばにいて……」


 この温かさを失いたくなくて、つい言葉に出してしまう。

 胸がしめつけられて、ねむの手をきゅっと握る。


 するとねむは、にっこりと笑ってわたしの頭をなでてくれた。


 ほわほわとした幸せに包まれていると、ねむがドアを開けて、脱いだ服のポケットからスマホを取り出した。


 そしてビデオ通話を始めて、言った。


「やっほーチカ! 今ね、いまりんとえっちして遊んでんだけど来る~?」



『……は? ど、どういうこと……?』


「あれ? 言ってなかったっけ? いまりん、チカのためにずっとえっちの練習頑張ってたんだよ? だから、そろそろチカともさせてあげよーかなって思ってさ!」


 ビデオ通話って、いいね。

 チカの信じらんないって顔がたまんねえなぁ!


『なに、それ……意味わかんないんだけど……』

「いや分かれよ。お前の女寝取られてんだよバーカ!」


 ほんっとにおかしいときって、笑えないんだよね。

 過呼吸みたいになっちゃうから。


 今のねむはまさにその状態だ。

 ヒャヒャヒャ……と掠れた声が喉から出るだけだった。


「まあ、そういうことだから。よろしく~」

『ちょっと待っ――』


 通話をぶつっと切る。

 いくら電話が進化しても、会って話すのがいちばんだよね。


 たぶんいまりん家ってわかるだろうし。

 いまりんが、不安そうな表情でねむを見上げる。


「チカとなにかあったの……?」

「だいじょうぶ。いまりんはなんにも心配しなくていいからね~!」


 今さらわかったところでもう手遅れだもんね!

 そんなことも知らずに、撫でられて目を細めるいまりん。


 ずいぶん懐いてくれたなぁ……。

 ほんのちょっぴり愛着湧いてきちゃったよ。


 しばらくいまりんを愛でていると、インターホンが鳴った。


「えっ……誰?」

「ねむが出てくるから、ちょっと待っててね!」


 いまりんのおでこにちゅーをしてから、チカを出迎える。

 裸でお出迎えとかはじめての経験だ。


 ちゃんとインターホンの動画を確認してから、ドアをばん! と開ける。


「待ってたよチカ~! ほら入って入って~!」

「……ねえ、さっきのさ、冗談だよね」


 顔を引きつらせるチカ。

 今ならにらめっこ大会優勝できるんじゃないのこいつ。


「え~? 自分の目で確かめてみたら~?」


 ねむが言うなり、チカはどたばたとお風呂場に走っていった。

 途中で転んだらもっと面白かったのに。


 お風呂場のモノを目にして、膝から崩れ落ちるチカ。

 そんなチカの肩に手を置いて、ささやく。


「これを見ても、まだ冗談だって思うのかにゃ~?」

「な、なんでこんなことをしたの……?」


「そりゃあ決まってるじゃん。いまりんが寂しそ~だったからだよ!」


「で、でもあたしは、ちゃんと……」

「付き合ってたね。でも、いまりんはずっと寂しがってたよ? チカと一緒にいる時間は減ったし、寝落ち通話もできないしで……」


「依存しちゃったら、どうせまた別れるって言われちゃうんだもん。そんなんで寂しくないわけないじゃん」


「そ、それは……いまりんがあんなことしなかったら、あたしは……」


「うっわいまりんのせいにした! ねえいまりん~! 今の聞いた!? ひどいよねぇ~! 全部チカのためにやったことなのにさ~!」


 ぽかんとしているいまりんに問いかける。


「なんでここにチカがいるの?」

「質問を質問で返しちゃダメだよ? いまりんがアレの練習頑張ってるってチカに言ったら、なんか怒っちゃってさ!」


「えっ……頑張ったのに……なんで?」

「……っ!」


 はい、いまりんの口から直接いただきました~!

 割れてバキバキになった鏡みたいな顔をするチカ。


 普段は元気いっぱいな子でも、こういう顔できるんだね。

 写真に撮って待ち受けにしよ!


 シャッターを切って、ぺぺぺっと待ち受けに設定する。


「いい写真撮れたよチカ! ありがと♡」

「……ねえ。あたしたちって、友達なんじゃなかったの」


 チカが、ポロポロと割れた破片をこぼしながら聞いてくる。


「うん。友達だよ?」

「じゃあなんで! なんでよ!」


「チカなら優しいから、許してくれるかなって」

「は……?」


「チカってさ、いまりんだけじゃなくて、ねむとか、いろんな人に優しくできるよね。だから、こういうことしてもチカなら許してくれるって、ねむ信じてたんだよ!」


 この人ならこうしてくれるだろうなって思って行動する。

 これ以上の信頼関係ってある? ないよね~!


「ねむたち、友達だもんね! ちょっぴり彼女とえっちしたくらいで、怒ったりしないよね!」


「……もう、いいよ。黙ってて」

「許してくれるんだ! やっぱりチカってやさし~! ありがと!」


 ねむはチカのほっぺにちゅーをした。

 そしたらチカにべしっと払われた。なんでよ。


「……いまりん、自分がなにをしたのか、わかってる?」

「えっ……恋人同士ですることの練習、だけど……」


「いまりんは騙されてる。それは練習なんかじゃない。こいつが……恋人同士でしかしないことを、いまりんとするために言った嘘なんだよ!」


 あーあ、バレちゃった。

 なんも問題ないけど。


「やっぱり、そうだったんだ……」

「えっ……」


 今この子やっぱりって言った?

 まさか……気付いてたの?


「ごめん、チカ。最初はわたしも、本当に知らなかったんだけど……だんだん、なにかがおかしいって気付いてたの。でもやめられなかった。ねむがわたしを寂しさから救ってくれたから……」


「じゃあ……」

「ごめんなさい。わたし、チカを……裏切っちゃった」


 ぷらりと、チカの両手が垂れる。

 なんか落ち込んじゃったみたいだから、励ましてあげよ。


「そういえばチカ、前に言ってたよね。いまりんのこと、放っておけないって。でももうチカがいなくてもだいじょーぶじゃん! よかったね~!」


 ねむがそう言うと、チカはゆらりと静かに立ち上がった。

 よかった! 元気出してくれたみたい!


「さよなら、いまりん」


 チカは一言、ぽつりと呟いたあと。


「……人から奪った幸せなんて、どうせすぐに枯れるから」


 ぎろりと、ねむを睨んでそう言った。


「その幸せを最初に手放したのはチカじゃ~ん!」


 ねむの言葉を無視して、チカは家を出ていった。

 最後に捨て台詞残せる子だったなんて思わなかったなぁ。


 さて、と。

 ねむはいまりんの前に立って見下ろす。


 いまりんはねむの足をそっと掴んだ。


「ねむは、ずっとわたしのそばにいてくれるよね……?」

「そんなわけねえだろ」


「え……?」


 さっきのチカと、どっちのヒビがひどいかな。

 ねむはどっちも芸術的だと思うな。


「だってお前めんどくさいんだもん。毎日寝落ち通話とかだるすぎでしょ。二度とかけてくんな」


「や、やだ! ごめんなさい! もう二度としないから! わたしを、ひとりにしないで……!」


 涙目で縋りついてくるいまりん。

 あーあ心が痛むなぁ。


「お前、誰かといっしょにいられるんならそれでいいんでしょ。じゃあねむじゃなくていいじゃん。ばいばーい」


「待って! 待ってよ!」


 ぎりっと、ねむの腕が捕まれる。

 あーだる。


「言っとくけど、チカんときみたいなことしたらこればら撒くかんね」

「……っ!」


 オナニーしたときの動画をちらつかせて、黙らせる。

 効いてよかった。


「じゃあね」


 そうしてねむはいまりんの家を後にした。

 これで二組目……!


 コツは掴めてきた気がする。

 もっともっと寝取らなきゃ……!



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