やるとすっごく気持ちよくなれて、ずっと一緒にいられるくらい愛が深まること
30メートルくらい離れた電柱の陰から、殺意のこもった視線が向けられている。
これ、逃げてもまた付いてくるよね……。
いずれ家の場所もバレるかもしれない。
そうなったらもう逃げられない。
どうしたらねむが傷付かない方向で恨みを晴らせるんだろう。
話の通じないやつに話をしたところで無意味だし、かといって武力行使に出たら負ける。
いまりんの力が強いってことはチカから聞いてるし、そもそもねむに武力はない。
もしかして詰んだ?
いや……諦めてたまるか。
玲奈を寝取るまで、ねむは倒れるわけにはいかないんだ。
考えろ考えろ考えろ――!
あいつの弱点は何だ?
――自己肯定感が低すぎることと、チカしか目に映ってないこと。
そういえば、最初にあいつを説得したときは、一応素直にねむの話を聞いてはいた。
ねむたちにとってめちゃくちゃ都合の悪い解釈をしてきたけど。
それは自己肯定感の低さから生まれたもの――だから説得が通じないわけじゃない。
となると、どうヘイトを逸らすかだけど……。
あいつが一番求めてるのは、チカとよりを戻すことだろう。
ねむをぶっ殺すことが目的じゃない。
他人を排除するのは、チカと付き合うことの手段にすぎない。
だから、ねむがやることはひとつ。
「……ごめん! いまりん! ねむのせいで喧嘩になっちゃって!」
遠くからでも聞こえるように、思いっきり叫んだ。
近所迷惑になるだろうけど、殺されるかもしれないってときにそんなこと気にしてらんない。
「別にいいよ。だって、喧嘩するほど仲がいいってよく言うでしょ」
いまりんが電柱の陰から出てきて、声を張り上げなくてもいい距離にまで近づいてきた。
別れるって言われたわりには冷静だな。
刺されないよう間合いを取りつつ、爆弾処理班ばりの慎重さで言葉を選ぶ。
「でも……喧嘩の原因になっちゃったのは申し訳ないよ……だからさ――」
「お前の口汚さは知ってるよ。そーゆー取り繕う感じ、気持ち悪いからやめて」
当ったり前だろ!
お前みたいなやべー奴相手にしてんだから!
まあでも、本性はバレてるわけだし。
言葉は選ぶにしても、口調はお望みどおりにしてやるか。
「……じゃあ、いつものねむで行かせてもらうけどさ、あんたは、ねむがチカと一緒にいるのが気に入らないんだよね?」
「気に入らないっていうか……死んでほしいかな」
わあ。
殺意たかーい。
「それってさ、チカがねむのものになるのが嫌なんでしょ? でも、ねむカノジョいるからさ、そんなのありえないんだよね」
「……ふーん。証拠は?」
お?
ちょっと殺気が収まった?
いや油断するな。
こいつ話は通じるけど歪んだ解釈をしてくるからタチが悪いんだ。
「ほら証拠」
ねむは確実にカノジョの証拠となるであろう……撫子のえっちな動画を見せ付けてやった。
びくんびくんと痙攣しながら、喘ぎ声を上げまくる撫子。
いつ見てもひでーな。
でもこんだけ仲良く楽しんでるんだから信じてくれるでしょ。
こんな深いかんけーなかなかないもんね?
ね? 撫子!
「……なにこれ。なんで裸なの?」
「えっ」
思いもよらない発言に、ねむは耳を疑った。
いや……なんでって……。
「そりゃ……恋人と裸ですることって言ったら……アレしかないじゃん」
「アレってなに? はっきり言ってよ」
ちょっと苛立っているいまりんを見て、ねむは確信した。
こいつ……知らねえの!?
さっきまでの緊張が驚きで吹き飛ばされちゃった。
義務教育受けてたらどっかで知るだろフツー!
どんな人生送って……ってそりゃそうか。
こいつ、友達いないんだった……。
親が保護者制限を掛けたまんまにしてたら、ネットでも知りようがないだろう。
「え、えーとね」
どう説明しようか困っていると、いいアイデアが頭に浮かんできた。
……情報もアドバンテージなんだよなぁ。
「……これはちょうラブラブになった恋人同士がやることだよ」
「もっと詳しく言って」
だよね。
そんなの聞いたら、チカとやりたくなっちゃうよね。
「教えてあげてもいいけど、その前にねむと約束してほし~ことがあるんだけどぉ~!」
「……変なこと言ったら……わかってるよね?」
無理やり吐かせようとしてこなくてよかった。
よっぽど気になってるんだろうね。
かわいー。
ここは強気でいこう。
「ねむたちに付きまとうの、やめてほしい。ねむはカノジョいるから関係ないし、チカはいい子なんだからちゃんと信用してあげて」
「お前がチカから離れたらこんなのすぐにやめるよ? わたし、チカのことはちゃんと信じてるから」
ほんとかなー。
ねむはともかく、チカには延々付きまとってそう。
まあ、この際そんなのはどうだっていい。
「おっけ。じゃあねむもチカと関わんないから。約束ね」
「うん。それじゃあ早く教えてよ」
口約束だけど、取引は成立した。
守ってくれるかどうかはさておき、殺しの対象からは逃げられるんじゃないかな。
チカとの友情と引き換えに。
かなしーけど、こればっかりは運が悪かったよね……。
……待てよ。
本当にそうか?
ねむがもっとうまく立ち回れていれば、チカを寝取ることだってできたんじゃないの?
ねむのフィジカルが強かったら、いまりんをねじ伏せることもできたんじゃないの?
NTRなんてもともと悪い状況なんだから、運を言い訳にしたらずっとできっこない。
ねむは、運になんて屈しない。
今あるモノで寝取ってやる!
「……これはね、やるとすっごく気持ちよくなれて、ずっと一緒にいられるくらい愛が深まることなんだけど、下手だったら失敗して入院しちゃうかもしれないの」
「えっ……そうなの!? そんなことしてたんだ……」
ませたクラスメイトがファーストキスをしたって噂を聞いたときみたいな顔をするいまりん。
嘘は言ってない。ちょっと言い方を変えてるだけだしぃ。
「うん。この子見てもらったらわかると思うけど……なんていうか……激しいでしょ。だから、正しい方法を知らないといけないの」
どんどん根拠らしきものを固めて、納得させていく。
あいつのイキっぷりに助けられる日がくるなんてね。
「そっか……でも、これをチカとするのはやめておこうかな……愛は深まるかもしれないけど、危ない目にあってほしくないし」
「あ、それならだいじょーぶだよ。正しい方法を知ってたら、入院することなんてぜったいないから。危なかったらねむたちだってやってないよ。ジェットコースターだって、安全バーとベルトがあるから何回乗っても大丈夫でしょ?」
「ほ、ほんとだ……じゃ、じゃあ! やり方を教えてよ! わたし、チカともっともっと愛を深めたい!」
「いいよ」
「は、はやく教えて!」
目をきらきらと輝かせてねだってくるいまりん。
こーいう顔もできるんだ。
「だけど、言葉で説明するのちょっと難しいからさ……実際にやってみた方が早いんだよね。それに、一日かそこらじゃできるようにならないの。だから……」
「ねむが、練習に付き合ってあげよっか?」
その誘いに、いまりんは。
「いいの!? じゃあお願いしても……いい?」
まんまと、食いついてきた。
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