清楚な撫子ちゃんがエロに負けるわけないもん!

 エロいものを摂取すると、べったりその余韻が残ることってありませんか?

 今の私がまさにその状況で、何をしていても賢者タイムの境地にたどり着いてしまいます。


 あの時以来、ねむさんの声が耳からこびりついて離れません。

 コンテンツ化されたエロでしか興奮できないはずの私はどうしてしまったんでしょう。


 エロに触れすぎたせいで私の理性が崩壊しつつあるのでしょうか?

 だとすれば大問題です。


 それとも、ねむさんがエロすぎてコンテンツを超えてしまったためでしょうか?


 ……結論は出ました。

 ねむさんがエロすぎたせいでしょう。


 私は決して、ねむさんのお体を洗うときによこしまな気持ちがあったわけではありません。


 ましてや、いやらしい手つきで洗うだなんてことは少しも考えていませんでした。

 にもかかわらず、ねむさんは喘ぎました。

 感度3000倍になる薬を盛られた女スパイのように……というのは言い過ぎですが、とにかくあれは素晴らしい天然のエロでした。


 とはいえ、ねむさんに少なからず劣情を抱いてしまったことは由々しき問題と言えるでしょう。


 何らかの修行を積まなければいけませんね。


「撫子?」

「えっ?」


 桃香さんに声を掛けられて、ようやく私は賢者タイムから戻りました。


「もー。またぼーっとしてる~! ちゃんと寝なきゃダメだよ? 夜も勉強してるんだろうけど、たまには休むのも大切なんだからね?」


「は、はい……きょうはきちんと睡眠をとりますね」

「うん。そのほうがいいよ。撫子はいつも頑張りすぎだって」


 好意的な解釈をされてしまい、いささか心が痛みます。

 ですが友達の声に欲情して寝られないだなんてとても言えません。


 まだねむさんの声をおかずにしているわけではありませんが。

 ここを超えてしまったらいよいよ私は終わりでしょう。


 それにしても、なぜ“おかず”なのでしょうか。

 エロがあってはじめてナデナデが成立するのに、なぜエロを“主食”と言わないのでしょうか。


 ああ!

 また煩悩にまみれてしまいました! 


 今は桃香さんとのデート中なのに!

 私は清楚私は清楚……。


 ここはメニュー表といっしょに置かれている間違い探しをして頭を冷やしましょう。


 それにしてもどうしてこのファミレスはこんな難しいものを置いているのでしょうか? 


「肩いたーい……うーん……」


 桃香さんが伸びをすると、たわわに実ったふたつの果実がぷるんと揺れました。

 一瞬にして心を奪われてしまった私に、桃香さんが不安そうに言います。


「だいじょうぶ? 本当に眠かったら今寝てもいいからね?」

「あっ……いえ……大丈夫ですから……」


 ……このままの私ではいけませんね。

 桃香さんにも、ねむさんにも顔向けできません。


 清らかな私にならないと!

 撫子と銭湯に行って、わかったことがある。

 ねむに色仕掛けは向いてない。


 そりゃねむもナデナデはするから知識がないわけじゃないよ?


 でも攻められたらクソザコだし、攻めるにしても快楽堕ちさせるほどの技術がない。


 そりゃそうだ。処女だもん。

 撫子だってぜんぜん感じてなかったし。あいつナデナデしすぎてほとんど感じなくなってるんじゃないの?


 だから、色仕掛けで行くのはやめだ。

 ねむの最大の武器は……この圧倒的かわいさ!


 このかわいさで、撫子をメロメロのぬれぬれにしてやんよ!

 覚悟しときな彼女さん? 撫子の処女はねむがもらうから!


 でもここでかわいさアピールに走るのはブスのやること。

 そんなんしなくてもねむはかわいい! 普段のねむが最強!


 ……なんで最強なのに玲奈には選んでもらえなかったんだろう。

 ねむってもしかしてかわいくない?


 かわいくないねむとかねむじゃないし存在価値なくない?

 え、ただのザコじゃん。


 それとも玲奈の目にゴミが入ってただけ?

 玲奈が優しいから顔で選んでないだけ?


「ど、どうしたんですかねむさん?」


 うずくまるねむに撫子が心配そうに声をかける。

 そういえばねむって客観的にねむの顔見たことないな……。


 ママが毎秒ねむちゃんかわいい〜! ︎︎って言ってくるからわかんなくなってたけど……もしかしたら親バカなだけかもしれない。


 撫子に聞いてみよう。


「ねえ撫子、ねむってかわいい? それともブス?」

「えっ……何かあったんですかねむさん?」


「別にそういうのじゃないから。はっきり言ってよ? お世辞とかいらないし」

「えっと……ねむさんはお世辞を抜きにしても可愛らしいお顔をしていると思いますよ?」


「……ほんとに?」

「ええ」


 撫子がにっこりと笑う。

 嘘はついてなさそうだ。


「よかった~! ねむがかわいくなかったら死なないといけなかったの! ありがとう撫子!」


「なんでそんな話になるんですか!?」

「いやだって、かわいくないのに一人称名前とか超痛々しいじゃん!?」


「それは……そうかもしれませんけど!」

「でしょ!?」


 いやー痛い人になってなくてよかった。

 やっぱり玲奈が恋人を顔で選んでないだけだったんだ!


 ……それもまずくない?

 ねむの一番強いとこが玲奈に通用しないってことじゃん。


「うがーっ!」

「吠えた!?」


「じゃ行こっか」

「急に落ち着かないでくださいよ……」


 撫子が頭のおかしい奴を見る目を向けてくる。

 無理もないけど、撫子も人のこと言えないからね?


 まあいいや。

 今日は色仕掛けとかなしに、撫子と映画を見に行くつもりだ。


 街中に集合したから、ちょっと人が多くてウザい。

 手を繋いでいる人たちもいる。おまえらも寝取ってやろうか? あ?


 目の前を、ジョギングをしている巨乳の女の人が通り過ぎていく。


 撫子の大好物だー!

 ぜったいガン見するでしょ。


 しかし撫子は涼しげな表情で揺れるおっぱいをスルーした。

 あした槍でも降るんじゃないの!?


「撫子、調子悪くない? どっか休めるとこ探そっか?」

「いえ……むしろ絶好調ですよ。今の私は煩悩から解放されていますから」


「へ?」


 何言ってるかよくわかんないけど、いつもの撫子っぽいな。

 おっぱいスルーしたのは不気味だけど。


「私、修行したんです。エロを見ても、海のように穏やかな心でいられるよう……最近の私は少しドスケベなところを隠し切れなくなってきていたので、自分を律しなければならないと思いまして」


「ふーん。じゃあちょっとこっち来てよ」

「はい」


 撫子を物陰に連れ込んでから、ねむはスカートをばっとたくし上げた。

 白いぱんつがあらわになる。


「ちょっとねむさん!? 急に何を!?」 

「うわめっちゃ驚いてるし。煩悩消えてないじゃん」


「煩悩どうこう以前に突然おぱんつ見せつけられたら驚きますよ!」


 じゃあ煩悩消えてるかどうかわかんないじゃん。

 ぱんつ見せて損した。


 だから色仕掛けするつもりなかったのにぃ!


「とにかく、私は煩悩を捨てました。もし、エロに出逢ったとき私が欲情してしまったら、全力で頬を打ってください」


「今の聞いたからね!? 絶対興奮しないでよ!?」

「ええ!」


 そうして撫子の修行の成果を見ることになった。

 映画見に来ただけなのに、なんでこうなったんだろう。


 さっきジョギングしてた女の人が、今度は息を切らしながら走ってきた。

 撫子はまたスルーしてみせる。


「ふふっ。どうですかねむさん。これが新しい私です!」

「すごいじゃん!」


 これならねむの出番ないかも!

 なんて思っていると、エロ本が地面に落ちていた。


 IT化が進んだ今の時代に!?

 これは撫子の大好物、エロコンテンツだけど大丈夫か!?


 しかし撫子はそれを拾うことなく、ちらりと表紙を見そうになりながらもスルーした。


 これは……セーフ!


「ふっ……」

「頑張って! 調子いいよ~!」


 そうして撫子は映画館までの道のりを耐えきった。

 本当に煩悩が消えてる……!?


 きょうの撫子はひと味……いやもう別人って言った方がよさそうだ。

 撫子は生まれ変わったんだ!


 映画のチケットとポップコーンを買って、席に座る。

 この暗さと椅子のふかふかさが特等席って感じがしていいよね。


 しばらく面白そうな映画の広告を眺めていると、上映が始まった。


 映画の広告ってどうして全部面白そうなんだろう。

 広告作ってる人が映画作ればいいのに。


 上映が始まった。

 なんか超能力を持って調子乗ったメスガキをおっぱいのでけーOLが阻止しようとするっていう話みたいだ。


 あ、メスガキの撃ったビームをOLのおっぱいがはね返した。

 くっだらねえ! なんだこのクソ映画!


 なんで牛乳飲んだだけでおっぱいが戦車より強くなるんだよ!

 母乳で決着とかナメてんのか!?


 そんでOLがメスガキの服を脱がせてわからせはじめた。

 あー、こういう作品だったかー。


 AVかな?

 完全に見る映画間違えちゃった……でも撫子の試練としてはいいのかもしれない。


 心配になって撫子を見ると、両手で目を塞いでいた。

 と見せかけて塞いでいる指がわずかに開きかけている。


 まずい! このままじゃ撫子も堕ちちゃう!


「撫子! 誘惑に負けちゃダメだよ!」

「はっ!」


 ねむがひそひそ声で撫子を応援すると、撫子は我に返ってかたく指を閉じた。

 よかった……! きれいな撫子に踏みとどまった……!


 それからメスガキがどれだけ堕とされようと、撫子は映画が終わるまで完全に堕ちなかった。

 完全なエロコンテンツ相手にこの根性……これは完全に煩悩が消えてるって言ってもいいよね!


「頑張ったね、撫子!」

「ええ!」


 晴れ舞台を乗り切った後のように撫子の大健闘を褒めてあげた。

 ていうか途中から内容入ってこなかったし。どうでもいいけど。


「なんと言えばいいのでしょう……と、とっても独特な作品でしたね……」

「クソくだらなかったね」


「率直すぎませんか!? あの映画を作った方々に失礼ですよ!」

「別にいいでしょあんなの……」


 感想を語るノリになるはずだったのに、どうしてくれんだ。

 金と時間返せ!


 あ、でも芸人の声優はめちゃくちゃ上手かったなぁ。

 本人だって気付かなかった。そこだけは評価できるかも。


 時間を無駄にした後悔に苛まれながら帰っていると、今度は露出狂のお姉さんが現れた。


 なんでこんな真っ昼間に!?


 ばるんと、ご立派なものを見せつけてくる。

 撫子はエロを引き寄せるフェロモンでも出してんのか!?


 さっきのクソ映画よりもやばい展開だけど、撫子は――。


「お゛ほ゛っ゛……!」


 鼻血を噴き出してぶっ倒れていた。


 ビンタするまでもなかったね。

 ていうか、興奮の仕方古典的すぎでしょ。


 まる出しのお姉さんが、あたふたと撫子の側に駆け寄る。


「だ、大丈夫ですか!? きゅ、救急車とか……」

「あんたのせいだろーが!」


 ねむはお姉さんを蹴り飛ばした。


「あんっ!」

「喘いでんじゃねぇよブス! とっとと警察と救急車呼んできて!」


「は、はいっ!」


 それにしても……やっぱり撫子は撫子だったな。

 滝のように流れる鼻血を見て、ねむはちょっぴりほっとした。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る