出会って2回目で温泉とか頭おかしいって? おかしいに決まってんじゃん。

「あら、お待たせしちゃいましたね」

「撫子こそ、ちゃんと10分前じゃん。えらいえらい」


 待ち合わせ場所の公園で鳩を追いかけ回して遊んでいると、撫子がやってきた。

 ブラウスに長めのスカート。清楚ぶってんな。


 あれから何回か電話で猥談して、だいぶ仲良くなれたと思う。

 とりあえず下ネタっていう共通の話題があるから一周回って話しやすかった。


 共通の話題がなくても会話を盛り上げられるスキルが欲しい。

 今後のNTRのためにも身に着けとかないとね。


「きょうはどこに行くんですか?」

「それは着いてからのお楽しみだよ」


「気になるじゃないですか~。教えてくださいよ~!」

「んー、撫子が好きそうな場所かな」


「ま、まさか河原ですか!?」

「え? なんで河原?」


「河原ってエロ本が落ちてるじゃないですか!」

「今時落ちてないだろ!」


 いつの話だよ!

 昔はあったって掲示板とかに書いてあったけど!


「私が生まれてはじめてエロと出会ったのは、河原なんですよ!?」

「……え?」


「大切に育てられてきた私が、禁忌とされているエロに触れる機会はありませんでした。しかし、お花見にと河原に行ったとき……幼い私は出会ってしまったんです」


 一冊の、エロ本に。

 運命の人と出会ったみたいなノリだけど、相手はうっすいエロ本だからな?


「すぐに使用人は私の目を塞ぎ、そのエロ本を燃やしました。しかし、一瞬とはいえそのエロ本の表紙が私の目に焼き付いて離れなくなってしまったのです。そうして私は、エロの道を進むことを決意したのです」


「ふーん」

「もう少し興味を持ってくださいよ」


「いやほんとにどうでもいいからさ……」

「そんな、ひどい……!」


 アホな会話をしながらも、ねむたちは目的地――銭湯にたどり着いた。


「ここは……」

「ね? 撫子が好きそうでしょ?」


「確かに……リラックスできていいかもしれません!」


「いや女の人のハダカ見られるから喜ぶかなって」


「私のことを何だと思ってるんですか!? 私はエロとして供給されたコンテンツにしか興奮しません! どこでも発情すると思ったら大間違いですよ!」


「そっか……」


 あちゃー。

 場所選びミスっちゃったかも。


 ……なーんちゃって。

 他の人のハダカに興味がないんなら、むしろその方がいい。


 なんせこれからねむは、撫子に色仕掛けしようとしてるんだから!

 ねむ自ら、エロとして供給してやる!


「あと……お風呂に行くのはいいと思いますが……お着換えなどを持ってきていなくて……」


「替えの下着とタオルはねむが持ってきてるよ。ちゃんと新品の持ってきてるからね」


「どれだけお風呂に入りたかったんですか……!?」

「ねむお風呂大好きだから。ほら行くよ」


「え、ええ……」


 頭おかしいなってねむも思うけど、おかしくなきゃNTRなんてやらねーよ!

 こちとら玲奈を取られたあの日にぜんぶのネジ吹き飛んでんだ!


 割と圧をかけながらも、撫子を銭湯に誘い込むことに成功したねむは券を買ってのれんをくぐった。


「こうやって入るんですね……!」

「ねむ、撫子がお嬢様ってこと完全に忘れてたよ」


「無理もないと思いますよ。はしたないところしかお見せしていませんから……」


「はしたない撫子がいちばんえっちだよ?」

「お褒めに預かり光栄です」


 脱衣所にはおばさんしかいなかった。

 どっちにしろ撫子には刺さらな……いやもしかしたらこいつ熟女もいけるのかもしれない。どうでもいいけど。


 なんとなくキリのいい数字のロッカーを選んで、荷物を入れる。

 勝負はもう始まってるのさ!


 服を脱いで、下着だけになって撫子に言う。


「ねーねー、このブラかわいくない?」

「ええっ!?」


 撫子の視線がねむの黒レースのブラに釘付けになる。


「かなり透けてませんか!? は、はしたないですよ!?」

「えー、かわいーからいいじゃん」


「確かにエロ可愛いですけど……!」


 生唾を飲む撫子。

 ……なんか思ってた反応と違う。


 撫子のことだからもっとよだれ垂らしてガン見するかと思ったのに。

 興奮よりもねむがこの下着を付けてるっていう驚きの方が勝っちゃってるな……。


 まあいいや。

 恥ずかしいしさっさと脱ご。


 ブラのホックを外しながらちらっと撫子の方を見ると、白だった。

 清楚ぶってんな。


「行こ~!」

「は、はい……」


 衝撃の余韻が残っている撫子と浴場に入る。

 タイルが敷き詰められた空間に、かぽーんと音が響いている。


 銭湯に来るのもひさしぶりだ。小学生のときにママと行ったっきりかな?

 風呂桶と椅子を取って座り、ねむは甘い声で撫子にささやいた。


「ねえ撫子、背中流してあげよっか?」


 ここでもねむは仕掛けちゃうよ~!

 リラックスなんてさせない。ずっとドキドキさせたげる!


 さすがにお願いはされないだろうけど、これで相当ドキドキさせられるはず! 


「ではシャンプーが終わった後にお願いしますね」

「へ?」


 撫子は淡々とそう言ってのけた。

 あれ……? おかしいな……?


 がっつりスケベ自覚して生きてくとか言ってたよねコイツ。

 なんでこんなフツーの女友達みたいなノリになってるの?


 撫子が意外とまともなのか、それとも。

 過激なのを見過ぎてこれくらいじゃ興奮しないとか?


 なんでだよ!

 大人しく鼻の下伸ばしてキョドれよ! ドスケベなのがお前の長所だろうが!


 撫子が頭の泡を流したタイミングで、垢すりにボディソープをつける。


「じゃあ背中向けて」

「ええ」


 ごしごしときめ細かい肌をこすっていく。

 さぞやいいもん食ってきたんだろうなぁ箱入りが……。


 ねむも肌のキレイさは負けてないけどさ!

 なんかムカついたので前もやってやろう。


 まな板はちゃんとお手入れしないとなぁ!


「こんなもんかな。じゃ、前向いて~」

「ええ」


「え?」


 撫子は一ミリも気にすることなくこっちを向いた。

 こいつ……羞恥心とかないの!?


 友達同士でも前はちょっとためらうだろ!

 ねむがおかしいのか!?


 でもここで引いたら負けだ。

 むしろ胸をいじくるチャンスだと考えよう。


 撫でるような手つきで撫子のおっぱいをこする。

 ほぼ絶壁だけど、それでも恥ずかしい。


 撫子はいたって平然と胸を貸してくる。

 彼女さんに怒られるぞテメー。ねむには都合いいけどさ。


「ありがとうございます。整いました」

「うさんくさい占い師みたいなこと言うね」


「さあ、次はねむさんの番ですよ。お背中をこちらに」

「へ……?」


 ちょっと待ってねむ聞いてない!

 まさかやり返されるとは思わないじゃん!?


 い、いや慌てたら怪しまれちゃう!

 大人しく撫子のこすこすを受け入れるしかない。


 撫子の垢すりがしゃかしゃかとねむの背中を這い回る。


「ひうっ……!」


 くすぐったくて、つい声が出てしまう。

 撫子がぴたりと動きを止めて聞いてくる。


「大丈夫ですか……? もう少し優しくこすりましょうか?」

「いや、大丈夫……くすぐったかっただけだから……」


 実は肌が敏感でさ……とか言いたくなくて慌てて取り繕う。

 我慢しなきゃ……微妙な空気になっちゃう! 


 はじめて北海道に来た人みたく体に力を入れていると、垢すりが背中から離れた。

 よし、微妙な空気は回避できたぞ。


「ありがと撫子。あとは――」

「前ですね。こちらを向いてください」


「……うん」


 回避できてなかった!

 ていうか……めっちゃおっぱい見られるんですけど!


「綺麗な形してますね。羨ましいです」

「セクハラで訴えるよ?」


「ふふっ、私たちの仲じゃないですか」

「親しき中にも礼儀がなんとかって言うでしょ」


 つっこむのに必死で、つい体の力が緩んでしまう。

 そこに撫子の垢すりがぬるりとこすれる。


「んうっ……!」

「えっ……」


「だ、大丈夫だから!」

「え、ええ……」


 今のは油断しただけ! 

 これくらいで変な声出したりしないもん! 


 って思ってたのに……撫子の手つきがなんかやらしいせいでちょっぴり声が出ちゃう……!


「っ……! くぅ……んっ……!」

「…………」


 撫子の垢すりが、ねむの突起に触れる。


「ひゃぁっ!」


 弱いところを攻められて、思わず椅子から飛びのいてしまう。

 撫子が我に返ったような顔をして立ち上がる。


「すみません……くすぐったかったですよね……?」

「……撫子のバーカ!」


 なんとなく、撫子にシャワーをぶっかける。


「きゃっ!? ねむさん!? どこに行くんですか!?」

「先入るの!」


 こっちがよがらせてやるつもりだったのに……!

 つまんないの!


 ぽかんとする撫子を置いて、ねむは露天風呂に向かう。

 あ、泡流すの忘れてたし。もーやだ。


 ねむは近くのシャワーで泡を流してから、露天風呂に入った。

 じんわりとお湯の熱が体に沁みる。


 こういうところの周りに植わってる木ってのぼせないのかな。

 ずっと湯気浴びてんのに。


 しばらくして、撫子がねむからちょっと離れたところに腰を下ろす。

 耳を赤くしたまま、申し訳なさそうにうつむいている。


 撫子が変態じゃなかったらこんな気まずいことにはならなかったのに。

 ねむのはじめての色仕掛けは、撫子のせいで失敗に終わってしまった。









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