人妻みーっけ!

 NTR練するのはいいけどまずはターゲットを見つけないとね!

 というわけでねむは漫画買いに行くついでにぶらぶらすることにした。


 なんか簡単に釣れそうなブスいないかなー。

 ねむの住んでいるところはそこまで都会でもないから、あんまり人はいない。


 昼の14時とかいう微妙な時間帯に出てきちゃったせいかもしれない。

 ねむが出てきたんだから湧いてこいよブス共!


 いや、よくよく考えたらブス寝取ってもじゃん。

 ねむにも選ぶ権利はあるんですけど?


 いい感じの獲物が見つけられずにいると、もう本屋に着いちゃった。


 マップリとかやった方がいいのかなー? 彼女持ちの女はその辺に落ちてるもんでもないかー。


 あ、いちいち彼女持ちの女っていうのめんどくさいしこれからは人妻って呼ぼっと。


 本屋に入って、ねむが追っている漫画の新刊を見つける。

 これだけは漫画で持っておきたいんだよねぇ。


 ちょうど話もNTR系だし。

 参考になるかも。


 ほくほくとレジに向かう途中、挙動不審な女の子がいた。


 さらさらのロングヘアーを揺らしながら、あたりをきょろきょろと見回している。


 確かうちの学校の、睦撫子さんだっけ。

 クラスは違うけど、すごく優秀で生徒会とかにも入ってる子だ。


 抹茶でも混ぜてそうな……大和撫子って感じ。

 名は体を表すだっけ?


 その辺のブスとは格が違う。

 もしかしたら、人妻かもしれない。


 なんか怪しいし、話しかけてみるか。


「ねえねえ! 何してるの?」

「きゃっ!?」


 睦さんが、手に取っていた本を落とす。

 落とした本は――なんとグラビアだった。


 がっつり巨乳な女の人のきわどい水着が載っている。

 まともな本もあるけど、まさか中学生みたいに表紙隠して買おうとしてた?


 だから挙動不審だったのか。

 ねむはそれを拾って睦さんに差し出す。スマイル付きで。


「あ……ああ……」


「へぇ……睦さん、こういうの買うんだぁ……」

「こ、これは違うんです! その……!」


 睦さんは顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる。

 まあ……自分を知ってる人にむっつりスケベなのがバレちゃったんだもんね。


 そりゃ慌てるか。


「いやいや、別にいいんだよ~? エロ本なんてみーんな買ってるしぃ~。でも、優等生の睦さんが買ってるのは意外だったなぁ」


「で、ですから違うんです……!」

「でも睦さんが落としたよね? ねむ、ちゃんと見てたよ?」


「……だ、誰にも言わないでください! なんでもしますから……」

「え!? なんでもしてくれるの!?」


 エロ本みたいな展開になってきたーっ!

 擦られすぎて出がらしみたいな展開だけど大丈夫!?


「睦さんって彼女いる?」

「え? いますけど……」


 ビンゴ!

 人妻みーっけ!


「じゃあ、ねむのお願い聞いてほし~なぁ~?」

「はい……」


 さぁ……狩りの時間だぁ!

「で、お願いというのは……これだけではないのでしょう?」

「え?」


 ねむたちは喫茶“メシベ”に来ていた。

 “シロネトール”とかいうでかいスイーツで有名な店だ。


 のんびりとした雰囲気で、ねむ的には気に入っている。


 ねむは睦さんに「いっしょにメシベ行こ?」ってお願いしたけど、それだけじゃ済まされないとでも思ってるのか、睦さんは不安そうにねむの顔色を伺っている。


「じゃあ睦さんのこと、撫子って呼んでいい~?」

「え、ええ。他には……」


「だいじょーぶだって。撫子にえっちな命令したりしないからさ~。それとも……期待してた?」


「そっ、そんなわけないでしょう! 何をお願いされるのか、怖かっただけです……」


 撫子は安心したのか、ほっと息を吐いた。

 もちろん、弱みを握れている以上色々えっちなこともできたかもしれない。


 でもそんなのは本物のNTRじゃない。ただの脅迫だ。

 手段を選ぶつもりはないけど、最後には相手の身も心もぜーんぶ落として寝取りたい!


 玲奈には、ねむのことを本当の意味で好きになってほしいから。


「そもそも、エロ本買うくらい誰でもするって言ったじゃん。大したことじゃないって」


「そう、なんでしょうか……」

「なんでそんなに隠そうとするの? バレたって別にいいじゃん」


「いや隠そうとはしてくださいよ……エロは決してひけらかすものではありませんからね?」


「でもバレたからってえっちな目にあうのを覚悟するほどじゃないと思うけど?」

「……私は求められていますから。睦家の娘としての自覚を」


「ふーん。めんどくさいんだね」


 お嬢様だってのは聞いてたけど、エロ本もこそこそ買わないといけないレベルなのか。


 いや、えっちなものはこそこそ買うべきなのかな?

 ねむはそういうのふつーに買ってるからわかんないや。


「ま、そういうのはなしにしてさ! 今は女子会しよーよ! ここで会ったのもなんかのアレだよ!」


「そ、そうですね! 名取なとりさんがお優しい方でよかったです!」

「ねむでいいよ。ねむも呼び捨てしてるしぃ~」


「はい。ではねむさんとお呼ばせていただきますね。ねむさん、ご趣味は……」

「撫子って週に何回オナニーすんの?」


「ねむさん!?」

「え? えっちなの大好きなんじゃないの?」


 なんか今お見合いみたいな話題の振り方されそうじゃなかった?

 なんだこいつ。


「そうですけど! ここは公共の場ですよ!? もうちょっとオブラートに包みましょうよ!」


 撫子はまた顔を真っ赤にする。

 今否定しなかったな……えらいえらい。


「じゃあなんて言えばいいのさ? 擦る?」


「それも微妙に隠しきれてませんね……あ、撫でる、というのはどうでしょう? 優しい単語にすれば、いかがわしさがかなり減ると思うのですが……」


「撫子はそれでいいわけ? 自分で自分の風評被害する人はじめて見たんだけど」


「はい。むしろ誇らしいです」

「あっそ……エロを隠すくせにそういうのはいいんだ……」


「ええ。エロは隠すべきものですが、恥ずべきものではありませんから」


 さっきから感じてるけど、撫子ちょっと思想強いなぁ。

 お嬢様に生まれるとそうなる運命なのかな?


「で、撫子は週何回ナデナデするの?」

「えーと……先週は20回くらいでしょうか」


「二桁ぁ!?」


 ねむ、ついつい声が出ちゃった。

 1日3回ぐらいやってるってこと!? どんだけナデナデしてんだ!


「そんだけやって、よくアワビ壊れないね……」

「あっ、ちゃんとオブラートに包めましたね。さすがです」


「今そんなのどうでもいいって! 撫子のナデ数のがやばいって!」

「え? これが普通なのでは?」


「まじか……」

「ちなみにねむさんは何回なんですか……?」


「え、週3だけど……これでも多い方って言われるよ?」

「じゃあ私って……」


「超ド級のスケベだね。ナデ欲おかしいよ?」


 顔を手で覆う撫子。

 本当に異常な人って自分のことを異常だと思ってないんだね……。


「私は……ナデ欲異常者だった……!?」

「いやーやっぱり真の清楚ちゃんなんていないだね。撫子ったらとんだドスケベなんだから」


「ええ……これからは私、がっつりスケベであることを自覚して生きていきます……!」


 撫子は謎の決意表明をした。

 なんでちょっと誇らしそうなんだろう。


 ていうかスケベはオブラートに包まなくてもいいんだ。

 基準がよくわかんないや。


「もっとも、私の周りにいる方はこんな私を受け入れてはくれないでしょう。これからも、隠し続けるしかないですね……」


「彼女さんもそんな感じなの?」

「ええ。スケベなところは見せていませんから」


「そっか」


 まあ、そうなるよねぇ。

 普段の清楚なとこ見て好きになったんだろうし。


 ここから付け入ろう。


「ねむはべつに下ネタとか平気だし、どんどん話しちゃっていいからね!」

「……ありがとうございます! では、ねむさんはどの部位が好きですか?」


「お肉みたいに言うねぇ。ふとももかな」

「いい性癖をお持ちで……! タイツに引き締められてむっちむちになったお肉とか最高ですよね!?」


 撫子はぐっと親指を立ててはしゃぐ。


 玲奈がときどきひざまくらをしてくれるから、それで好きになっちゃった。

 そこはねむだけの特等席で、ねむだけが味わえる幸せのはずだった。


 きっと今ごろ彼女にやってあげてるんだろうな。


「うがーっ!」

「ど、どうしたんですか急に!?」


「……なんでもないよ」

「え……でも……」


「なんでもないから。撫子はどこが好きなの?」


 おどおどしている撫子を黙らせるために、話題を戻す。

 よくないなぁ……こういうの。


 はやく寝取ればいいだけはやく寝取ればいいだけはやく寝取ればいいだけ! 必死に自分に言い聞かせて、心を落ち着かせる。


「私は……どの部位も好きなんですが……やっぱりおっぱいが大好きです! 王道中の王道、エロの象徴たる部位、全人類が愛してやまないおっぱいが私は大好きです!」


「包めよ! オブラートに!」

「おっぱいを隠すなんて失礼です! あんなに存在を主張しているのに!」


 無罪の証拠を見つけた弁護士のような気迫で叫ぶ撫子。


「それなのにあろうことか人類はおっぱいを、エロを恥ずかしいものだと隠してしまいました。人類はとてつもない過ちを犯してしまったのです! なんと嘆かわしいことか……!」


「撫子、なに言ってんの?」


 ねむの言葉にはっと我に返る撫子。


「失礼。取り乱してしまいました……」

「それでごまかせるとでも思ってんのか?」


 今までよくボロを出さなかったな?

 ほんっとに。


 さすがに聞こえたのか、店内中から生暖かい視線がねむたちに刺さる。


「……出よっか」

「本当にすみません……」


 ねむたちはそそくさとお会計を済ませて店を出た。


「撫子っておもしろいね」

「……慰めなくていいですよ。ねむさんもすこし引いたでしょう?」


「うん」


 ねむは即頷いた。

 すこしどころじゃなく引いてるけど。


「でも、それだけ今まで溜め込んでたってことでしょ? さっきみたいなのは困るけど、ねむ相手にならいくらでも発散していいからさ。また遊ぼうよ! ねむ、ほんとの撫子と話すの楽しかったよ?」


「……ありがとうございます。ねむさんは本当にお優しいんですね」


 そしてスマホを取り出し、MAINを交換する。


「……さっきの発散してって言い方は、ちょっといかがわしいですけど」

「どうせ撫子の脳みそはなに聞いてもエロ変換するんでしょ」


「それは……否定できない私が憎いです……」


 悪い奴に捕まった女騎士みたいな顔をする撫子。

 駄目だ……思考が撫子に持っていかれる……。


 ヤベー女釣っちゃったなあ。

 でも……このくらいじゃないとね!


「じゃ、またね」

「ええ。ではまた……」


 そうしてねむは撫子と別れた。

 次があることを確信して。


 ――ぜんぶ上手くいった!

 さっすがねむ! ねむが本気出せばこんなもんよぉ!











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る