第47話 18話(完)
あのベラルティア城内で起こった出来事から3日が経った。
その間、俺たちはベルクラウスの魔の手から生き残っていた数少ない騎士の生き残りから事情聴取を受けた。
そこで俺たちは一連の出来事やベラルティア王国の内情等について正直に話した。
幸い、数少ない生き残りだった騎士団長の一人が俺たちの理解を示してくれたことで当初疑われていた自分たちがテロリストだったという疑惑は解消された。
この国の王であったバティス王は死に、令嬢だったホムラは実はすでに死んでいて偽物として忍び込んでいた吸血族、そして一連の事件の黒幕がナンバー2だったベルクラウス。
未だにはっきりしない謎も多いが、とりあえずこの話を信じてくれたことにホッとしている。
戦いが終わってから、俺たちは体力を回復させつつ、束の間のベラルティア王国内を堪能していた。
正直、あんな爆発事件などがあった後だったこともあって、国全体が賑やかに盛り上がっているわけもなかったのだが、それでも一時の休息を取るには充分であった。
そして一連の事件から1週間後。
俺たちは早くも次の国へと旅立つ準備をしていた。
既にベラルティア王国内の復興は始まっており、ベラルティア城の再建も含め建物自体の再建はそこまで時間はかからないそうだ。
ただ、ベルクラウスの暴走によって王族関係者のほとんどが殺され、騎士団もかなりの損害を受けた影響で国の運営を今後どうしていくかというあまりにもでかすぎる問題が残っている。
「あの出来事からもう1週間も経ったなんて正直実感が湧かねえな」
再建中のベラルティア城を見上げながら、感慨深い表情で語るリデル。
自分の両親を殺した真の黒幕、ベルクラウスが死に自分の中で燃え続けていた復讐心の炎は今や完全に鎮火しているようだ。
ベルクラウスに対する復讐の刃を直前で止めたのも、何か吹っ切れたものがあったのかもしれない。
「リデルは今後どうするつもりなんだ?」
俺は一緒に旅にしないかという誘いの意味も含めて、リデルに聞いてみる。
リデルはしばらく考え込むような姿勢を取り、ようやく口を開いたかと思えばとんでもないことを言い始める。
「俺はこの国に残るよ。残ってこの国の復興と発展、そして助けを求めている人たちのために全力を尽くす。具体的にどうするかまでは決めてないけどな。だから、一緒に旅することは出来ない。悪いな」
気さくに笑っているように見えるリデルの笑顔も最後の悪いという言葉がさみしさをまとわせていることに俺は気づく。
本音を言えば、出会って間もなかったとはいえ一緒にベルクラウスを倒してくれて、しかも戦い後の休息ではベラルティア王国内のシスターが知らないところまで楽しませようとたくさん案内してくれたリデルとここでお別れなのは非常に寂しい気持ちはある。
しかし、あれだけ王族関係者に対する復讐心のためだけに生きてきたと言ってもいいリデルが、まさか国に残って発展のために自ら動くことを宣言した。
俺自身、国を動かしたこともない上にそれがとてつもなく大変なのは自分以上にリデルがわかっているはず。
ここまでの宣言を見せつけられてもなお、俺は旅の仲間に誘うほど自分勝手で図々しいことをするつもりはない。
むしろ、ここまではっきりと国に残って自分の育った国を良くしたいと言われたら、快くその気持ちを尊重し、応援してあげたいという気持ちが益々強くなった。
「俺たちのことは気にしなくても大丈夫。むしろ、やりたい気持ちを抑えて俺たちの旅についていくよりもここに残って育ててくれたこの国を変えるために動くって気持ちはすごくいいことだと思うぞ」
俺はリデルの目を合わせ、隠し事なくはっきりと伝わるように笑顔で話す。
その笑顔に触発されたのか、若干のぎこちなさはありつつも、初めて出会ってからほとんど見せたことのなかった笑顔を見せながら、照れ気味の様子で返事をする。
「ありがとう。正直、ローデンにはこの先一生忘れる事のない恩をくれた。ベルクラウスを倒すときはもちろん、あの化け物クラスの吸血族の女相手にも自分の主張を崩さない姿勢に俺は尊敬したぜ。そして、その時に言っていた言葉を聞いて俺は決心がついた。このまま旅に同行することももちろん考えたが、それよりもここに残ってこれ以上俺の両親のように一部の権力者によって理不尽に命を奪われることのない本当の意味での平和な国に再建しようってな。当然、そのために立ちふさがる困難が俺のゴールに行く手を阻んでくるだろう。でも、ローデンのあの言葉と行動を思い出せば、俺が挫けそうになっても震え上がらせてくれる気がするんだ。だから、本当にありがとう」
ちょっと失礼な言い方になってしまうのだが、リデルがここまで誠実で優しい一面があるとは知らなかった。
それでも、リデルのこの頼もしさがあればきっとこの国の再建にも貢献してくれるだろうという安心感がある。
「リデル、俺たちはここでお別れじゃない。それぞれの目的のためにいったん離れるだけだ。いつか、リデルがこの国を再建して国民から愛されるくらいの偉人になってくれることを俺は祈っているよ」
「こちらこそ、お互いに途中で死んじまうのはなしな。ご武運を!」
お互いに右拳で軽くグータッチを交わし、リデルは俺たちから去って行く。
最後に見たリデルの頼もしい表情を見れば、この先俺たちが旅をしながら杞憂をする必要もないことがわかる。
リデルとの別れを済ませると、両手を後頭部に回して静かに見ていたサラディアに近づき、リデルと同じ質問を問いかける。
「サラディアはどうするんだ? もしもサラディアが良いのであれば、俺と一緒に旅のお供をしないか?」
俺の誘いに対し、サラディアは数秒程こそ考え込む顔を見せたもののすぐに表情を戻し、俺に視線を合わせた状態で答えた。
「う~ん。私の所属していたテロ組織もインフェルティエって吸血族のおかげで壊滅しちゃったし、この国で過ごしていく伝手もないし旅の仲間としてお供させてもらおうかな」
最後の言葉を言いきった後の表情が、頬を染めて恥ずかしそうな顔をしている。
割とサバサバとしていてクール寄りの雰囲気だとは思っていたが、まさかこんなにも純粋な女の子らしい可愛い部分も覗かせるとは。
元がテロ組織の人間だったとはいえ、サラディアは俺の目にはヴァンロード聖教会を襲撃した人の心を持ち合わせていないテロリストと比べるとそこまでの非道なことをするようには見えない。
もちろん、人は見かけによらずと言うし、何より真夜中を狙って俺たちを殺しに来たというのは紛れもない事実。
それでも、シスターの目が光らせている間はそんな真似はできないという安心感と同じように命を狙いに来るのであればその時は全力で俺もやり返すつもりだ。
ともかく、最初の国で俺とシスターと一緒に旅をする仲間が新しく増えたことを祝福したい。
「もちろん、俺は歓迎しますよ。一緒に旅の仲間としてそれぞれの目的のためによろしくお願いします。サラディア」
「こちらこそ、これから色々とよろしくね。あのシスターとベルクラウス戦で見せたあなたの力には個人的に興味が湧いたし、良かったらシスターと一緒に知らない事教えてくれる?」
「それはシスター次第ですね。俺は別に構いませんけど」
お互いに納得の笑顔を受かべながら、右手で握手を交わす。
さっきの照れ顔といい、今の笑顔といい本当にテロ組織という物騒な組織に所属していた人間とは思えない華奢な女の子の一面を持っている。
まだサラディアのことを全て知ったわけではないけど、とりあえずサラディアがテロ組織出身という偏見は捨ててしまってもいいかもしれない。
「新しい仲間はサラディアですか。よろしくお願いしますね。旅の内容はあの戦いの後に聞いたかもしれませんが、目的に違いはあれど、大前提としてインフェルティエたちのような吸血族との接敵は避けられません。その覚悟はおありですか?」
シスターの優しい声から発せられる事前警告に対し、サラディアは特に怖がる様子もなくむしろ自信ありげな様子で言葉を返す。
「もちろん。むしろ、私はもう自由になった身で新しい目的を見つけるにはいい機会だからね。何より、その吸血族とやらについても色々と聞きたい事や知りたいことがあるんでね」
自分が直接戦って負けたのにも関わらず、強気にシスターに言っていく姿勢はむしろ見習いたくもある。
「そうですか。ローデンが仲間に引き入れた以上は私も協力はするつもりですよ」
サラディアの言葉に対して、優しい笑顔で返せるほどの余裕の態度。
特に小さい頃からのライバル関係というわけでもないのだが、シスターとサラディアの間のバチバチの火柱が飛び散っている。
「それじゃあ、そろそろ次の旅を始めますか」
探検を始める前の子どもになった声色で宣言する。
俺とサラディアはやりたいことや新しい目的を探すため、シスターは吸血族をこの世界から抹殺するため。目的は違えど、これから一緒に様々な旅をしていく上で大切な仲間となっていくことになる。
シスターも言っていたが、吸血族との接敵はまず避けられない以上、俺たちもちゃんと強くなりながら生きていく必要がある。そして、その過程で今まで俺たちが知るはずもなかった驚愕の真実も待ち構えていることだろう。
シスター、いやシスターヴァンティアと共に始まった旅はこうして新たな仲間を迎え入れ、新しい物語の続きを描いていくのである。
これは、その物語のほんの序章に一部に過ぎない。
孤児の少年、与えられた異能でシスターと共に旅に出る 雨結 廻 @Amayui_meguru
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