第41話 16話(2)

「お前の話を聞いて前々から不自然に思っていた事にも納得がいったよ。ここ5年ほどで殺された人の死体がお墓に埋葬されなかったのはお前が死体を燃やして灰ごと消し飛ばしていたからか」

「そういうこと。あなたの両親が死んだのは6年前で私が死体に直接介入する前だから良かったね。もしベルクラウスがあなたの両親を殺すのが1年後ろにずれていれば私も事件に関与していた共犯になっていたね」

インフェルティエが人の死を馬鹿にするような笑い方に対し、リデルは我慢していた感情を抑えきれずに声荒げた。

「おい! てめぇ、人をあんなに殺しておいてよくそんな……」

感情的になり、思わずインフェルティエに近寄ろうとしたのをシスターが左手で制止させる。

「リデル、気持ちはわかりますが今は冷静になってください。インフェルティエは私が確実に息の根を仕留めます」

いつも通りの静かで優しい口ぶりでありながらも、そこからはっきりと頼もしさと未だに拭いきれない底知れぬ恐怖が言葉越しに伝わってくる。

リデルもその思いを瞬時に掴み取ったのかそれ以上踏み込むことはなく、無言で素直に引き下がった。

「それじゃあ、そろそろ始めましょうか。私はいつでもいいですよ」

シスターの余裕はもはや、自分が戦いにおいて負ける事はないという確証があると錯覚してしまうほどの絶対的風格すら感じ取れる。

それに対し、インフェルティエの方も怯えたりする様子はない。むしろ、ようやく本命と戦えるという状況に気持ちが恐ろしいくらい高揚しているようにすら感じる。

「いつの時代もあんたのその余裕っぷりは変わらないねぇ。でも、それも今日でまとめて散りにしてやるよ! 純血のシスタルシア!」

インフェルティエは自身の気持ちを限界にまで高めると、何の迷いもなく自分の血で錬成した炎の剣を右手に持ち、瞬間移動レベルの速さで襲い掛かってくる。

とても俺たちでは対応するどころかまともに動きを視認することすらできないインフェルティエの速さに対してまるで等速で視認できている様子でシスターは同じように自分の血で綺麗な白色の剣を錬成し、インフェルティエの連続攻撃を難なくさばいていた。

しかも、インフェルティエの炎の剣には振りかざされるたびに強烈な爆発をまとった風圧が飛んでくる中、ご丁寧に俺たちを巻き込まないためにそれぞれバリアを張ってくれている。

おかげでインフェルティエの猛攻を受けても、爆風によって被害を受けずに済んでいる。本当にシスターは徹底的すぎるくらいリスク管理を怠っていない。

それにしても、二人の攻防はあまりにも異次元過ぎて、今までシスターが見せつけていた力はほんの小手先にもならない程度しか力を出していなかったというわけか。

「やるわね。でも、これはどうかしら」

今度はインフェルティエの周りに無数の小さな赤い球体のようなものを出現させると、それをシスターの方に一斉に解き放った。

すぐにシスターはバリアを展開し、インフェルティエの爆炎弾を防ぐ。

爆炎弾の威力はそこらの爆弾よりも威力が高く、それでいて振れた物質の細胞を一ミリ残らず破壊してしまうほどの凶悪さを誇っている中、シスターの張ったバリアはそれをものともしない絶対的な強度を誇っていた。

爆炎弾を一通り防ぎきると、目の前にはインフェルティエの姿はなく。

「なるほど。後ろですね」

シスターの予測通り、インフェルティエは爆炎弾の防御に頭のリソースを割いていたシスターの裏をかいて背後へと炎の刀を手にして斬りかかろうとしている。

それに対抗するようにシスターも白い刀を錬成し、インフェルティエの奇襲を見事に防ぎきる。

「悪いけど、こっちはフェイクだよ。ファイヤー」

インフェルティエは左手に刀を持ったまま、右手の人差し指でシスターを指さす。

いくらシスターとはいえ、この至近距離でインフェルティエの炎を食らえば流石に無傷では済まない。

俺たちはそう思っていた。

しかし、シスターはここで回避や防御を選択することなく、右手に構えていた刀を瞬時に左手に持ち替え、空いて右手でインフェルティエの右手首を掴むと、そのまま純血の力によってインフェルティエの右手首ごと吹き飛ばした。

「ちっ」

珍しく舌打ちをした後、インフェルティエはすぐさまシスターから距離を取った。

吹き飛ばれた右手は何かに浄化されるように消えていった。

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