第40話 16話(1)

まるでこのタイミングを計っていたかのように姿を見せたシスター。

一方でそのシスターの登場にさほど驚かない、むしろある程度想定していた様子のインフェルティエ。

互いに純粋な吸血族の血を引く二人がこの状況で顔を合わせたのである。

「久しぶりね。こうしてまともに顔を合わせるのはいつ以来かしら? 純血のシスタルシアさん」

どうやらインフェルティエはシスターのことを知っている様子。

『純血のシスタルシア』

これがシスターの本当の姿で、ヴァンティアという名前はあくまで日常生活を送るための仮の名前ということになる。

「そちらこそ、ようやく尻尾を見せてくれて嬉しい限りです。炎血のインフェルティエ。以前のあなたならもっと簡単に尻尾を掴めると思っていたのですが、まさかここまで頭を使ってくるとは予想していませんでしたよ」

「そりゃあどうも。そこら辺の吸血族相手ならここまでする必要はないんだけど、相手があの純血ならむやみやたらに暴れまわったら間違いなくやられることはちょっと知っていればわかることよ」

シスターとインフェルティエ。

互いにお互いのことを良く知っている様子で、シスターがベラルティア王国に吸血族が潜んでいると言っていたがその潜んでいた人物こそが、インフェルティエのことなのだろう。

「最初はベルクラウスを消した後、自分がこの国のトップになって国を自分の思う通りに操りつつ、それ相応の戦力を整えた上で私を殺しに来ると考えていました。これはあくまで、吸血族が誰なのかを特定できていない段階での仮設ということになりますが。ですが、つい先日行われた王都内の視察を見た時に私の仮説は表向きでしかないことを確信しました」

「なるほど。あの時には既に私のことがバレていたわけか」

「そうですね。私はすぐには手を打たずにあえて本性を見せるまで泳がせていましたが、ホムラ令嬢が偽物ということは一目見た時にすぐにわかりましたよ。見た目と声を偽れば大半の人間は騙せるでしょうが、自分の血までは騙せませんからね。そして、偽物のホムラ令嬢に化けているのがインフェルティエだとすると、国を利用して私を殺すという目的は一緒でも別の手段を使ってくるということは以前からのあなたを見ていれば推測が出来ます。本当は、国のトップになってこの国に住む人々を裏で殺しつつ自らの血として力を増大させるといったところでしょうか」

シスターはかなり前からホムラ令嬢が偽物であり、その正体がインフェルティエであることもわかっていたのか。

そして、目的が国の乗っ取りだけではなく、国を乗っ取ることによって、裏でこの国に住む人たちを殺しつつ、殺した人間の血を奪って自らの力に加えることが目的であるということを推察した。

もしこの仮説が本当なら、インフェルティエはベルクラウスが可愛く見えるほど狂っていることの証明になる。

「もうそこまで知ってるのね。よく何の手掛かりもなしにそこまでに至る結論にたどり着くのは、相当下調べをしたようで」

真っ向から否定しない素振りを見ると、シスターの言っている事は間違っていないということか。

しかし、そこまでわかっていたのに俺たちにはあえて言わなかったのはなぜだろうか。

吸血族の事情を深入りして欲しくないということなのだろうか。

そんな俺たちを横目にシスターは話を続ける。

「もちろん、ただの推測で言っているわけではありません。おおよその証拠は見つけておきました。まず、この国のことを実際に訪問していろいろと調べたうえでわかったことは、ベラルティア王国が平和主義なのは、死者数を偽っているから。ここ10年で殺された人の人数を調べてみたら、最初の3年ほどはそれなりにはいましたが5年ほど前を境に急激に殺人による死者数が減っていました。この傾向をそのまま捉えるのなら、治安が良くなったと言えるかもしれません。ですが実際は、殺された人の死体そのものが遺族に見られることなく、火葬されることなく処理されていました。では、その死体はどこに行ったのか? わかりますか?」

シスターの淡々と話していく内容の一つ一つが最初に聞いていたベラルティア王国のイメージを根本から覆してしまうほどの衝撃的な内容に話を遮って相槌を入れる事すら躊躇してしまうほどであった。

この国に産まれた時から住んでいるリデルも、空気を読んで感情を表に出してはいないが表情や雰囲気から察するに相当ショックを受けているのは想像に難くない。

「そこまで調べてるならもったいぶらなくてもいいでしょ? 仕方なく自白してあげるけど、私が死体から血を奪うために5年前からベルクラウスに頼んで専用の死体処理場を用意してもらったのよ。その場所を知っているのは私も含めた極一部の関係者だけ。そして血を奪った死体は私の炎で完全に燃やしきって証拠隠滅。だから死体の見つかっていない人間はこの国では行方不明という形で処理される」

インフェルティエが参ったと言わんばかりに正直に自分が殺された人間の死体を燃やして処理していたことを認めた。

5年前からやっていたということはリデルの両親が殺された1年後ということになる。

だからインフェルティエはリデルの両親の死体からは血を奪っていないということにも繋がり、直接的な殺人の関与は否定していたと言うわけか。

そんな中、ずっと黙っていたリデルがようやく重い口を開いた。


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