第39話 15話(4)

「そうか。あんたが俺の親を殺害したことに直接関与していないと言っている以上、これ以上続けて聞き出すこともない」

相手が嘘をついている可能性もゼロじゃないのに、これ以上の言及しなかったのは証拠らしい証拠もなく、言ったところでその言葉に真実性があるのか確かめようがなかったからであろう。

「それはどうも。それじゃあ、二つ目の質問ね。まず、暗殺を逃れたのは簡単。私が殺しに来たテロ組織の人間全員を皆殺しにしたからよ」

ある意味、わかり切っていた解答が届いたことにサラディアはさほど驚いている様子はない。むしろ、ある程度想定できていた上で続けて質問を返す。

「なら、どうやって殺したの? 私たちがここに来る前、ホムラ令嬢のいたと思われる専用の部屋の横を通ったけどその時は焦げ臭いにおいも血も死体も転がってなかった。もしかして、ベルクラウスを殺したのと同じ方法であいつらを殺したの?」

俺たちが広場に向かっていた最中、ホムラ令嬢の部屋の近くを通っていたことに気付かなかった。確かに少し遠回り気味で向かっていたとはいえ、よくサラディアは気が付いたものである。いや、むしろ元々サラディア本人がテロ組織の人間だったこともあって、城内の部屋の位置などを正確に把握していたからこその質問か。

「よくわかったね。死体や血が散乱していなかったのは簡単な話よ。私が殺した後に血も死体も燃やしたから。だからにおいそのものがしないのもある意味当然の話。で、私がテロ組織の人間を葬った方法だけど、まずナイフで喉元を切って大量の血を出しておく。吸血族はどれだけの致命傷を食らっても血と吸血族専用の生命器官さえ、あれば後からいくらでも再生可能でね。変身する前のドレスに血が飛び散っていたのはその名残」

テロ組織の人間を殺すためとはいえ、まさか自らの喉元をかき切るまでするとは。

偽物のホムラ令嬢のドレスが一部変色して見えたのは自分の血だったと言うわけか。

どおりで気づけないわけである。

「で、私が喉を切られたことで殺しに来たテロリストたちはこう思ったでしょうね。『死んでいる』と。ベルクラウスから王族関係者の殺害を命じられていたテロリストたちは死んだと思われる私の死体を処理しようと飛び散った血を恐れることなく近づいていく。後は触られる直前で自分の血を起爆させればまとめて一掃できるというわけ。正直、爆発音を出しても良かったんだけど、万が一ベルクラウスに気付かれないように保険をかけておく必要があった。だから自作自演の殺害偽装を使ったの」

インフェルティエが淡々と自らの手口を語っていく様に計り知れない恐怖を感じた。

何より、複数の人間を殺すために自分の喉を切りつけて殺されたように偽装させてまで計画的に動いていたことに底知れない恐怖心が震えあがってくる。

サラディアは驚いた表情こそ、一時は見せたがすぐに表情を戻し

「なるほどね。そりゃあ気づけないわけね」

短いながらも納得した様子で感想を述べた。

一通りの質問を答え切ったインフェルティエはフフフと不敵に笑った後、ゆっくりとこちらに近づきながら言葉を続ける。

「さて。質問会も終わったことだし、そろそろ、終わらせましょうか」

そう言いながらパチンときれいに指を鳴らす。

すると突如、俺たちの体の一部に炎がついている。

「あ、あっつい! い、いつの間に炎が……!」

会話を交わしている最中、特にインフェルティエから何かを仕掛けた様子はなかった。にもかかわらず、俺は右肩、リデルは左わき腹、サラディアは右膝付近から突拍子もなく炎が出ていて、その炎は火傷が可愛らしく思えるほど熱く、激痛が3人を襲う。

「私の炎は全ての生物の血を燃やす。それは例え、皮膚であろうとね。その炎は生物の全てを燃やし、やがて完全に灰となって消える。相手の皮膚に直接発火を起こすのは多少時間がかかるから、わざわざ質問に答えてあげたわけ。まぁ気づいたところで予防も治療も自覚症状もないから防ぎようはないけど」

3人の炎の勢いが次第に増していくのがわかる。

親切に質問に答えていたのは強者の余裕を浮かべていたからではなく、俺たちを確実に仕留めるための時間稼ぎ。

何から何まであらゆる行動が予測できず、それでいてリスク管理も徹底されている。

これは勝てない。

俺の脳も体も本能が強い防御反応を取ってしまうほど、インフェルティエは圧倒的だった。

「さぁ。このまま死ぬよりも辛い人体発火による激痛にうなされて死ぬか、一思いに辺り一帯を破壊する一撃を食らって死ぬ瞬間すら味わうことなく消えるか。あいつと戦えないのは少々残念ですが、これも計画が狂ってしまった以上は致し方なし。私の炎と共にこの国そのものが灰となって存在抹消されるといい」

もはや俺を含めた3人にインフェルティエを止めるための体力は残っていない。

少しでも動かそうものなら体の内部から燃える炎によって動かすことさえ拒絶する激痛が走る。

耐えても地獄、動いても地獄。

もはや俺たちに成すすべ無し。そう思われた。

諦めて視界を閉じようとしたその時。ずっと体内を燃やし続けていた炎が突如として消え、さらにはすさまじい勢いで燃やされた個所が回復し始めている。

「な、なんだこれ……」

いきなり回復したことに俺たちは驚きというか戸惑いを隠せない。

そして、情報を整理するよりも先にインフェルティエに向かって常人には回避不可能の速さで白い光の一撃が飛んできた。

インフェルティエは準備していた一撃を解除し、すぐさま回避する。

その白い光の一撃を見て、インフェルティエは何かを察したかのように高揚感を含んだ笑みを浮かべる。

「ちっ。やっと来やがったか。ついに本命がよ!」

白い煙が徐々に晴れていくと、その一撃を放った人物が姿を見せる。

その姿を見て、俺は圧倒的な安心感に包まれる。

「お待たせしてすみません。ローデンを含め、よく頑張りましたね。ここから先は私たち、吸血族の戦争です」

その正体は間違いなくシスターだった。

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